Soul Togetherness 2012
この時期になると、音楽ファンの皆さんは年間ベスト・アルバムなんかを考え始めているのではないでしょうか。国内外のメディアでも、あちこちで年間ベスト・アルバムの特集が組まれていたりしますが、僕も僅かながらいくつかのメディアで個人ベストなどに参加させてもらっています。最近ですと、ディスクユニオンさんが発行している『黒汁通信』の年間ベスト増刊号『黒汁大賞2012』に“黒ジリスト”のひとりとして今年も参加させていただくことに。黒汁マナー(って?)に則って、新譜・再発合わせた個人ベスト5を選んでいます。また、個人ベストではないですが、タワーレコードさん発行の『bounce』誌では、これまた今年も年間ベスト企画「OPUS OF THE YEAR」(R&B部門など)でアルバムに関するコメントを書いています。今後もまだいくつかあるのですが、今年はせっかくブログを始めたことですし、本ブログでもR&B/ソウルに限定した新譜/再発/シングルの個人ベスト10 と2012年のR&B総括みたいなのをやってみようかと考え中。まあ、自己満足以外の何物でもないですが、R&Bに限って言えば、それを専門に扱う(US R&Bを軸にした)日本のメディアは今や皆無なので、自己満足ついでにまとめておこうかと(予定)。
それにしても、いろいろな雑誌/メディアの年間ベスト・アルバムを見ていて、とても興味深いです。R&Bに関しては、僕の勝手な思い込みかもしれませんが、ロック・ジャーナリズム的価値観で選ばれたそれというか、レフトを気取った欧米の音楽雑誌の価値観が日本にも飛び火して…という感じで、オレンジ色の憎い奴(≠夕刊フジ)とか「消臭力」じゃない方の人の2ndがお約束のようにランクインしていて、へぇと思ったり。もちろん両作とも優れたアルバムだし、実際に今年の〈Soul Train Awards〉でも評価されたわけだけど、R&Bだけは相当な数の作品を聴いてるはずの自分からすると、それだったらあれも…と思うところもある。まあ、ここらへんのことは書き出すとキリがないので止めておきますが、評論家的なポーズをとるために世の風潮に歩調を合わせて、実際はそれほどピンときていないのに、その良さをあえて見出そうとしたり考え始めたりしたらそれは本心ではないと思うので、R&Bリスナーとしては尖がった部分を求めながらも保守的な感覚がベースにある僕のベストは、世間の評価とは少しズレたものになりそうです(既に発表済みのものも含め)。
で、今回は、そんな自分の正直な気持ちを代弁してくれているようなコンピを。UKのエクスパンションから毎年冬が近づくとリリースされる『Soul Togetherness』です。僕の記憶が正しければ第一弾が出たのが2000年。ということは、今回で13タイトル目になるのかな。モダン・ソウルをキーワードに、アーバンでスムーズなソウルを主力とするエクスパンションらしい感覚でその年に話題になった主にインディのR&Bやハウス、クラブ・ジャズ曲を70~80年代ソウルの曲も織り交ぜて収録しているのですが、これが僕の趣味とドンピシャ。特に2012年版の選曲は思いっきり僕好み。しかも今回は、R・ケリー“Share My Love”やアンソニー・ハミルトン“Woo”といったUSのメジャーどころまで入っていて、ソウルペルソナやクール・ミリオン、ジャザノヴァといったヨーロッパのクリエイター(・チーム)が作るダンサブルなナンバーたちの中に違和感なく溶け込んでいる。収録されているのは、必ずしもその年に発表された曲とは限らず、その年にフロアでヘヴィ・プレイされるなどした旧曲も含まれる。例えば、ロウレルの必殺メロウ・ダンサー“Mellow Mellow Right On”を引用したビッグ・ブルックリン・レッドの“Taking It Too Far”は4年ほど前に出ていた曲(これを収録したアルバム『Answer The Call』も好盤!)。どうやらここ2年くらいアンダーグラウンドなフロアで人気だったようで、実際、今年7月にニューヨークで観たヤーザラーのライヴでも開演前にDJがこの曲をかけていた。ネタに頼った曲とはいえ、これは文句なしに気持ちいい。
個人的に一番嬉しかったのが、UKではリール・ピープル・ミュージックと配給契約を結んだフィリーの姉妹デュオ、エイリーズが2010年にデジタル配信して話題を呼んだ爽快メロウなダンサー“Don't Give It Up”の初フィジカル化。70年代後半のテイスト・オブ・ハニーやマイケル・ジャクソンと繋げて聴いても違和感ない曲です。そして、KEMとのデュエットでも知られるデトロイトの歌姫モーリッサ・ローズ。彼女に関しては、アニタ・ベイカーのスピリットを受け継ぐ歌姫と勝手に思っていたのだけど、今回収録された“Thinking About You”をプロデュースしているのは、誰あろう、マイケル・J.パウエルその人であった。これまたスムーズなダンサー系の曲で、パウエルらしいジャジーでアーバンな作法とモーリッサの熱く深みを湛えたヴォーカルが見事な相性をみせる。他にも、ジェラード・アンソニーの新作『Ready To Live』からロニー・ロストン・スミスらをフィーチャーしたウェルドン・アーヴィンfeat.ドン・ブラックマン曲のカヴァー“I Love You”、来日公演も決まったソウル・ジャズ・シンガー、グレゴリー・ポーターの出世曲“1960 What?”のダンサブルなハウス調リミックス(Opolopo Kick & Bass Rerub)などなど、気持ちよすぎる全15曲。主義主張ありげな音楽を腕組んで考えながら聴くより、こういう方がずっと楽しいなぁ…という主義主張をしてしまいましたが、リハビリがてら書いてみました。これを機に、もう少し頻繁に更新していけたらなぁ…と思っています。