SWV / I Missed Us
お試しで3ヵ月やってみます…なんて言ってブログを始めてから、その3ヵ月が過ぎた。が、書いた記事はたったの16本。毎度(自分に)言い訳ばかりしてますが、ちょうどブログを始めた頃から“原稿千本ノック状態”というか、たまたま仕事がバタバタと重なり、ブログ書く暇あるなら仕事の原稿を早く上げるべきだよなぁと思い、控えておりました。で、今後も続けるか否かですが、ありがたいことに本ブログをお読みになってCDを購入されたという方が思いのほか多く、そう言われればやる気も出るってもんで、続けていくことにします。親しい方からは、「文章量が多すぎる…それじゃ続かないよ」とのご指摘もいただいているので、今後は文章量を減らすのが目標。と言いつつ、今回も長いです(笑)。
今回は、再結成を果たしたSWVことSisters With Voicesの15年ぶりとなる新作。4月に発売された輸入(US)盤が既にかなり売れているようですが、自分がライナーノーツを書いた日本盤が6月20日に発売されたので、ここでもちょっと書いておこう。ライナーでは、久々の新作ということもありこれまでの彼女たちの歩みを改めて整理し、その後で新作の内容、プロデューサー/ゲスト陣についてダラダラと書いているわけですが、実はその日本盤を買われた方のために告知しておかなければならいないことがある。まさにライナーノーツのことで。というのも、僕の文章量が多かったせいか改行が全てなくされ、その改行をなくす作業中だったのだろう、ある文章が削られてしまい、ヘンに繋がってしまっているのだ。本来は「3rd『Release Some Tension』を発表。同年のサントラ『Booty Call』にも収録されたミッシー・エリオット客演の“Can We”などで新機軸を打ち出す一方で…」と書いていたところが、〈Some Tension』を発表。同年のサントラ『Booty 〉という部分が抜け落ち、「3rd『Release Call』にも収録されたミッシー・エリオット客演の“Can We”などで新機軸を打ち出す一方で…」となってしまっている。もちろん『Release Call』なんていうアルバムはない(笑)。…今回は自分のミスじゃないが、こういうのを告知できるから、やっぱりブログをやっておくべきなのかも、と思ったり。ともあれ、お買い上げいただいた方、読むに値しないつまらないライナーノーツかもですが、一応僕の方から訂正しておきます。
気を取り直して、新作だ。2005年に活動を再開し、何度か来日公演まで行っていたSWV待望の復活作『I Missed Us』はマス・アピール/E-One(日本盤はビクター)から。結果から言うと、SWVがSWVのまま戻ってきてくれた、90年代R&B万歳!な内容。先行シングルの“Co-Sign”からして、かつてブライアン・アレキサンダー・モーガンが手掛けた“Right Here”や“I'm So Into You”を思い起こさせる90sスタイルのミッド・アップだったわけだけど、アルバムもほぼ全編、溌剌としながらもエレガントで甘酸っぱいあのSWV節が全開で、ココの伸びやかなハイノートがパキーンと響き渡る。全体を通して90年代R&Bへのトリビュート的な気分も漂っていて、アーリー90sマナーのダンサブルな2ndシングル“All About You”なんか、まるでウータン・クランを招いた“Anything”のリミックスを聴いているかのよう。ファットマン・スクープのアゲアゲな声ネタを絡めた定番のビートに、ランDMCなどでお馴染みのボブ・ジェイムズ版“Take Me To The Mardi Gras”のパーカッション&ドラム・ブレイクを挿み、2ndヴァースの冒頭でハイ・ファイヴの91年ヒット“I Like The Way(The Kissing Game)”のリリックを織り込む仕掛けもニクイ。ルーファス&チャカ・カーン“Do You Love What You Feel”を大ネタ使いした性急なアップ“Do Ya”(ちょっぴりメアリー・J・ブライジ“Just Fine”風?)もクセになりそうだ。92年のアルバム・デビューから今年でちょうど20年、よい意味でほとんど変わっていない。
プロデュースを手掛けたのはケイノン・ラム。ミッシー・エリオットと組んで仕事をしてきた人で、ジャズミン・サリヴァンやモニカなどの作品でその名を知る人も多いと思う。(残念ながら?)現在の多くのR&Bプロデューサーがそうであるように突出した個性はないけど、キーシャ・コールのヒップホップ・ソウル・リヴァイヴァル的な“Let It Go”など特定のサウンドの再現に長けた人で、このSWVのアルバムでも彼女たちのシグネイチャー・サウンドを見事に再現。たとえ懐古趣味だと言われようと、ファンが再結成に期待するのはやはり当時の“らしさ”なわけで、そんなファンの期待にラムは真正面から応えてくれているのだ。それでいながら、2012年の音としても説得力を持つあたりは今のプロデューサーならでは、なのかな。9曲目まではそのラムが連続してプロデュースを担当している。その後はブライアン・マイケル・コックスとアイヴァン・バリアス&カーヴィン・ハギンズの制作曲が登場。特にアイヴァン&カーヴィンが手掛けた“Love Unconditionally”(最新シングル)はキーシャ・コールの“Love”を思わせるようなスロウで、これもヤラレタという感じだ。
本編ラストは、ココが近年のライヴで定番としているパティ・ラベルの83年ヒットのカヴァー“If Only You Knew”。ライヴでもそうだが、ほとんどココのソロといった感じで、プロデュースもココの旦那のマイケル・クレモンズが手掛けている。これで終わっても十分満足なんだけど、日本盤には米ターゲット限定盤に準拠した形で3曲のボーナス・トラックを収録。うち2曲はラムの制作で、“Free You”という今風なミディアム・アップ(これも良い!)とラムがLambo名義で客演した“Co-Sign”のリミックス。が、個人的に興奮したのは、スウィッチの78年ヒットのカヴァー“There'll Never Be”(プロデュースはマイケル・クレモンズ)。SWVは以前本国で放映されていたTVドラマ・シリーズ「New York Undercover」に登場してこの曲を歌っていたので、おそらくその頃から自分たちのレパートリーとしてキープしていたのだろう。
SWV人気を不動のものとした、マイケル・ジャクソン“Human Nature”使いの“Right Here/Human Nature Remix”。それを引用して、昨年クリス・ブラウンが“She Ain't You”という曲を発表し、その公式リミックスにSWVが参加していたこともファンの間ではお馴染みだろう。このことが今回の復活(アルバム)を後押ししたと言えなくもない。が、それ以前に、今回の復活は、リード・シンガーであるココがゴスペル・シンガーとして(も)活動し続け、あの透明感のある突き抜けるような歌声を保っていたことが大きい。最近も、フィラデルフィアのトロンボーン奏者ジェフ・ブラッドショウの新作で見事な美声を披露していたけど、やはりココのあの声あってこそのSWV。もちろん、SWVとして復活したからにはタージとリリーの見せ場もあるわけですが。
『I Missed Us』というアルバム・タイトルは、しばらくファンとお別れしてしまっていたこと、そして自分たち3人も離れ離れになってしまったことを意味するという。“会えなくて寂しかったわ”とでも解釈すればいいのかな。とにかく、自分を含む30代後半から40代前半のR&Bリスナーの懐古趣味をいたく刺激する作品。いわゆる最先端の音じゃないし、じゃあ次作はどうなるの?といった疑問もなくはないのだけど、懐かしさ込みで単純に嬉しい復活でしょう。実際、既に多くのR&Bファンが2012年のベスト・アルバム候補に挙げている。僕も2012年のベスト5には入るんじゃないかと思っている。7月上旬にはニューオーリンズで行われるEssence Music Festivalに出演し、8月中旬にはビルボードライブでの来日公演も決定。新作を携えてのライヴも楽しみだ。