Philadelphia International Records~The 40th Anniversary Box Set
ちょっとばかり紹介が遅れてしまったが、既にソウル・ファン、フィリー・ソウル好きの間で話題になっているフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)の創立40周年記念ボックスが届いた。英Harmlessからのリリースで、以前こちらの記事の最後でも軽く触れたように、PIR及びTSOPなどのサブ・レーベルの音源を交えたCD10枚組。全175曲という特大ヴォリュームのボックスだ。これで7,000円前後なのだから結構お買い得!?
フィリー・ソウル(PIR)のボックスというと、本国USではソニー/レガシーからギャンブル&ハフの仕事をまとめた『The Philly Sound:Kenny Gamble,Leon Huff & The Story Of Brotherly Love(1966‐1976)』という3枚組のCDボックスが97年に登場。これはまだ(ジャクソンズ以外の)76年以降のPIR音源の権利がソニーに戻っていない時のもので、それをカバーすべくPIR設立以前のウィルソン・ピケットやローラ・ニーロなんかの“第一期フィリー詣で”なシグマ録音曲も収録していた。で、76年以降の音源がソニーに戻ってからは、アヴコのスタイリスティックスやアトランティックのスピナーズなどの曲も交えた4枚組『Love Train:The Sound Of Philadelphia』が2008年(日本盤は2009年)に登場。ギャンブル&ハフやトム・ベルなど関係者のインタヴューや回想を載せたブックレットも結構な評判を呼んだ。日本盤のライナーノーツ(序文+71曲分の楽曲紹介)は自分がやっていて、2009年の正月に必死で書いたことを思い出す。一方、ヨーロッパ発のボックスでは、イギリスのストリート・サウンズから86年に出たLP14枚組セット『The Philadelphia Story』が有名。これは当時決定版とされた。それと、76年以降の権利が切れる直前にフランスのKnightレコーズが89年に出した『Philadelphia Years』というボックス(CD、LP、カセットで発売)。個人的にはこれを10代後半に聴きまくっていた。ニュー・ジャック・スウィングなんかと一緒に。
そこで今回、英Harmlessから登場した40周年記念ボックス。これまでのボックス、特にUSリリースのものは基本的に年代順に曲を並べてヒストリー性を重視していたが、今回のボックスは全体を通して何となく年代順ではあるものの、1枚のディスクにいろんな年代の曲が入っていて、ディスクごとに何となくテーマが設定されている(特に明記されているわけではない)。選曲/監修は、エクスパンション・レコーズを主宰するラルフ・ティー。英国人ソウル・マニアの彼らしい選曲(グルーヴィーでメロウなそれ)になっているのだけど、実は先述のLP14枚組『The Philadelphia Story』もラルフの監修で、本ボックスはそのLP14枚組をベースにしているようだ。もっとも、そのLP14枚組が発売されてから今や25年以上経っているわけで、今回は、80年代中期以降にEMIマンハッタンが、90年代にZOOエンタテインメントが配給していた時期のPIR音源も収録。もちろんオージェイズをはじめとする70年代のPIR名曲はひと通り収録されている。
注目はやはり、以前チラッと触れたディスク3か。当初アナウンスされていた収録曲とは若干異なるが、一昨年に日本でもCD化されたハワイのディック・ジェンセンをはじめ、エボニーズやアンソニー・ホワイトの昂揚感溢れる7インチ・オンリー曲、同じく7インチ・オンリーでゴールデン・フリース原盤となるラヴ・コミッティのダンサーとエシックスのスロウ、TSOP原盤となるカレイドスコープの素敵すぎるフィリー・ダンサー、トム・ベルが送り出した兄妹デュオのデレク&シンディによる“黒いカーペンターズ”風なバラード(サンダー原盤)……と、アナログだと結構レアな曲が並ぶ。あと、個人的に興味深かったのがディスク7。ここに並ぶのはジャズ、ジャズ・ファンク、ジャジー・スタイルのソウルで、マイケル・ペディシンJr.、モンク・モンゴメリー、それにノーマン・ハリスやリオン・ハフといった楽器奏者の曲が多め。全米屈指のジャズ・タウンでもあるフィラデルフィアのレーベルだけに、こうしたジャズにも力を入れていたのだ。ディスク7にはフィリス・ハイマンの没後に出された91年録音のラテン・タッチなアップ・チューン“Forever With You”も収録。ここでのジャジーで優雅なグランドピアノのプレイは、当時PIRで修業中だったジェイムズ・ポイザーだったりします。
他にも、何となくレア・グルーヴな選曲のディスク6、ステッパーズとして好まれる曲を集めたディスク8(スタイリスティックスの“Mine All Mine”とか!)あたりが個人的にはツボ。シャーリー・ジョーンズやフィリス・ハイマン、デルズなど、80年代中期以降の曲が多く並ぶディスク10もいいかな。正規では初公開となるジョーンズ・ガールズの美麗なミディアム“Baby Don't Go Yet”も入っている。デルズは92年にZOO配給のPIRから出したアルバム『I Salute You』の曲を収録。デルズといえば、PIR設立当初ギャンブル&ハフが獲得しようとするも叶わなかったグループ。代わりに連れてきたのが、デルズのマーヴィン・ジュニアに似たバリトン・ヴォイスのテディ・ペンダーグラスを擁するハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツだったというのはよく知られた話。それが20年近くを経てデルズ獲得となったわけで、このボックスでは、そんなPIR/ギャンブル&ハフのストーリーを通して見ることもできる。ちなみにデルズは70年代のPIRではレコードを作らなかったが、77年にマーキュリーからノーマン・ハリスらのバックアップによるシグマ録音のアルバムを2枚発表。それらは最近、デイヴィッド・ネイザンが主宰するイギリスのSoulmusic.comからボーナス・トラック付きで再発された(これも良いです)。
楽曲ごとの解説、品番つきのディスコグラフィーを掲載した50ページ以上に及ぶブックレットも力作。これだけでも十分価値がある。そして、箔押しというかデボス加工されたPIRのレーベルロゴが金に輝くシックな黒地のボックス。どこかの高級ブランドみたいな箱で…PIRの音楽は金持ちに向けたようなものじゃないけど、40周年記念ってことで、これくらい豪華でもいいでしょう。今やPIRというレーベル自体がブランドですし。僕が言うこともないけど、ブラック・ミュージック愛好家はマスト!って感じで興奮しすぎたのか、以前予約していたのを忘れて某ネット・ショップで再び購入ボタンを押してしまったようで…ウチには2箱あります(笑)。まあ、これくらいよく出来た箱なら2つ持っててもいいか。今後はPIR以外の、アトランティックやブッダとかに残されたフィリー録音曲を集めたボックスも期待したいところ。いつか自分で作ってみたいなぁ。
