Philadelphia International Classics:The Tom Moulton Remixes
ちょっと間があいてしまった。書いておきたいアルバムが本当にたくさんあるのだけど、なかなか書く時間(というか気力ですね…)がない。新譜ではメラニー・フィオナ、サイ・スミス、SWV、ジョイ・デナラーニ(の英語詞盤)、キャリン・ホワイト、Kジョン、テイク・6などなど…と、今後取り上げる予定のものを忘れないように、ここにメモしておきます(笑)。リイシューはもっとあるのですが。
さて、前回は昨年デビュー40周年を迎えたEW&Fについて書いたが、今回は同じく昨年創立40周年を迎えたフィリー・ソウルの総本山、フィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)のリイシューについてサラッと。PIRといえば、一昨年に日本のソニーから未CD化のアルバムを含む再発が行われるも、昨年は日本も海外もPIRのリイシューに関してはほとんど音沙汰なし。
ところが今年に入って、米レガシー/ソニーからPIRのコンヴェンション・ライヴの模様を収めた『Golden Gate Groove:The Sound Of Philadelphia~Live In San Francisco 1973』が発売。このライヴ、あのドン・コーネリアスが司会進行役なんだけど、ちょうどドンが他界した頃に発売されたのは皮肉というか何というか。そして今年は英Harmlessも一年遅れでPIRの創立40周年を祝って数種のコンピをリリースする。で、まず届いたのが、トム・モールトンがリミックスしたPIR名曲からなるCD4枚組セット。わりと詳細なブックレット(英文ライナー)もついて3,000円以内で買えるお得盤だ。トム・モールトンがフィリー・ソウルをいじったものではフィリー・グルーヴの音源を使った『Philly Re-Grooved』が現時点で第2集(第3集も発売予定)まで出ているけど、PIR音源となると、曲が有名なぶんオリジナルとの違いが判りやすいというか、あの名曲がどうミックスされてるんだろう?っていう興味が二倍増し。
トム・モールトンは言わずと知れたリミキサー/エンジニア。ディスコ・ミックスの元祖的な存在で、リミックスという概念は彼の行為によって生まれたとされる。たまにDJと間違われることもあるが、この人はラリー・レヴァンみたいなDJが現場でプレイするためのダンス・ミックスをシコシコと作っていた、いわばテープ職人。もともとモデルをやっていた人で、ダンス・フロアでいい曲がかかるのに3分ぐらいで終わってしまい、それだと踊るには短すぎるっていうんで、インストの気持ち良い部分などを引き延ばしたりピッチを変えたりして長尺ヴァージョンを作り始めた…っていろんなところに書かれてますが。まあ、そういう意味では非常にDJ的なセンスを持った人ではある。オリジナルの楽曲にさらなる昂揚感を加えたモールトンのミックスはたちまち評判になり、70年代後期にはいろいろなレコードに〈A Tom Moulton Mix〉という文字が刻まれ、ブランド化。しまいにはプロデュースにも乗り出し、TJMというプロジェクトのレコードまで出してしまった。今も現役で、近年はブラン・ニュー・ヘヴィーズやクール・ミリオンらのアルバムをモールトンがいじった“リミックス・アルバム”なんかも出している。
そんなモールトンのPIRリミックス集。11分に及ぶMFSBの“Love Is The Message”など70年代にモールトンが手掛けた伝説的リミックスから、2011年に新たにミックスされた楽曲まで、計31曲が収められている。各曲の尺は6~10分くらい。ノーマン・ハリスのギターやらロニー・ベイカーのベースやらアール・ヤングのドラムスやらラリー・ワシントンのパーカッションやらが浮き彫りにされ、グイグイ迫ってくる感じがたまりません。それぞれの曲がどんな仕上がりなのかは実際に聴いていただくとして。ただ、“リミックス”とはいうものの、普通にPIRの名曲集としても楽しめる内容だったりもします。あと、どさくさに紛れてトランプスにいたロバート・アップチャーチのシングルが初CD化されていたりするのも面白い。Harmlessからは今後、PIR~TSOPの名曲を集めた40周年記念10枚組ボックスも登場予定! カレイドスコープのシングルなど初CD化の曲も多く、特にディスク3が凄い!と先日もFacebookで盛り上がったばかりなのだが、これはまた発売され時に熱く語り倒します(笑)。
ちなみに一連のフィリー・ソウル再発については、HMVさんのサイトでも特集されているので、そちらもどうぞ!
