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2012年12月

KEM / What Christmas Means

KEM Christmas今年もクリスマスがやってきました。クリスマスは大好きです。ただし僕の場合は、“欧米の文化”として、遠い日本から憧れを抱きつつ眺めるのが好きというか、しんしんと雪が降る街や山村などで人々がクリスマス(・イヴ)を静かに過ごしている映像をTVなんかで観ていると、とても幸せな気持ちになります。日本で言うなら、大晦日に「ゆく年くる年」が始まって、外からかすかに聞こえてくる除夜の鐘を耳にしながら新年を迎えるあの感じでしょうか。個人的には宗教的に全くの部外者なわけですが、それでもゴスペルを好んで聴くのと同様、クリスマスもそれ関連の音楽や映像などを楽しんでいます。もちろんクリスマス/ホリデイ・アルバムも大好きで、R&B/ソウル系アーティストのそれは、目にしたものはほぼ全て買っているかな。聴きなれたクリスマス・スタンダードでもアーティストごとに解釈が違って、それぞれのシグネイチャー・スタイルがかえって浮き彫りになるというか、その人の持ち味を再確認できたり、チャーチ・ルーツが覗けたりするのが興味深いですよね。

今年も素敵なクリスマス・アルバム/ソングがリリースされました。デジタル配信限定のものも合わせるとアルバム/シングルともに夥しい数の作品が出ているわけですが、配信限定では、R&Bファン悶絶のメンツ(90年代復活組がヤバい!)が揃ったJ・ダブ監修の『Christmas At My House』がダントツでよかったです(8ドルで購入可)。フィジカルでは、シーロー・グリーンのもまずまずでしたが、ネオ・ソウル好きの僕としては、アトランタの実力派歌姫ロンダ・トーマスの『Little Drummer Girl』(本人のHPから直接購入)がベストでした。エリック・ロバーソンとデュエットしたオリジナル・ソング“Mistletoe”が蕩けそうなほどメロウな曲で、これだけでも買いです。

リイシュー系だと、ルーサー・ヴァンドロスが95年に出したクリスマス・アルバムの改訂増補的な編集盤『The Classic Christmas Album』が実は見逃せない一枚。正直、最初はルーサーだから…と惰性で買ったのですが、チャカ・カーンとデュエットしたライヴ音源が初音盤化となっていたり、あの「ルーサー」時代にコティリオン・レーベルのクリスマス・アルバム『Funky Christmas』(76年)に提供した2曲(91年に一度CD化)が加えられているので、ファンは必携でしょう。ポール・ライザーがアレンジした“At Christmas Time”の美しいこと。あと、海外では何度かCD化されていたサルソウル・オーケストラのクリスマス・アルバム『Christmas Jollies』(76年)が、ようやく日本盤CDとして登場。ヴィンセント・モンタナの娘デニース・モンタナが歌う“Merry Christmas All”がとにかく大好きで、これは僕のクリスマス定番曲になってます(この曲のモンタナ・オーケストラ版のミュージック・ヴィデオもあった!)。そういえば11年前のちょうど今頃、初めてフィラデルフィアを訪れた時に、The Studioでラリー・ゴールドを取材した後、立ち寄ったフィリー名物のチーズ・ステーキ屋でかかっていたWDAS-FMからこの曲が流れてきて感激したのですが、DJが「フィリー、フィリー!」と得意気にこの曲をかけていたように、フィラデルフィアでは地元を代表するホリデイ・ソングのひとつとして親しまれているようです。

そんななか
今年R&Bファンの間で最も話題になったのが、念願の来日公演も決まったKEMのクリスマス・アルバム。日本盤が一度も出されていなけどアメリカのブラック・コミュニティでは絶大な人気を誇る彼の素晴らしさを、これまで拙い文章で必死に訴えてきた僕ですが(『Intimacy』リリース時のbounce誌の記事はコチラ)、こうしてメジャーのモータウンからクリスマス・アルバムを出せたことが本国での人気を証明しています。2003年のメジャー・デビューから9年。現在は、過去のホームレス体験などを活かして地元デトロイトでホームレス支援コンサートなんかを行っているKEMですが、かつて帰る場所がなく辛く寂しいクリスマスを過ごしていただろう彼が、こうしてクリスマス・アルバムを作るまでの大物になったという事実にグッとくるものがあります。

アルバムは、これまでも共同作業をしてきた名手レックス・ライダウトがプロダクションに関わり、先のルーサーにも関わっていたデトロイトの巨匠ポール・ライザーがオーケストラ・アレンジを担当。メラニー・ラザフォード(デトロイト・ヒップホップ勢との絡みで知られる才女)などと共作したオリジナルも、クリスマス・スタンダードも、KEMらしいシンプルで静謐な美しくロマンティックな音世界が広がり、厳寒のデトロイトの雪景色が眼前に浮かんでくるかのようです。冒頭の“Glorify The King”ではクワイアを従え、いきなり厳かな気分に。ビリー・ポール“Me And Mrs.Jones”のメロディをベースにした“Be Mine For Christmas”では、レックスとの繋がりから、Essence Music Festivalでも共演したことがあるレディシとデュエット。オリジナル・アルバムにも関わっていたフィリーのヴェテラン・ギタリスト、ランディ・ボウランド(来日公演にも同行予定!)もいい音を鳴らしていて、スタンダードの“The Christmas Song”ではジャジーなソロを披露してくれてます。

最後の“Doo Wop Christmas(That's What Christmas Is All About)”は、表題通りドゥー・ワップ・スタイルのア・カペラ・ソング。KEMとともに50~60年代のドゥー・ワップ・グループを気取ってみせるのはハーシェル・ブーンとクリス・マッキーで、バック・ヴォーカルには、あのフローターズ(デトロイト出身)のラルフ・ミッチェルらも名を連ねている。ハーシェル・ブーンは、ブーン兄弟からなるデトロイト(Detroyt)のメンバーとして84年にタブーからアルバムを出していたあの人のはずで(兄弟のカーティス・ブーンは、近年もアレサ・フランクリンなどを手掛けている名裏方)、2010年に出したソロEP『To Be With You』も滅法素晴らしいので(盤はCD-Rですが)、R&Bファンは要チェック。それにしても、どこまでもデトロイトにこだわるKEMの地元愛には頭が下がります。

25日が終わったとたん、日本では一気に正月モードに突入しますが、アフリカン・アメリカンの間では26日から1月1日にかけてポスト・クリスマス的なクワンザ(Kwanzaa)というお祭りがあります。どんなお祭りなのかはコチラを見ていただくとして、貧しい人たちがクリスマス後の値下がり品を買ってお祝いする…みたいなそれには、何だか心温まると同時にウルッとくるものがありますね。まあ、アフリカン・アメリカンではない日本人は黙って眺めているしかない祭事なのですが、ブラック・ミュージック・ファンは25日が終わってもクワンザがありますよ…ということで。先のロンダ・トーマスもそうですが、クワンザにちなんだ曲が入っているクリスマス盤も結構あります。要らぬお世話かもですが、ブラック・ミュージック専門のレコード・ショップさんには、この時期、クリスマス・アルバムなどを含めて余剰在庫品を安値で放出する“Happy Kwanzaaセール”みたいなのをやってもらえると嬉しいかもしれません…なんてことを思う2012年のクリスマスでした。



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Soul Togetherness 2012

Soul 20123月にブログを始めてから早9ヵ月、2012年も残すところあと僅かとなってしまった。当初の予想通り(?)定期的には更新できず、8月以降はR・ケリーの新作について書いたきり3ヶ月以上放置し、11月になってEssence Music Festivalの座談会リポート3日分+序文をアップしたものの再び放置状態…。今年は、おかげさまで随分忙しくさせてもらいまして。まあ、皆さんお忙しいので、そのおこぼれが端くれの僕にも回ってきたのだと思いますが、レギュラーの雑誌や不定期の刊行物に加え、例年なら年間20本書くか書かないかだったCDのライナーノーツを、今年は一ヵ月に20本以上書く月もあったりで、物事をじっくり考える余裕がなかった。特にオリンピックあたりからアレコレとあり、ブログを書く時間がないというか気力ゼロ…と言いつつ、TwitterとかFacebookには仕事のネタ+αをちょくちょく書き込んでいたのだけど、原稿を書いた後にさらに文章を書くというタフさが残念ながら僕にはないようです(苦笑)。そんなこんなで、やはりブログはやらないほうがよかったのかなぁ…などと思い始めてもいる今日この頃ですが、年末進行も一段落したので再開してみました。

この時期になると、音楽ファンの皆さんは年間ベスト・アルバムなんかを考え始めているのではないでしょうか。国内外のメディアでも、あちこちで年間ベスト・アルバムの特集が組まれていたりしますが、僕も僅かながらいくつかのメディアで個人ベストなどに参加させてもらっています。最近ですと、ディスクユニオンさんが発行している『黒汁通信』の年間ベスト増刊号『黒汁大賞2012』に“黒ジリスト”のひとりとして今年も参加させていただくことに。黒汁マナー(って?)に則って、新譜・再発合わせた個人ベスト5を選んでいます。また、個人ベストではないですが、タワーレコードさん発行の『bounce』誌では、これまた今年も年間ベスト企画「OPUS OF THE YEAR」(R&B部門など)でアルバムに関するコメントを書いています。今後もまだいくつかあるのですが、今年はせっかくブログを始めたことですし、本ブログでもR&B/ソウルに限定した新譜/再発/シングルの個人ベスト10 と2012年のR&B総括みたいなのをやってみようかと考え中。まあ、自己満足以外の何物でもないですが、R&Bに限って言えば、それを専門に扱う(US R&Bを軸にした)日本のメディアは今や皆無なので、自己満足ついでにまとめておこうかと(予定)。

それにしても、いろいろな雑誌/メディアの年間ベスト・アルバムを見ていて、とても興味深いです。R&Bに関しては、僕の勝手な思い込みかもしれませんが、ロック・ジャーナリズム的価値観で選ばれたそれというか、レフトを気取った欧米の音楽雑誌の価値観が日本にも飛び火して…という感じで、オレンジ色の憎い奴(≠夕刊フジ)とか「消臭力」じゃない方の人の2ndがお約束のようにランクインしていて、へぇと思ったり。もちろん両作とも優れたアルバムだし、実際に今年の〈Soul Train Awards〉でも評価されたわけだけど、R&Bだけは相当な数の作品を聴いてるはずの自分からすると、それだったらあれも…と思うところもある。まあ、ここらへんのことは書き出すとキリがないので止めておきますが、評論家的なポーズをとるために世の風潮に歩調を合わせて、実際はそれほどピンときていないのに、その良さをあえて見出そうとしたり考え始めたりしたらそれは本心ではないと思うので、R&Bリスナーとしては尖がった部分を求めながらも保守的な感覚がベースにある僕のベストは、世間の評価とは少しズレたものになりそうです(既に発表済みのものも含め)。

で、今回は、そんな自分の正直な気持ちを代弁してくれているようなコンピを。UKのエクスパンションから毎年冬が近づくとリリースされる『Soul Togetherness』です。僕の記憶が正しければ第一弾が出たのが2000年。ということは、今回で13タイトル目になるのかな。モダン・ソウルをキーワードに、アーバンでスムーズなソウルを主力とするエクスパンションらしい感覚でその年に話題になった主にインディのR&Bやハウス、クラブ・ジャズ曲を70~80年代ソウルの曲も織り交ぜて収録しているのですが、これが僕の趣味とドンピシャ。特に2012年版の選曲は思いっきり僕好み。しかも今回は、R・ケリー“Share My Love”やアンソニー・ハミルトン“Woo”といったUSのメジャーどころまで入っていて、ソウルペルソナやクール・ミリオン、ジャザノヴァといったヨーロッパのクリエイター(・チーム)が作るダンサブルなナンバーたちの中に違和感なく溶け込んでいる。収録されているのは、必ずしもその年に発表された曲とは限らず、その年にフロアでヘヴィ・プレイされるなどした旧曲も含まれる。例えば、ロウレルの必殺メロウ・ダンサー“Mellow Mellow Right On”を引用したビッグ・ブルックリン・レッドの“Taking It Too Far”は4年ほど前に出ていた曲(これを収録したアルバム『Answer The Call』も好盤!)。どうやらここ2年くらいアンダーグラウンドなフロアで人気だったようで、実際、今年7月にニューヨークで観たヤーザラーのライヴでも開演前にDJがこの曲をかけていた。ネタに頼った曲とはいえ、これは文句なしに気持ちいい。

個人的に一番嬉しかったのが、UKではリール・ピープル・ミュージックと配給契約を結んだフィリーの姉妹デュオ、エイリーズが2010年にデジタル配信して話題を呼んだ爽快メロウなダンサー“Don't Give It Up”の初フィジカル化。70年代後半のテイスト・オブ・ハニーやマイケル・ジャクソンと繋げて聴いても違和感ない曲です。そして、KEMとのデュエットでも知られるデトロイトの歌姫モーリッサ・ローズ。彼女に関しては、アニタ・ベイカーのスピリットを受け継ぐ歌姫と勝手に思っていたのだけど、今回収録された“Thinking About You”をプロデュースしているのは、誰あろう、マイケル・J.パウエルその人であった。これまたスムーズなダンサー系の曲で、パウエルらしいジャジーでアーバンな作法とモーリッサの熱く深みを湛えたヴォーカルが見事な相性をみせる。他にも、ジェラード・アンソニーの新作『Ready To Live』からロニー・ロストン・スミスらをフィーチャーしたウェルドン・アーヴィンfeat.ドン・ブラックマン曲のカヴァー“I Love You”、来日公演も決まったソウル・ジャズ・シンガー、グレゴリー・ポーターの出世曲“1960 What?”のダンサブルなハウス調リミックス(Opolopo Kick & Bass Rerub)などなど、気持ちよすぎる全15曲。主義主張ありげな音楽を腕組んで考えながら聴くより、こういう方がずっと楽しいなぁ…という主義主張をしてしまいましたが、リハビリがてら書いてみました。これを機に、もう少し頻繁に更新していけたらなぁ…と思っています。


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