2012年12月25日
KEM / What Christmas Means
今年もクリスマスがやってきました。クリスマスは大好きです。ただし僕の場合は、“欧米の文化”として、遠い日本から憧れを抱きつつ眺めるのが好きというか、しんしんと雪が降る街や山村などで人々がクリスマス(・イヴ)を静かに過ごしている映像をTVなんかで観ていると、とても幸せな気持ちになります。日本で言うなら、大晦日に「ゆく年くる年」が始まって、外からかすかに聞こえてくる除夜の鐘を耳にしながら新年を迎えるあの感じでしょうか。個人的には宗教的に全くの部外者なわけですが、それでもゴスペルを好んで聴くのと同様、クリスマスもそれ関連の音楽や映像などを楽しんでいます。もちろんクリスマス/ホリデイ・アルバムも大好きで、R&B/ソウル系アーティストのそれは、目にしたものはほぼ全て買っているかな。聴きなれたクリスマス・スタンダードでもアーティストごとに解釈が違って、それぞれのシグネイチャー・スタイルがかえって浮き彫りになるというか、その人の持ち味を再確認できたり、チャーチ・ルーツが覗けたりするのが興味深いですよね。
今年も素敵なクリスマス・アルバム/ソングがリリースされました。デジタル配信限定のものも合わせるとアルバム/シングルともに夥しい数の作品が出ているわけですが、配信限定では、R&Bファン悶絶のメンツ(90年代復活組がヤバい!)が揃ったJ・ダブ監修の『Christmas At My House』がダントツでよかったです(8ドルで購入可)。フィジカルでは、シーロー・グリーンのもまずまずでしたが、ネオ・ソウル好きの僕としては、アトランタの実力派歌姫ロンダ・トーマスの『Little Drummer Girl』(本人のHPから直接購入)がベストでした。エリック・ロバーソンとデュエットしたオリジナル・ソング“Mistletoe”が蕩けそうなほどメロウな曲で、これだけでも買いです。
リイシュー系だと、ルーサー・ヴァンドロスが95年に出したクリスマス・アルバムの改訂増補的な編集盤『The Classic Christmas Album』が実は見逃せない一枚。正直、最初はルーサーだから…と惰性で買ったのですが、チャカ・カーンとデュエットしたライヴ音源が初音盤化となっていたり、あの「ルーサー」時代にコティリオン・レーベルのクリスマス・アルバム『Funky Christmas』(76年)に提供した2曲(91年に一度CD化)が加えられているので、ファンは必携でしょう。ポール・ライザーがアレンジした“At Christmas Time”の美しいこと。あと、海外では何度かCD化されていたサルソウル・オーケストラのクリスマス・アルバム『Christmas Jollies』(76年)が、ようやく日本盤CDとして登場。ヴィンセント・モンタナの娘デニース・モンタナが歌う“Merry Christmas All”がとにかく大好きで、これは僕のクリスマス定番曲になってます(この曲のモンタナ・オーケストラ版のミュージック・ヴィデオもあった!)。そういえば11年前のちょうど今頃、初めてフィラデルフィアを訪れた時に、The Studioでラリー・ゴールドを取材した後、立ち寄ったフィリー名物のチーズ・ステーキ屋でかかっていたWDAS-FMからこの曲が流れてきて感激したのですが、DJが「フィリー、フィリー!」と得意気にこの曲をかけていたように、フィラデルフィアでは地元を代表するホリデイ・ソングのひとつとして親しまれているようです。
そんななか今年R&Bファンの間で最も話題になったのが、念願の来日公演も決まったKEMのクリスマス・アルバム。日本盤が一度も出されていなけどアメリカのブラック・コミュニティでは絶大な人気を誇る彼の素晴らしさを、これまで拙い文章で必死に訴えてきた僕ですが(『Intimacy』リリース時のbounce誌の記事はコチラ)、こうしてメジャーのモータウンからクリスマス・アルバムを出せたことが本国での人気を証明しています。2003年のメジャー・デビューから9年。現在は、過去のホームレス体験などを活かして地元デトロイトでホームレス支援コンサートなんかを行っているKEMですが、かつて帰る場所がなく辛く寂しいクリスマスを過ごしていただろう彼が、こうしてクリスマス・アルバムを作るまでの大物になったという事実にグッとくるものがあります。
アルバムは、これまでも共同作業をしてきた名手レックス・ライダウトがプロダクションに関わり、先のルーサーにも関わっていたデトロイトの巨匠ポール・ライザーがオーケストラ・アレンジを担当。メラニー・ラザフォード(デトロイト・ヒップホップ勢との絡みで知られる才女)などと共作したオリジナルも、クリスマス・スタンダードも、KEMらしいシンプルで静謐な美しくロマンティックな音世界が広がり、厳寒のデトロイトの雪景色が眼前に浮かんでくるかのようです。冒頭の“Glorify The King”ではクワイアを従え、いきなり厳かな気分に。ビリー・ポール“Me And Mrs.Jones”のメロディをベースにした“Be Mine For Christmas”では、レックスとの繋がりから、Essence Music Festivalでも共演したことがあるレディシとデュエット。オリジナル・アルバムにも関わっていたフィリーのヴェテラン・ギタリスト、ランディ・ボウランド(来日公演にも同行予定!)もいい音を鳴らしていて、スタンダードの“The Christmas Song”ではジャジーなソロを披露してくれてます。
最後の“Doo Wop Christmas(That's What Christmas Is All About)”は、表題通りドゥー・ワップ・スタイルのア・カペラ・ソング。KEMとともに50~60年代のドゥー・ワップ・グループを気取ってみせるのはハーシェル・ブーンとクリス・マッキーで、バック・ヴォーカルには、あのフローターズ(デトロイト出身)のラルフ・ミッチェルらも名を連ねている。ハーシェル・ブーンは、ブーン兄弟からなるデトロイト(Detroyt)のメンバーとして84年にタブーからアルバムを出していたあの人のはずで(兄弟のカーティス・ブーンは、近年もアレサ・フランクリンなどを手掛けている名裏方)、2010年に出したソロEP『To Be With You』も滅法素晴らしいので(盤はCD-Rですが)、R&Bファンは要チェック。それにしても、どこまでもデトロイトにこだわるKEMの地元愛には頭が下がります。
25日が終わったとたん、日本では一気に正月モードに突入しますが、アフリカン・アメリカンの間では26日から1月1日にかけてポスト・クリスマス的なクワンザ(Kwanzaa)というお祭りがあります。どんなお祭りなのかはコチラを見ていただくとして、貧しい人たちがクリスマス後の値下がり品を買ってお祝いする…みたいなそれには、何だか心温まると同時にウルッとくるものがありますね。まあ、アフリカン・アメリカンではない日本人は黙って眺めているしかない祭事なのですが、ブラック・ミュージック・ファンは25日が終わってもクワンザがありますよ…ということで。先のロンダ・トーマスもそうですが、クワンザにちなんだ曲が入っているクリスマス盤も結構あります。要らぬお世話かもですが、ブラック・ミュージック専門のレコード・ショップさんには、この時期、クリスマス・アルバムなどを含めて余剰在庫品を安値で放出する“Happy Kwanzaaセール”みたいなのをやってもらえると嬉しいかもしれません…なんてことを思う2012年のクリスマスでした。
今年も素敵なクリスマス・アルバム/ソングがリリースされました。デジタル配信限定のものも合わせるとアルバム/シングルともに夥しい数の作品が出ているわけですが、配信限定では、R&Bファン悶絶のメンツ(90年代復活組がヤバい!)が揃ったJ・ダブ監修の『Christmas At My House』がダントツでよかったです(8ドルで購入可)。フィジカルでは、シーロー・グリーンのもまずまずでしたが、ネオ・ソウル好きの僕としては、アトランタの実力派歌姫ロンダ・トーマスの『Little Drummer Girl』(本人のHPから直接購入)がベストでした。エリック・ロバーソンとデュエットしたオリジナル・ソング“Mistletoe”が蕩けそうなほどメロウな曲で、これだけでも買いです。
リイシュー系だと、ルーサー・ヴァンドロスが95年に出したクリスマス・アルバムの改訂増補的な編集盤『The Classic Christmas Album』が実は見逃せない一枚。正直、最初はルーサーだから…と惰性で買ったのですが、チャカ・カーンとデュエットしたライヴ音源が初音盤化となっていたり、あの「ルーサー」時代にコティリオン・レーベルのクリスマス・アルバム『Funky Christmas』(76年)に提供した2曲(91年に一度CD化)が加えられているので、ファンは必携でしょう。ポール・ライザーがアレンジした“At Christmas Time”の美しいこと。あと、海外では何度かCD化されていたサルソウル・オーケストラのクリスマス・アルバム『Christmas Jollies』(76年)が、ようやく日本盤CDとして登場。ヴィンセント・モンタナの娘デニース・モンタナが歌う“Merry Christmas All”がとにかく大好きで、これは僕のクリスマス定番曲になってます(この曲のモンタナ・オーケストラ版のミュージック・ヴィデオもあった!)。そういえば11年前のちょうど今頃、初めてフィラデルフィアを訪れた時に、The Studioでラリー・ゴールドを取材した後、立ち寄ったフィリー名物のチーズ・ステーキ屋でかかっていたWDAS-FMからこの曲が流れてきて感激したのですが、DJが「フィリー、フィリー!」と得意気にこの曲をかけていたように、フィラデルフィアでは地元を代表するホリデイ・ソングのひとつとして親しまれているようです。
そんななか今年R&Bファンの間で最も話題になったのが、念願の来日公演も決まったKEMのクリスマス・アルバム。日本盤が一度も出されていなけどアメリカのブラック・コミュニティでは絶大な人気を誇る彼の素晴らしさを、これまで拙い文章で必死に訴えてきた僕ですが(『Intimacy』リリース時のbounce誌の記事はコチラ)、こうしてメジャーのモータウンからクリスマス・アルバムを出せたことが本国での人気を証明しています。2003年のメジャー・デビューから9年。現在は、過去のホームレス体験などを活かして地元デトロイトでホームレス支援コンサートなんかを行っているKEMですが、かつて帰る場所がなく辛く寂しいクリスマスを過ごしていただろう彼が、こうしてクリスマス・アルバムを作るまでの大物になったという事実にグッとくるものがあります。
アルバムは、これまでも共同作業をしてきた名手レックス・ライダウトがプロダクションに関わり、先のルーサーにも関わっていたデトロイトの巨匠ポール・ライザーがオーケストラ・アレンジを担当。メラニー・ラザフォード(デトロイト・ヒップホップ勢との絡みで知られる才女)などと共作したオリジナルも、クリスマス・スタンダードも、KEMらしいシンプルで静謐な美しくロマンティックな音世界が広がり、厳寒のデトロイトの雪景色が眼前に浮かんでくるかのようです。冒頭の“Glorify The King”ではクワイアを従え、いきなり厳かな気分に。ビリー・ポール“Me And Mrs.Jones”のメロディをベースにした“Be Mine For Christmas”では、レックスとの繋がりから、Essence Music Festivalでも共演したことがあるレディシとデュエット。オリジナル・アルバムにも関わっていたフィリーのヴェテラン・ギタリスト、ランディ・ボウランド(来日公演にも同行予定!)もいい音を鳴らしていて、スタンダードの“The Christmas Song”ではジャジーなソロを披露してくれてます。
最後の“Doo Wop Christmas(That's What Christmas Is All About)”は、表題通りドゥー・ワップ・スタイルのア・カペラ・ソング。KEMとともに50~60年代のドゥー・ワップ・グループを気取ってみせるのはハーシェル・ブーンとクリス・マッキーで、バック・ヴォーカルには、あのフローターズ(デトロイト出身)のラルフ・ミッチェルらも名を連ねている。ハーシェル・ブーンは、ブーン兄弟からなるデトロイト(Detroyt)のメンバーとして84年にタブーからアルバムを出していたあの人のはずで(兄弟のカーティス・ブーンは、近年もアレサ・フランクリンなどを手掛けている名裏方)、2010年に出したソロEP『To Be With You』も滅法素晴らしいので(盤はCD-Rですが)、R&Bファンは要チェック。それにしても、どこまでもデトロイトにこだわるKEMの地元愛には頭が下がります。
25日が終わったとたん、日本では一気に正月モードに突入しますが、アフリカン・アメリカンの間では26日から1月1日にかけてポスト・クリスマス的なクワンザ(Kwanzaa)というお祭りがあります。どんなお祭りなのかはコチラを見ていただくとして、貧しい人たちがクリスマス後の値下がり品を買ってお祝いする…みたいなそれには、何だか心温まると同時にウルッとくるものがありますね。まあ、アフリカン・アメリカンではない日本人は黙って眺めているしかない祭事なのですが、ブラック・ミュージック・ファンは25日が終わってもクワンザがありますよ…ということで。先のロンダ・トーマスもそうですが、クワンザにちなんだ曲が入っているクリスマス盤も結構あります。要らぬお世話かもですが、ブラック・ミュージック専門のレコード・ショップさんには、この時期、クリスマス・アルバムなどを含めて余剰在庫品を安値で放出する“Happy Kwanzaaセール”みたいなのをやってもらえると嬉しいかもしれません…なんてことを思う2012年のクリスマスでした。