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2012年03月

Tara Priya / Tara Priya

ターラレディシのライヴから1日置いて、またビルボードライブ東京へ。…なんて言うと遊んでばかりみたいだけど、先週はたまたま。今度は、2月にPヴァインから日本先行でデビュー・アルバムをリリースしたターラ・プリーヤ嬢。インド人とイラン人の血を引くエキゾチックな容姿が麗しいサンフランシスコ在住の女性シンガー・ソングライターの来日公演だ(24日:セカンド・ステージ)。

どこかマイアを思わせる小悪魔キュート系のルックスからはちょっと想像がつかないかもしれないが、幼少期にピアノとドラムを習得し、オペラやジャズも学び、ニューヨークのコロンビア大学では経済学を専攻していたという才媛。高校時代からソングライターとしての才能も開花させ、「ジョン・レノン・ソングライティング・コンテスト」で入賞、「ビルボード・ソング・コンテスト」で優勝といった輝かしい経歴を持つ。

デビュー・アルバムは、大学卒業後、地元のサンフランシスコに戻って制作した2枚のEPからの曲が中心で、古いリズム&ブルースをポップな感覚で今様に聴かせるレトロ・ヴィンテージなソウル盤。シャッフル・ビートの曲を快活に歌ったり、ブルーなバラードを時にアンニュイな表情を見せながら情熱的に歌ってみせる。わかりやすく言うと“エイミー・ワインハウス以降”というか、アデル、ニッキ・ジーン、ディオンヌ・ブロムフィールド、ジャスミン・カラ…とバラバラな個性を一緒に括っちゃうのも乱暴だけど、彼女の音楽もそうした流れにある。実際に繋がりもあるというラファエル・サディークの女性版とも言えるかな。地元も一緒だし。恋愛のダークな面をテーマにしているという歌詞は実体験に基づいているとのこと。

実は2月にも来日し、某レコードショップでミニ・ライヴを行っていたターラだが、バンドを従えての正式な来日公演は今回が初。何と主役のターラ以外、バンドのメンバーは全員白人の若者で、アメリカの学園モノのドラマに出てきそうなアマチュア・バンドっぽい初々しさ。ドラム、ベース、ギター、サックス、トランペットの男子(あえてこう書く)は、何だか若い頃のビーチ・ボーイズ風。その中にひとり水玉柄のワンピースを着たガーリーなキーボード女子がいるあたりがまた学園っぽくて、ちょい萌え。白人バンドを従えた有色人種のシンガーのステージということで、僕はEssence Music Festivalで観たソランジュ(ビヨンセの妹)のライヴを思い出してしまったのだが、音楽的にもソウルというよりオールディーズと言った方がしっくりくるそれはソランジュに近い。もしくはデビュー当初のメラニー・フィオナ。そんな雰囲気だ。

ターラの歌はやや一本調子なところもあるけど、生で聴く声もCDと同じくエモーショナル。レパートリーはもちろんアルバムの曲が中心なのだが、アルバムで“Southern Girl”なんて曲を歌っている彼女らしく(?)、バンド・メンバーの紹介を兼ねてジーン・ナイトの“Mr.Big Stuff”を歌ったり、エディ・フロイドの“Knock On Wood”を熱唱したり、ディープな一面も見せてくれた。そういえばアルバムにはベティ・スワンへの謝辞もありましたっけ。そんな趣味の彼女だけに今後の展開も気になるところ。MCでも名前を出していたけど、ラファエル・サディークと組んだら本当に面白いかもしれない。

終演後は、会場でお会いしたレココレ編集部のN氏夫妻と3人で軽く飲み、夫人のニューオーリンズ留学話などで盛り上がる。ライヴでジーン・ナイト(ニューオーリンズ出身)曲のカヴァーを聴いた後にNOLA話。そこで話題になったギャラクティックの新作(傑作!)についても書いてみたいけど、機会があれば。



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Ledisi / Pieces Of Me

Ledisi早くもブログ放置か?! 今週はいろんなことがありすぎて、めまぐるしい1週間だったのです…。立て続けにライヴを観たというのも大きい。そんな中で結局2日も行ってしまったレディシの来日公演@ビルボードライブ東京。21日(セカンド・ステージ)は単独で、翌22日(ファースト・ステージ)は松尾潔さんにお誘いいただき、ふたりで観戦。なにしろレディシは現代の女性R&Bシンガーの中で僕が一番好きな人。だから、何回観たっていいのだ。

来日公演は今回で5度目だが、彼女のライヴには大阪ブルーノート(現ビルボードライブ大阪)での初来日公演(2002年6月)から毎回欠かさず足を運んでいる。初来日は東京公演がなかったので、レディシの日本初インタヴューを掲載したbmr誌の編集者&ライター仲間と新幹線に乗って大阪遠征。この時は、ちょうど日韓ワールドカップの真っ最中。ナイジェリアのサポーターが大阪の街に詰めかけていたのだが、レディシの両親もナイジェリア人ということで、こういう偶然もあるんだなぁと思ったものだ。ステージでは、当時の音楽パートナーだったサンドラ・マニング(先日はボビー・ウーマックの来日公演に鍵盤奏者として同行)とともにメロウで濃密なショウを繰り広げてくれた。

都内にある黒人音楽専門の某レコードショップに自主制作のデビュー作『Soulsinger』がひっそりと入荷し、好事家の間で話題になったのが11年ほど前。以後、オーガニック・ソウル~ネオ・ソウルの歌姫としてジワジワと注目を集め、2000年代後半にはヴァーヴ・フォアキャストとメジャー契約を果たし、今やグラミー賞に何度もノミネートされるまでになった。昨年のEssence Music Festival(EMF)では、本人のショウがないにもかかわらず、チャカ・カーン、ケム、ケリー・プライスのショウに飛び入り参加し、大歓声を浴びた(今年のEMFには自身のショウで出演が決定)。そういえば2009年には、インターネット・ラジオi-Radioで僕がやっている番組「Ebony Eyes 70’s Soul」(現在一時休止中)の初ゲストとして登場してもらったこともある。

今回は、グラミー賞ノミネート作品にもなった最新作『Pieces Of Me』(2011年)を引っ提げての来日。メジャー移籍以降の彼女を支える鍵盤奏者/プロデューサーのロレンゾ・ジョンソンもハモンドB-3で参加したショウは、メインストリームR&Bに接近した新作の曲を中心に、ロッキッシュでブルージーな前作『Turn Me Loose』(2009年)、ネオ・ソウル然としたメジャー・デビュー作『Lost & Found』(2007年)の曲を散りばめた内容。そんな中、チャック・ハーモニーとクロード・ケリーが制作した最新作からのヒット・シングル“Pieces Of Me”をやると、やっぱりこれ、キャッチーですね。もちろんいい意味で。

ステージ序盤のJBな振りには驚いたが、今回のショウは全体的にしっとりめ&声量控えめ。いつもは喉チンコ全開でいきなりフルスロットルなレディシだけど、あまり爆発せず、スキャットもあのとり憑かれたような感じがない。初日にそう感じていたら、2日目の1曲目の途中で、「いつもよりヴォーカル抑え気味じゃないですか?」と松尾さん。やはり。途中一時退場して、滅法歌えるバック・ヴォーカルの女性ふたり(サラ・ウィリアムズ、ダネトラ・ムーア)にソロを取らせるあたりも珍しい。レディシややお疲れ気味か、それともこちらの耳が慣れたのか。たぶん6割程度の力だったと思う。けれど、レディシは基準が違う。オペラ仕込み(彼女は大学でオペラを学んでいたのだ)の強靭な喉は、音程、ピッチの狂いもなく、普通に歌っても圧倒的。今回がレディシ初観戦だとしても度肝を抜かれたと思う。それでいて、ギリギリのところで「私、こんだけ歌えんのよ!」的なこれみよがしな感じにならないところも彼女の良さ。生まれ故郷ニューオーリンズでのハリケーン・カトリーナと日本の災害を思いながら歌ったサッチモの“What A Wonderful World”にはジ~ンときた。

…と、気分が良くなったところで、2日目の終演後には、松尾さんと下北沢の某ソウル・バーへ移動。「今日は終電くらいまでにしておきましょう」なんて言っていたものの、心地よいソウル・ミュージックをBGMにR&B/ソウルの話をし始めたら止まるわけもなく、途中、某レコード会社のディレクター氏も参戦して夜中の3時頃まで話し込んでしまった。



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Ben L'Oncle Soul / Live Paris

51FmkW1QUrL__SL500_AA300_当ブログでは初のライヴ・リポート。ベン・ロンクル・ソウルの初来日公演@ブルーノート東京(19日:セカンド・ステージ)。凄かった。参った。先にファースト・ステージを観終えたお客さんも「ヤバい!」「凄い!」と興奮冷めやらぬ様子。昨年リリースのCD+DVD『Live Paris』に収録されたステージがあまりに素晴らしく、これを生で観たらブッ飛ぶだろうな…と思っていたが、期待通り、というか期待以上だった。

モータウン・フランスから登場したこの若きソウルマン(84年生まれ!)と出会ったのは、2010年に発表されたセルフ・タイトルの初フル・アルバム。モータウンやスタックスのサウンドを再現し、アートワークも含めて徹底的に60年代を模した、でも21世紀の空気もしっかりと吸っている彼の音楽に即魅せられた。近年のラファエル・サディークのアルバムに代表される、いわゆるレトロ・ソウル的なR&Bだが、懐古趣味を超えた何か…パッションが感じられて、ん~、これはちょっと(いい意味で)違うかも、と。

ライヴも同様。『Live Paris』(デラックス盤には2009年リリースのデビューEP『Soul Wash』も収録)の内容ともかなりダブるが、オリジナル/カヴァー問わず、モータウン、スタックス、アトランティックなどの50~60年代ソウルのグルーヴを再現しすぎなほど再現。ソウル・ミュージックが好きで好きで、もう我慢できません…といった感じ。主役のベンを含めて9名からなる専属バンドの一体感も見事で、正確にビートを刻むドラムス、各種エレピを使い分けてレトロな雰囲気を醸し出す鍵盤、鮮やかな音色で切り込むホーンズなど、ダイナミックなのにキメ細かな演奏がやたら刺激的で心地よい。そして何より印象的だったのは、ベンの両脇で歌い踊る2名のサイド・ヴォーカル兼ダンサー。彼らのスポーティなパフォーマンスがまたステージに躍動感を与えていて、ベンを含む3人で揃いのステップやダンスを披露する場面も楽しい。あと、フランス人のバンドらしく、ファッション・センスもよろしい。

カヴァーは、アルバムでもやっていたホワイト・ストライプス“Seven Nation Army”やナールズ・バークレー“Crazy”のほか、サイド・ヴォーカルのふたりがそれぞれリードを取ったテンプテーションズの“My Girl”(あの振りつきで!)とプリンスの“Kiss”。アンコール前にやったレイ・チャールズ“What’d I Say”では、盲目のレイの仕草をリスペクトを込めながら面白おかしく真似たりも。ベンのヴォーカルは、地声はジョン・レジェンドっぽいが、ジョンよりもずっとソウルフル。そこに、実際にライヴでも曲を取り上げているオーティス・レディングまんまの激唱(あのガッタガッタも)を織り交ぜ、ジェイムズ・ブラウンみたいな野性味を振りまきながら荒々しく歌い上げていく。それでも、客の煽り方などはラッパーのようでもあり、ただ往年のソウルマンの作法を真似ているだけではないように感じた。

お客さんは、下北沢あたりの中古レコ屋でソウルやファンク掘ってました系の音楽通にしてファッションにもちょっとウルさそうな方が多め(ベンのようなメガネ、蝶ネクタイ、サスペンダーでキメている人も)。だけどクールに構えて観るという人はほとんどおらず、コール&レスポンスも見事な一体感で、僕がこれまでブルーノート東京で観たライヴの中では最高のものだった。現時点で日本盤も出ていないフランスのアーティストの初来日公演であの反応は凄い。ベンのMCは基本英語だったけど、こんな才能が出てくるなら、学生時代、第二外国語で取っていたフランス語をもっとちゃんとやっておくべきだったと後悔(笑)。

この日はライヴ前後のDJがMUROさん。エボニーズがブッダから出した7インチ・オンリーの“Making Love Ain't No Fun (Without The One You Love) ”をサラッとかけたりとか、相変わらずセンス抜群、というか自分と趣味が合いまくり。いろんな意味でトレビア~ンな一夜でした。



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VA / dome:Twenty Years

Dome“UKソウルの良心”と言われるドーム・レコーズが創立20周年を迎えた。かつてCBSレコーズなどでA&Rを務めていたピーター・ロビンソンが92年に興した同レーベルは、アシッド・ジャズよろしく、当時のUS R&Bが失いかけていたオールドスクール・ソウルのリアルなグルーヴを呼び覚まそうと、“Home of UK R&B”をキャッチフレーズに、UKらしいアーバンで洒落たR&Bを送り出してきた。何をもって“リアル”なのかというアレはこの際置いておいて。

そんなドーム・レコーズの20周年を記念した3枚組のコンピレーションが登場。化粧箱には3枚のCDのほか、40ページに及ぶブックレットも収録され、ライナーノーツ(英文)ではドーム20年間の歴史や所属アーティストなどについて言及されている。UKソウル史を紐解く資料としても、かなり使えそうな内容だ(まだ全部読んでないのですが…)。

CDには、今のアデルみたいな存在でもあったUKブルー・アイド・ソウル歌姫のルルがボビー・ウーマックとデュエットした“I'm Back For More”(アル・ジョンソン名曲のカヴァー)を筆頭に、ビヴァリー・ナイト、シンクレア、ビヴァリー・ブラウン、フル・フレイヴァ、ドナ・ガーディアー、ヒル・ストリート・ソウルなど、UKソウル懐かしの面々の曲が並ぶ。UKソウルがUKソウルらしかった時代の曲。ただし、これらドーム産UKソウルの名曲は、そのほとんどがディスク1に収まり、残るディスク2、3(一部ディスク1にも)にはUS R&B、とりわけネオ・ソウル系アーティストの曲が、リミックスや2012年発表の曲も含めてズラリと並んでいる。アンジェラ・ジョンソン、コーニャ・ドス、ジュリー・デクスター&カーリ・シモンズ、ドニー、ゴードン・チェンバース、エリック・ロバーソン、ヘストン、エイヴリー・サンシャイン、アンソニー・デイヴィッドなど。

思えばUKソウルのシーンは、クレイグ・デイヴィッドが登場した2000年あたりから様相が変わり始め、UKガラージ~2ステップに傾いたエッジーなR&Bが主流に。そうなると70年代ソウル的なスムーズ&メロウなサウンドを売りにしていたドームは分が悪い。実際ドームでは、それまでのUKソウルらしいUKアーティストも減った。2000年代にそれっぽい音で出てきたのはアヴァーニくらいだったかもしれない。

こうしてドームは、実力がありながらインディでの活動を余儀なくされている、もしくは自主的にインディで活動しているUSネオ・ソウル系アーティストの受け皿のような役目を果たすレーベルとなっていく。MCAの消滅で契約が宙に浮いたラサーン・パターソンを受け入れたのもドームだった。また、フレッド・マクファーレンらがサポートしたデニス・テイラーをはじめ、ロージー・ゲインズやブレンダ・ラッセル、元バイ・オール・ミーンズのマイクリン・ロデリック(リン・ロデリック)といったUSシーンで不当な扱いを受けていた(?)キャリアのあるアーティストにも目をかけた。いつの間にか“UKソウルの良心”は“US R&Bの良心”になっていたのだ。つまりドームの20年は、少々乱暴な分け方だが、前半の10年がUKソウル、後半の10年がUSネオ・ソウルだったということになる。もっとも、ネオ・ソウルは、90年代UKソウルと同じく70年代ソウルの再生的な一面もあるので、そう考えるとドームの姿勢は一貫していると言えるが。

ドーム以外では、UKだとエクスパンション、USでは近年シャナキーが似たようなカラーを打ち出し、その地位を脅かしているように見える。だが、トーキン・ラウドから独立したインコグニートを受け入れたり、2010年にはあのドライザボーンをドライザボーン・ソウル・ファミリー名義で復活させるなど、“UKソウルの良心”としてのレーベル・カラーは失っていない。果たして、次の10年はどうなる?

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Matt Covington / Matt Covington

mattcovington_jkt続いてはリイシュー(再発)もので。しかも、ウルトラ・レアなブツ! まあ、個人的はレア盤と言われるものには実はあまり興味がなくて、中古盤で5000円以上の値段がついていると即諦めるヘタレdigger。そんな人間が開設したばかりのブログで、こんなものを紹介するとはけしからん!…という声はたぶん飛んでこないと思いますが、フィリー・ソウル悲運のファルセッター、マット・コヴィントンのソロ作です。

某オークション・サイトでは、オリジナルLPが1000ドル(8万円前後)で取り引きされている、70年代ソウルのアルバムの中でも、とびきりHard To Findな一枚。インディ制作で配給もままならず、満足のいくプロモーションができなかったため結果としてレア盤となってしまったという、まあ、よくあるパターンのアレ。実は僕もオリジナルLPを持っていなかった。が、マットがリードを務めたフィリー・デヴォーションズの全シングル集『We're Gonna Make It』のライナーを書いた流れで(?)、僭越ながらこちらの解説も担当することに。昨年はエッセンシャル・メディア・グループから、そのフィリー・デヴォーションズのシングル集や、マットが80年代に自主レーベルのエイプリル・レコーズなどで発表したシングルを集めた『Philly Devotion-The Solo Singles』がCDリリース。同時期に本アルバムもリイシューされたのだが、何故か本作はデジタル配信のみでの販売だった。それを今回ディスク・ユニオンさんの鬼マニアなレーベル、MAGNUM CATがフィジカル発売したというわけ。もちろん世界初CD化だ。

原盤レーベルは、フィリー・デヴォーションズの初期曲を手掛けていたジップ・ジョンソンが主宰したジップ(Zip)・レコーズ。収録曲は全てジップとマットのふたりが書いたという。録音は70年代中期のフィラデルフィア。甘いムードや軽やかなノリはいかにもフィリーのそれで、スウィート、ダンサーとも申し分ない仕上がり。フィリー・デヴォーションズの“I Just Can't Say Goodbye”(邦題「涙のディスコティック」)で彼(ら)を知るファンを裏切らない内容なのだが、ここで聴ける音はシグマ・サウンド・スタジオ産のそれとは少し違う。自主制作で低予算だったこともあってか、MFSB一派はおそらく不参加。リズム・セクションに名を連ねるのはあまり聞き覚えのない連中だ。

しかし、プロデュース及びホーンズを担当したオディーン・ポープという名前は知っている。そう、この人は、フィリーの4人組ジャズ・コンボ、カタリストのサックス奏者。カタリストといえば、MFSBのノーマン・ハリスやロニー・ベイカーを起用した72年のシグマ録音曲“Ain't It The Truth”が、後年“グルーヴィなジャズ・ファンク”として再評価され、僕もその流れで知った。本作に関わったオディーン・ポープがカタリストのメンバーと同一人物であると断定はできないが、場所や人脈から考えるに、ほぼ間違いないだろう。音の面からしても、例えば74年の“キンサシャの奇跡”にインスパイアされたと思しきモハメド・アリ賛歌“Muhammad Ali”など、いくつかある軽快なファンク調の曲はカタリストの雰囲気に通じている。かなりディスコっぽいですけど。

もちろん、主役のマットは、全編であのセクシーで爽やかなファルセット美声を聴かせてくれる。特にフィリー・スウィートのマナーに則ったスロウ・バラードにおける彼の歌は、デルフォニックスのウィリアム・ハートやスタイリスティックスのラッセル・トンプキンスJr.、ブルー・マジックのテッド・ミルズなんかと比べても遜色ない、と僕は思う。こもった音の質感&妖しげな曲調の“Hey Love”なんかはモーメンツorホワットノウツみたいなニュージャージー・スウィート・ソウル風で、故ハリー・レイを思い出してしまった。

個人的には、リズム・ギターが心地よい軽快でメロウなダンサー“Country Folks”がフィリーらしい都会的な感覚がよく出ていて気に入った。ミディアムの“Finally Got Over On You”はモダン・ソウルを好むようなリスナーに受けそうだけど、これなんかを聴くと(フィリー出身の)ブレイクウォーターあたりに近いかな、とも。MFSBがやっていなくてもフィリーらしい音というのはちゃんとあるのだ(←偉そうですみません)。

まあ、レアというか、オリジナルのLPを持っていた人はたぶん日本でも数人(?)くらいだろうから、ほとんど発掘盤という感じかな。スウィート、ブギー、モダンの要素を兼ね備えた好盤。80年代にはバディ・ターナーらと組んで“We Got One”のような素晴らしい曲を出しているけど、そちらは『Philly Devotion-The Solo Singles』で。



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