R.Kelly / Write Me Back
Essence Music Festival(EMF)から早くも1ヵ月が経とうとしている。リポートもそろそろ発表したいのだけど、今年は有志で座談会をやることになり、今大急ぎでそれをまとめているところ。で、そんな作業を仕事の合間にしつつ旅の思い出に浸っているのですが、思い出といえば毎年ニューオーリンズ(NOLA)のホテルでBGMとして流しているのが、現地のR&B専門FM局WYLD。これをつけていると、頻繁にかかるヘビロテ曲があって、それがその年のEMFとセットになって記憶されていく。
今年は、ジョン・レジェンドfeat.リュダクリス“Tonight(Best You Ever Had)”、アッシャー“Climax”、ロビン・シック“All Tied Up”あたりがヘビロテ。まあ、WYLDに限らず、R&Bとクラシック・ソウルを流すUSのR&B専門局はどこも選曲が似たりよったりなのですが。それに今は海外でエア・チェックしたカセットテープがお土産になっていたような時代とは違って、例えばNYのWBLSとかは日本からでもネットでリアルタイム(いわゆるサイマル・ストリーミング放送)で聴けてしまう時代。渡米者のみの特別な体験にはならない。それでも現地で聴くとリアルだし、WYLDに関しては、EMF開催期間中フェスの出演者がゲストで出ていたりして、それがまた気分を昂揚させてくれる。そのWYLDで今年、他のどの曲より耳にしたのがR・ケリーの“Feelin' Single”だった。先頃発表された新作『Write Me Back』の先行(セカンド・)シングルだ。
そんなわけで、今回は遅ればせながら『Write Me Back』について簡単に。デビュー時から在籍したジャイヴの閉鎖にともないRCAに移っての初アルバムとなる今作は、結果から言うと前作『Love Letter』(2010年)の続編だ。タイトルも前作の“ラヴレター”に対して“お返事待ってます”的なニュアンスが込められている…などと一部で言われていたが、R・ケリー本人はこれを完全否定している模様。まあ、タイトルに込められた意味がどうのなんて音や歌(声)を聴く上では二の次なので、これに関してはスルーしたい。とはいえ、サウンド的に前作を踏襲しているだろうことは聴けば明らか。今や十八番となったステッパーズを絡めたソウル・オマージュ・アルバムとでも言ったらいいか。なにしろ“Feelin’ Single”からして、ビル・ウィザーズ“Lovely Day”を下敷きにしたオマージュ・ソング。また、アルバム本編のラストを飾る先行ファースト・シングル“Share My Love”は70sフィリー・ソウル調の華麗なダンサー。ケリーがここまで直球なフィリー・ソウル調の曲をやったのは、たぶん初めてだと思う。ストリングスもいかにもフィリーって感じで、アレンジはラリー・ゴールド(元MFSB)かな?と思っていたら、なんとアルバム全編の管弦アレンジ/指揮がラリー(とケリー本人)だった。ラリーのストリングスを大フィーチャーしたのは、2004年のステッパーズ&ゴスペル・アルバム『Happy People/U Saved Me』以来。前作ではおそらくプログラミングだったストリングス&ホーンが今回は生ということで、ゴージャス度満点だ。
オマージュ・アルバムということで、シングル2曲以外も有名なソウル/リズム&ブルース曲にインスパイアされたナンバーがひしめく。踊るようなパーカッション音とベースが曲を引っ張っていく冒頭のアップ“Love Is”からしてフィリー・ソウル~サルソウル風というか、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツみたいなフィリー・ダンサー。フィリーといえば、“Lady Sunday”も盟友ドニー・ライルが弾くノーマン・ハリス風オクターブ奏法ギターも含めて、おそらく狙ったのはスピナーズの“I'll Be Around”だろう。また、“Believe That It's So”はスティーヴィ・ワンダーの“As”を彷彿させるし、“Green Light”は得意のアイズレー・ブラザーズ調メロウ曲。“Fool For You”はメロディ・ラインから繊細な優男ヴォイスまでスモーキー・ロビンソン(&ミラクルズ)風で、実際にケリーはスモーキーにインスパイアを受けたと(ココで)語っている。かと思えば、“Believe In Me”はアトランティック時代のレイ・チャールズが乗り移ったかのようなゴキゲンなリズム&ブルース曲で、“What'd I Say”みたいなウーリッツァーの音までご丁寧に再現。“Party Jumpin'”も、最近だとジャネル・モネイあたりがやっている50~60s風ロッキン・ソウルで、ここらへんは前作に入っていてもおかしくないような曲だ。“○○風”などと書いていると表現力の欠如と言われそうだけど、でも、どう考えたって明らかに“○○風”を狙ってるんだから、やはりここはそう語るのがベターというか、そう聴くのが正解かも。とにかく、ソウルマンになりきって伸び伸びと歌うケリーがやたら清々しい。唯一、普段の(現行R&B路線の)R・ケリーっぽいのが“Clipped Wings”という悲哀を込めたバラード。ウォーリン・キャンベルとの共作となるこれは今作においては異質で、ちょいと座りが悪かったかなという気がしなくもない。
ところで、僕が買ったのはUS盤のデラックス・エディション。これには日本盤と同じく4曲が追加されているのだけど、その中でとりわけ話題になっているのが“You Are My World”という曲だ。これはケリーがマイケル・ジャクソンに(と?)書いた曲のデモと言われ、ネット上で公開(リーク?)されていた音源の正規収録版。これまで何度かMJに楽曲提供していたケリーが、いつ、どのタイミングで作ったのか、ちゃんと調べてないのでわからないのだけど、ケリーの歌い方やブレスはモロにMJを意識していて、これはケリー、MJ双方のファンにとって嬉しいプレゼント。それにしても、短期間にこうもスラスラと人々を熱狂させる曲を簡単に作ってしまえる(ように見える)ケリーには感心させられるばかり。おそらく曲のストックが山ほどあるのでしょう。しかも、今作の裏では、もう一枚メインストリームR&B仕様のアルバム(タイトルは『Black Panties』とされるが詳細不明)を作っているとも言われている。今回それを保留にしてまでソウル・オマージュ的なアルバムを出してきたケリーの心境や如何に。そういえば“Feelin' Single”のミュージック・ヴィデオでは途中でフランク・シナトラ気取りのミュージカル風寸劇が挿まれるのだけど、今の気分的にはこっちなのかな。ともあれ、クラシックなソウル・スタイリストを気取りつつ2010年代の空気をも表現できてしまうケリー。こういう人が現役で活躍できているという事実が、R&Bリスナーとしてはとても心強い。
パブリック・アナウンスメントを率いてメジャーでアルバム・デビューを飾ってから今年で20年。何だかんだありつつも安定してキャリアを重ねているケリーは、同じく(?)聖と性を行き来した故マーヴィン・ゲイよりずっと安心感のある存在だし、作風は基本的に同じながら新しいことをやってくれそうな気配も感じさせる。以前喉を手術したことと関連があったのか、6月には入院騒ぎがあったけど、予想通り(?)ケリーお得意のホラ(仮病)だったとも言われていて……まあ、今後もいろいろお騒がせしながらいい曲を作ってくれるのでしょう。先日はデイヴィッド・リッツとの共著となる自伝本『Soula Coaster:The Diary of Me』を上梓し、8月に全米公開される映画『Sparkle』リメイク版のサントラでも数曲手掛けているケリー。まだまだ楽しませてくれそうですね。あとは、アレサ・フランクリンや故ルーサー・ヴァンドロス級に難関扱いされている来日公演の実現、でしょうか。そろそろEMFにも出演してほしいところです。