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Earl Van Dyke / The Motown Sound~The Complete Albums & More

EVD最近の新譜やライヴをネタにすると女性アーティストばかりになりそうだったので、ここらでリイシューものを。60年代モータウンのサウンドを支えたファンク・ブラザーズのオルガン/キーボード奏者、アール・ヴァン・ダイクがモータウンに残した音源のコンプリート集。モータウン作品のリイシュー/発掘で気を吐くHip-O Selectからのリリースだ。

ファンク・ブラザーズといえばベーシストのジェイムズ・ジェマーソンの名前が真っ先に挙がるけど、ジェマーソンと並ぶグルーヴ・マスターと言えば、個人的にはこのアール・ヴァン・ダイクを思い浮かべる。ただしファンク・ブラザーズ、60年代にテンプテーションズ、スプリームス、マーヴィン・ゲイ、フォー・トップスなどの曲でバック演奏を担当していたにもかかわらず、当時はその存在がほとんど知られていなかった。いや、今も熱心な音楽ファン以外にはあまり知られていない。ファンク・ブラザーズにスポットを当てた映画『永遠のモータウン』の冒頭で、レコード屋にいるお客さんにモータウンの曲で演奏していた人たちについて訊いてみても誰も知らないっていうシーンがあったけど、たぶん今もあんな感じでしょう。それもそのはず、60年代には彼ら演奏者の名前がレコードにクレジットされず、マーヴィン・ゲイの『What's Going On』(71年)で初めてその名が記されたのだから無理もない。当時は公にはファンク・ブラザーズとも呼ばれていなかった(2004年のベストCDで初めてその名義が使われた)。同じハコバンでもスタックスのブッカー・T&ザ・MGズがバンド名義でレコードを出していたのとは大違いですね。

けれどモータウンも、数々のヒット曲に貢献した演奏者たちのプライドを損ねないように(?)、リーダ-的な存在のアールを中心とした、実質ファンク・ブラザーズによるアルバム/シングルをリリース。ひとつは65年にアール・ヴァン・ダイク&ザ・ソウル・ブラザーズ名義で出した『That Motown Sound』。プロデュースは、ミッキー・スティーヴンソン、ヘンリー・コスビー、ハーヴェイ・フークアで、タイトルが示すように、当時のモータウン名曲のオケを収録したものだ。ヴォーカル・パートがない代わりに、アールのグルーヴィーなオルガンが主旋律を奏でるのだが、よく言われるように彼のプレイって大胆で攻撃的、そしてクドい(笑)。もっとも、モータウンのスターたちによって歌われたヴァージョンでは、アールの鍵盤もそれほどうるさくないけれど。

もうひとつは70年にアール・ヴァン・ダイク名義でリリースした『The Earl Of Funk』。70年1月にデトロイトで行ったライヴをパッケージしたこちらは、スライ、ミーターズ、ベン・E・キング、トニー・ジョー・ホワイトなどの非モータウン曲やアルバム用のオリジナルも交えた、ある種ニュー・ソウル的な選曲。Chunk Of Funkというニックネームがついていた彼らしい、まさに“ファンクの塊”とでもいったプレイが聴けるアルバムで、アールのリーダー作だが、バックはジェイムス・ジェマーソン(b)やロバート・ホワイト(g)らが務めるってことで、これもファンク・ブラザーズの作品と言って差し支えない。今回のCD(2枚組)は、その2枚のアルバムに、シングル・オンリー曲や未発表曲、ライヴ音源を加えた完全盤というわけだ。とりわけ、Disc 2に収録されたジェイムズ・ジェマーソン名義の図太くファンキーな3曲(レア&未発表)は圧巻。

70年代に本社が西海岸に移転するとミュージシャンもバラバラになるが、60年代には「ヒッツビルUSA」と言われたデトロイトのモータウン本社のスタジオ・Aを根城に数々の名演を生み出したファンク・ブラザーズ。狭い部屋ゆえにスネイクピット(蛇の穴)と呼ばれたスタジオ・Aは、現在はモータウン博物館となっている旧本社社屋に当時のまま残っていて、見学者はスタジオに立つこともできる。僕も2008年の夏に初めて訪れたけど、まあ、ソウル好きなら確実に興奮します。

かなり強引かもだけど…デトロイトの鍵盤奏者ということで、アールのスピリットって、ドウェレやアンプ・フィドラー、ケムなんかにも受け継がれているのかな、とも思ったり。あと、ファンクなビート感覚ってことではデトロイト出身の故J・ディラにも通じていたり、とか。直接影響を受けていなくても間接的には繋がっているはず、と僕は思っている、というか思いたいです。



soul_ringosoul_ringo  at 21:48トラックバック(0) この記事をクリップ!