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女性ヴォーカル

Karyn White / Carpe Diem~Seize The Day

KarynSWVに続いて今回も90年代復活組を。18年ぶりとなる新作の国内発売と約17年ぶりの来日公演が重なったキャリン・ホワイトです。“90年代復活組”といっても、キャリンがシーンに登場したのは80年代半ば、ジェフ・ローバーの86年作『Private Passion』にマイケル・ジェフリーズと一緒に参加した時。同アルバムに収録された“Facts Of Love”でリードを務めたことで注目を集めた。そして、その後ソロ・デビューしてからの大ヒット“Superwoman”。これも88年の曲なので、ここらへんをリアル・タイムで聴いていた人にとっては“80年代のシンガー”なのかもしれない。

僕もキャリンをリアル・タイムで聴き始めたのはソロ・デビュー作からだけど、正直言うと、当時10代だった自分には、“Superwoman”というかベイビーフェイスの作るバラードがベタに感じられて、イマイチのめり込めず…。しばらく経ってからその良さに気付くのだけど、それより当時はアップの方が断然好きで、“The Way You Love Me”の方をよく聴いていた。ちょうど同じ頃にヒットしていたザ・ボーイズの“Dial My Heart”とリズム・パターンがよく似ていたこともあって、そのふたつがセットで記憶されていたりする。が、本気でキャリンの音楽に燃えたのは、ジャム&ルイスと組んだ91年の2nd『Ritual Of Love』から。“Romantic”とかの、あのキラキラした感じがたまらなかった。あと、セクシーなアルバム・ジャケットも。この頃、彼女がテリー・ルイス夫人となったのは有名なお話。2ndに比べると94年の3rd『Make Him Do Right』は地味だったが、捨てがたいアルバムではある。個人的には、この時プロモーション来日した彼女のインタヴューに某音楽誌のペーペー編集者として同行し、少しふくよかになっていた(今思うと妊娠中だった?)ご本人と対面した記憶が蘇る。

その後、彼女はシーンから退いてしまう。今振り返るとヒップホップ・ソウルの流行とともに姿を消したというか、キャリン・ホワイトという人は、R&Bがヒップホップと手を繋ぎ始めた80年代後半から90年代前半という激動の時代に生きながら、ヒップホップ(・ソウル)とは無縁で過ごした正統派シンガーという気がしなくもない。が、その後姿を消したのはシーンに馴染めなかったからではなく、実業家に転向し、子供(娘)を育てていたから。その娘さんも今やすっかり成長し、名門ハワード大学に進学したとか。そういえば、キャリンのソロ・デビュー時にマネージメントを手掛けていたラーキン・アーノルドもハワード大学の出身でしたっけ。という余談はさておき…それでも6年ほど前には一度復活しようとしていたらしく、シャウト・ファクトリーから発売されたベスト盤(2007年)には、お蔵入りとなったアルバムからアコースティックな新曲(2曲)が収められてもいた。この時キャリンは既にテリー・ルイスと離婚していて、再婚したボビー・G(ゴンザレス)を制作パートナーに迎えて曲を作っていた。

そして18年ぶりに登場した新作。当初は一般流通の予定がなく、本人のサイトのみでの扱いだったので、僕もそこから購入した。が、結局市場に出回るようになり、来日直前に日本盤(輸入盤国内仕様)も登場。日本盤には、これまでのキャリアやアルバムの内容が的確に記されたライナーノーツ(荘治虫さん)が付いているので、未購入の方には日本盤をおススメするとして…新作の方向性は、簡単に言えばネオ・ソウルというかオーガニック・ソウル的なそれ。本人は“レトロ・アコースティック”なんて呼んでいるようだけど、お蔵入りアルバムのタイトルでもあったらしい冒頭の“Sista Sista”からしてそんな雰囲気。“Romantic”なんかのイメージからは随分かけ離れた感じだけど、先のベスト盤で披露された2曲を聴いていれば、何となく予想できた方向性ではある。僕個人はそれほど興味を惹かれなかったけどシンディ・ローパー“True Colors”のカヴァーなんかも含めて、自分の思いのままに今やりたいことを素直にやりました…という感じなのかな。オートチューン加工のヴォーカルも出てきますが。個人的なハイライトはメロウなミディアム“Sooo Weak”。エンダンビを聴いてるみたいで…っていう感想は的外れ?

プロデュースを手掛けたのはデレク“DOA”アレン。現在もR&B~ゴスペルの世界で活躍している人だけど、90s R&Bファン的にはブラックガールやボビー・ブラウン・ポッセ(スムース・シルクほか)のプロデュースをしていた人として記憶されるところ。主役の歌を引き出すのがとても上手い人だ。そのデレクに加え、夫のボビー・Gもソングライティングに参加し、美しいバラード“My Heart Cries”では途中からボビーも声を交える。他にも、クレジットを眺めていると、“Sista Sista”のバック・ヴォーカルでは僕の好きなファニータ・ウィン(アンジー・ストーンと一緒にやってた人)が歌っていたりも。あと、“Dance Floor”のソングライティングには、元クラブ・ヌーヴォーのジェイ・キングの名があるが、今回のアルバム制作においては彼が影の支援者として尽力したそう。関係ないけど、ジャケット裏の写真では壁にマキシン・ナイチンゲールの76年作『Right Back Where We Started From』が飾ってある(見える)のだけど、これは何か意味があるのかな? ちなみに、古代ローマの詩人ホラティウスの一節から名付けたというアルバム・タイトル『Carpe Diem』は“一日の花を摘め”、英語ではSeize The Dayとなり、今日を精一杯生きよう、という意味になる(とライナーにも書いてある)。というわけで、今を生きるキャリン。80~90年代の彼女を懐古したいファンとは逆に、本人はずっと先を見ているのかもしれないですね。

もちろん来日公演にも足を運んだ。ビルボードライブ東京での初日(6/22)、ファースト・ステージを松尾潔さんとふたりで観戦。“Romantic”も“The Way You Love Me”もやったし、ベイビーフェイスとの共演曲“Love Saw It”をバック・ヴォーカル兼ラップの男性と歌ってもくれた。もちろん“Superwoman”も。が、僕が観たステージでは過去のヒットはわりとあっさりと歌い、やはり新作の曲に力が入っているように見えた。デレクがベーシストとして帯同したバンドも、新作のオーガニックな曲の方がしっくりときている感じだったし。面白かったのは、新作からの“Dance Floor”。ライナーで荘さんは「マイケル・ジャクソンの往年のダンス・チューンを彷彿させる」とお書きになっているが、まさに慧眼というか、たぶんこの曲だったと思うが、途中でジャクソンズの“Shake Your Body”を織り込んで歌っていた。マイケルの命日(6/25)も近いので、ということからか。あと、パフォーマンス以上に印象的だったのは、あの美貌とスレンダーな体型をキープしていたこと。どこかダイアナ・ロス的な美しい歳のとり方というか。そんなキャリンを見て「さすがミスコン荒らしをしていただけのことはある」と松尾さん。

松尾さんとは、最近だとミュージック・ソウルチャイルドやロバート・グラスパーのライヴも観戦。“R&B情報交換会”と称して(?)、その日のライヴ・アクトを肴にしつつ、日本で評価の低いR&Bアーティスト(K・ジョンなど)について語り(飲み)合うという濃密かつ贅沢な時間を過ごさせていただいている。この日も、仮にキャリンがSWVみたいにケイノン・ラムとやってたら?などなどいろんな話が出たが、キャリンといえば、今回アンコールの前に歌った“Superwoman”はタイトル通り受け取ると間違いで、実は〈I'm NOT your superwoman〉と歌っているのです…という話も。これに関しては「松尾潔のメロウな夜」(NHK-FM)でもお話しされていたと記憶しているが、このテの話は、ここで僕がアレコレ書くより、松尾さんに語っていただく方が100倍説得力がありますね。で、そんな松尾さん、2010年からbmr誌の連載に加わるも休刊に伴って中断されていた「松尾潔のメロウな日々~TIMELESS JOURNEY~」が、この度ウェブ版として復活。今後も楽しみです。あとは……bmrの復刊を頼む!



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Sy Smith / Fast And Curious

Sy女性モノの新作がいろいろ登場してますが、今回はサイ・スミス。サイといえば、2010年暮れに急逝したティーナ・マリーへのトリビュート・ソングをいち早く作り、ネット上で無料配布したことも記憶に新しい。“Teena(Lovergirl Syberized)”と題されたその曲は、ティーナのエピック時代のヒット“Lovergirl”をサイ・スミス流(Syberized)にリメイクしたもの。ロックっぽいオリジナルとはまるで印象の異なるメロウでスムーズな曲に仕上がっていた。が、そもそもこの追悼リメイクを持ちかけたのは、クラブ系マルチ・プレイヤーのマーク・ド・クライヴ・ロウ(MdCL)。そのリメイクがキッカケとなったのか、4年ぶりとなる今回の新作では、全編でそのMdCLが演奏/プロダクションを手掛けている。

サイ・スミスといえば、“サイバー(S(C)yber)”とか“サイコ(Psyko)”をキーワードに、コケティッシュな美声でオーガニックかつフューチャリスティックなネオ・ソウルを披露してきた女性シンガー。と言うより、ブラン・ニュー・ヘヴィーズの2003年作『We Won't Stop』でリードに抜擢されたとか、TVドラマ「アリー my Love」にグループのシンガーとして出演していた…と説明した方がキャッチーかな。ミニー・リパートンに強く影響を受けている人なんだけど、ワシントンDCのハワード大学に通っていた頃にはゴー・ゴーのバンドでも活動していたというだけあって結構タフな一面もあり、独特のリズム感を持っている。10年ちょっと前にメジャーで作った最初のアルバムはお蔵入りになってしまったが(後に『Psykosoul Plus』としてリリース)、その後はインディからコンスタントにアルバムを発表。これまで自身のアルバムでは、ATCQのアリ・シャヒード、ジェイムズ・ポイザー、ヴィクター・デュプレー、ドレー・キング、タイ・マクリンなど、つまりNY、フィリー、DC、ダラスといったネオ・ソウル聖地のプロデューサーと組んできたわけで、そういう意味ではクイーン・オブ・ネオ・ソウル!といった感じだけど、まあ、こういう表現は本人は喜ばないでしょう。近年はフォーリン・エクスチェンジ(FE)一派との交流も盛んで、DVD+CDセットで発売されたFEのファン招待プライヴェート・ライヴ『Dear Friends:An Evening With The Foreign Exchange』でも歌ってましたね。

一方、プロデュースを手掛けたMdCLは、日本人とニュージーランド人のハーフで、UKは西ロンドンのブロークンビーツ・シーンの演奏家/クリエイターとして、IGカルチャーなんかと一緒に評価されてきた奇才。オールド・ソウルやジャズへの愛着を示しながらエレクトリックでコズミックな音世界を創り上げてきた彼の音楽は(歌もの)R&B好きに訴える要素もわりとあって、オマーやサンドラ・ンカケ(←エスペランサ・スポルディングがお気に入りだという仏女性)らが参加したトゥルー・ソーツからの最新アルバム『Renegades』も、かなりいい内容だった。7~8年前に渋谷のカフェかどこかでやったライヴを観た時は、まだまだアンダーグラウンドの人という感じだったけど、近年はサンドラ・セイント・ヴィクターやニコラス・ペイトンなど、わりとデカい仕事が舞い込んできていて見逃せない。10年前ならア・タッチ・オブ・ジャズ一派やキング・ブリットあたりがやっていたことを、今はこの人がやっているというか。ネオ・ソウル・リヴァイヴァルみたいなものがあるとするなら、そのカギを握っているのはこのMdCLなのかも…と個人的には思っていたりして。

そんなMdCLとサイが結びついたのは必然だったというか、今回の新作はサイのミスティックでメロウなムードとMdCLらしいスペイシーでエレクトリックな音色がうまく噛み合っていて、最高にカッコいい。前のめりのスキップ感(?)が独特なMdCLのトラック上でオシャレに尖がるサイさんが何とも素敵。アルバムの楽曲はサイとMdCLの共作なのだけど、先の“Teena(Lovergirl Syberized)”を含めカヴァーも3曲ある。残る2曲のうち、ひとつはビリー・オーシャンのブラコン・ダンス・チューン“Nights(Feel Like Getting Down)”のカヴァー。これを今回サイはインディ・(ネオ・)ソウルの同士とも言えるラサーン・パターソンとデュエットしていて、たまりません。でも、それ以上に僕が興奮した、というか膝を打ったのが、ラー・バンド“Messages From The Stars”のカヴァー。ラー・バンドのオリジナルがまさにサイバー・エレクトロな曲で、まあ、この曲をチョイスしたのはMdCLなんだろうけど、改めてラー・バンドを聴き直してみたら、今までサイが目指してきた音世界ってこれなのかも?なんてことも思ってしまった。それくらいドンピシャ。と、いずれのカヴァーも80年代の名曲ということから想像がつくように、今回の新作のテーマは80sエレクトロニック・ソウル。そういう意味では、70年代ソウル風だった前作『Conflict』と対になるアルバムと言えるのかな?

ちなみに今作、当初は日本のレコード・ショップでは取り扱う予定なしとのことだったので、本人のオフィシャル・サイトから直接購入。ご丁寧にサインまでしれてくれてるんだけど…実は僕、昔から著名人のサインとかに全く興味がなく、ジャケットにサインされたらレコードの価値が下がるとまで考えてしまう変わり者。もちろんサイさんのサインは嬉しいが、サインなしのCDも欲しくて、結局日本でも買えるようになったので、もう一枚買ってしまった(笑)。このデジタル・ダウンロード時代にめんどくさいことやってます…。



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Estelle / All Of Me

EstelleR&Bの新譜、とにかく女性シンガーものが多いです。で、今回はエステルの新作を。前作『Shine』から約4年ぶり、通算3作目。アトランティック(が配給するジョン・レジェンド主宰のホーム・スクール・レコーズ)からのワールドワイド・リリースとしては、これが2枚目。4月4日には、その日本盤も発売された。実はこのライナーノーツを書いたのだが、経歴や客演作品、プロデューサー、ミックステープがどうの…などはライナーでゴチャゴチャと書いたので、ここではサラッといこう。

延期を繰り返しての、ようやくのリリース。当初は2010年秋の発表予定で、その頃はデイヴィッド・ゲッタとアフロジャックがプロデュースした“Freak”が新曲として話題になっていた。カーディナル・オフィシャルを招き、ソウルⅡソウル“Back To Life”のフックを引用したエレクトロ・ビート・チューン。結局これは新作が延期されるうちにゲッタのリーダー作『One More Love』(のデラックス盤)とかダンス映画のサントラ『Step Up 3D』に収録されて、今回の新作には未収録。で、もう一曲、新作のバズ・シングル的な形で発表されながらアルバム未収録となったのがDJ Frank E制作の“Fall In Love”。ジョン・レジェンドとナスそれぞれとの共演ヴァージョン(とヴィデオ)も話題になったネオ・ソウル×ハウス的なメロウな四つ打ちダンス・チューンで、こんないい曲が未収録だなんて…って感じだけど、日本盤には“Freak”とともにボーナス・トラックとして収録されております。ちなみに今回の日本盤に収録された“Fall In Love”はジョンとナス両者が合体したヴァージョン。って、いきなりサラッといかない話でした。

で、アルバムは、有名どころのプロデューサーだと、ジェリー・ワンダ、アイヴァン&カーヴィン、ジェイムズ・ポイザーなんかが関わっているのだけど、エステルらしいジャンル横断型の全方位スタイルはいつものまま。ハスキーな声でラップ(・シンギング)を織り交ぜた歌唱もこれまで通り。それでもベースにはオーセンティックなソウル/R&B感覚みたいなものがあって、最終的にはちゃんとそこに着地するというか…そこらへんが僕みたいなリスナーを惹きつけるのかも。そういえば、本国イギリスのみで発表されたデビュー・アルバム『The 18th Day...』を、僕はbmr誌の2004年個人年間ベストで1位にしていて、「US的流行を咀嚼しつつ新しい世界を描き出したUKモノということで不思議な衝撃を受けた一枚」とか評論家気取りで書いていたが(恥)、まあ、その後の彼女の活動を見てみれば、大きく外れた意見ではないと思う。近年のゲッタなどとのコラボは賛否ありそうだが、前作でのウィル・アイ・アムも含め、“時の人”を味方につけながら自身のソウルネスというかブラックネスのようなものを追求していく姿勢が何とも痛快です。

個人的に気に入ったのは、新作の正式リード・シングルとなった“Break My Heart”。ジョン・レジェンドもペンを交えたドン・キャノン制作のスムーズなミッド・チューンで、ヴィンセント・モンタナの78年曲“Warp Factor Ⅱ”を引用したセンスに惚れまくり。この路線では“Cold Crush”も素晴らしい。が、世間的には、クリス・ブラウンとトレイ・ソングスというふたりの“アメリカン・ボーイ”を招き、世界を股にかけてる自分たちをアピールした(?)“International(Serious)”が話題か。グラミー受賞曲となった前作のヒット“American Boy”もそうだったけど、エステルのUKガール目線のリリックって愛らしいというか、ルーツを忘れてなさそうで好感。クリエイティヴ・ソース版の“Wildflower”をネタ使いしたスウィートで切ないスロウ・バラード“Thank You”は怨念系の歌みたいだけど、この歌詞はエイコンによるもの。あと、ニーヨの制作でジャネル・モネイと共演した“Do My Thing”は、UK、USそれぞれの尖がり歌姫どうしのコラボで興味深い。ロッキン・ファンク・ソウルなこれは完全にジャネル寄り(“Tightrope”路線の)曲ですが。さらに、本作にはスポークンワード風なインタールードが5曲挿まれているのだが、それを手掛けたのがザ・ルーツのクエストラヴ。そういや、去年の7月4日にフィラデルフィアで行われた合衆国独立記念コンサートでエステルとザ・ルーツが共演したんだけど、あれはこの新作とも関係があったのかな?

以前、「自分が書く曲は100%実体験」と話していたエステル。今回は、『All Of Me』と題したアルバム・タイトル、それにモノクロームのシンプルなジャケットが伝えるように、これまで以上に自分の素を伝えた作品のよう。個人的には、リリックがどうの…と言われすぎると萎えるのですが、日本盤には素晴らしい歌詞対訳が付いておりますので(ボーナス・トラックの件もありますし)、そちらをおススメしたいです。



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Esperanza Spalding / Radio Music Society

Esperanzaやっぱり放置か…と思われているかもしれませんが(苦笑)。普段原稿を書く仕事をしていると(他の仕事でも)、ブログとはいえ、新たに文章を書くというのは結構大変なことですね。より気軽に書き込めるTwitterやFacebookに流れてしまう気持ちがよくわかりました。でも、取り上げたいアルバム(ここ1ヵ月くらいの新譜、及び再発のニュー・リリース)は既に30枚を超えているので、空いた時間に更新していきます。

今回は、昨年のグラミー賞で大方の予想を裏切って(?)新人賞を獲得した女流ジャズ・ベーシスト、エスペランサ・スポルディングの最新作。通算4作目。当初は前作『Chamber Music Society』とのダブル仕様を予定していたそうで、クラシックの室内楽(Chamber Music)をモチーフにした前作と対になるラジオ向き(Radio Music)なポップスを目指したのが今回の新作なのだそう。“ポップス”と言うと勘違いされるかもしれないけど、まあ、ストレートなジャズの作法からハミ出して、ジャズをストリートに連れ出した…みたいに考えるとわかりやすいかな。なにしろ今回はQ・ティップがコ・プロデュースした曲もありますし。

ウェイン・ショーター“Endangered Species”のカヴァーなんかを聴いていて思ったのは、今回のアルバム、音的にはスティーリー・ダンの『Aja』(ウェイン・ショーターも参加)とかに近い。ジャズ・ポップスというか。で、エスペランサのヴォーカル。エレガントに歌われたマイケル・ジャクソン“I Can't Help It”のカヴァーとかを聴いていると、これはもうジャズというより、単純に上質なソウル・ヴォーカル・アルバムと言った方がよさそうですね。透明感のあるキュートでハートウォーミングな歌声は、ジャズとソウル/ポップスを股にかけたという点も含めてパトリース・ラッシェン(彼女は鍵盤奏者だが)に似てるかな、とも。一部では、先に出たロバート・グラスパーの新作などと一緒に、ニコラス・ペイトンが提唱するBAM(Black American Music)ムーヴメントの一環で…とか俄かに言われ始めているけど、3月上旬にプロモーション来日した時の彼女の口ぶりからすると、そんな小難しいこと考えてないような印象を受けたし、個人的には、BAMがどうのなんて思いながら聴くのはしんどい。もっとも、アルジェブラ(・ブレセット)と共演した先行曲“Black Gold”は「奴隷制度前の私たちのアフリカン・アメリカンとしての伝統を歌った」というアフロ賛美的な曲だったりと、メッセージ色の強い作品でもあったりするのだけど。

ところで今回の新作、通常盤とDVD付きのデラックス盤がある。もちろん(?)僕が買ったのはデラックス盤(ジャケの地色が紺色)の方。で、そのDVDの中身というのが、先に公開されていた“Black Gold”を含む、アルバム本編に収録された12曲中11曲分のミュージック・ヴィデオで、それらがストーリー性をもって切れ目なく展開されていくという60分超の映画(風)になっているのだ。NYや、故郷のオレゴン州ポートランドなどで撮影されたそれは、曲によってはシリアスな描写もあるが、何だか無性にNYに行きたくなるようなハイセンスな映像&ストーリーで、アルバムの曲をより楽しむなら、こちらのデラックス盤を猛烈におススメしたい。

ちなみに今作でドラムを叩いているのは、女流ジャズ・ドラマーのテリ・リン・キャリントンだが、エスペランサも参加したテリのリーダー作をはじめ、先に名前を挙げたニコラス・ペイトン、ロバート・グラスパー、今度出るジェフ・ブラッドショウの新作、あとグレゴリー・ポーターなんかも含めて、ここ最近R&B脳で聴きたいジャズ作品が増えていて、こういうのをR&B視点で語るメディアが欲しいなぁ…などと思ったり。そういや、今作の1曲目“Radio Song”では、一部で“ネクスト・ディアンジェロ”なんて呼ばれてもいるクリス・ターナーがバックで歌っているんだけど、彼が最近Bandcampにアップしたミックステープ『The Monk Tape』もジャズ盤だった。



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Tara Priya / Tara Priya

ターラレディシのライヴから1日置いて、またビルボードライブ東京へ。…なんて言うと遊んでばかりみたいだけど、先週はたまたま。今度は、2月にPヴァインから日本先行でデビュー・アルバムをリリースしたターラ・プリーヤ嬢。インド人とイラン人の血を引くエキゾチックな容姿が麗しいサンフランシスコ在住の女性シンガー・ソングライターの来日公演だ(24日:セカンド・ステージ)。

どこかマイアを思わせる小悪魔キュート系のルックスからはちょっと想像がつかないかもしれないが、幼少期にピアノとドラムを習得し、オペラやジャズも学び、ニューヨークのコロンビア大学では経済学を専攻していたという才媛。高校時代からソングライターとしての才能も開花させ、「ジョン・レノン・ソングライティング・コンテスト」で入賞、「ビルボード・ソング・コンテスト」で優勝といった輝かしい経歴を持つ。

デビュー・アルバムは、大学卒業後、地元のサンフランシスコに戻って制作した2枚のEPからの曲が中心で、古いリズム&ブルースをポップな感覚で今様に聴かせるレトロ・ヴィンテージなソウル盤。シャッフル・ビートの曲を快活に歌ったり、ブルーなバラードを時にアンニュイな表情を見せながら情熱的に歌ってみせる。わかりやすく言うと“エイミー・ワインハウス以降”というか、アデル、ニッキ・ジーン、ディオンヌ・ブロムフィールド、ジャスミン・カラ…とバラバラな個性を一緒に括っちゃうのも乱暴だけど、彼女の音楽もそうした流れにある。実際に繋がりもあるというラファエル・サディークの女性版とも言えるかな。地元も一緒だし。恋愛のダークな面をテーマにしているという歌詞は実体験に基づいているとのこと。

実は2月にも来日し、某レコードショップでミニ・ライヴを行っていたターラだが、バンドを従えての正式な来日公演は今回が初。何と主役のターラ以外、バンドのメンバーは全員白人の若者で、アメリカの学園モノのドラマに出てきそうなアマチュア・バンドっぽい初々しさ。ドラム、ベース、ギター、サックス、トランペットの男子(あえてこう書く)は、何だか若い頃のビーチ・ボーイズ風。その中にひとり水玉柄のワンピースを着たガーリーなキーボード女子がいるあたりがまた学園っぽくて、ちょい萌え。白人バンドを従えた有色人種のシンガーのステージということで、僕はEssence Music Festivalで観たソランジュ(ビヨンセの妹)のライヴを思い出してしまったのだが、音楽的にもソウルというよりオールディーズと言った方がしっくりくるそれはソランジュに近い。もしくはデビュー当初のメラニー・フィオナ。そんな雰囲気だ。

ターラの歌はやや一本調子なところもあるけど、生で聴く声もCDと同じくエモーショナル。レパートリーはもちろんアルバムの曲が中心なのだが、アルバムで“Southern Girl”なんて曲を歌っている彼女らしく(?)、バンド・メンバーの紹介を兼ねてジーン・ナイトの“Mr.Big Stuff”を歌ったり、エディ・フロイドの“Knock On Wood”を熱唱したり、ディープな一面も見せてくれた。そういえばアルバムにはベティ・スワンへの謝辞もありましたっけ。そんな趣味の彼女だけに今後の展開も気になるところ。MCでも名前を出していたけど、ラファエル・サディークと組んだら本当に面白いかもしれない。

終演後は、会場でお会いしたレココレ編集部のN氏夫妻と3人で軽く飲み、夫人のニューオーリンズ留学話などで盛り上がる。ライヴでジーン・ナイト(ニューオーリンズ出身)曲のカヴァーを聴いた後にNOLA話。そこで話題になったギャラクティックの新作(傑作!)についても書いてみたいけど、機会があれば。



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