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Wonderland-The Spirit Of Earth Wind & Fire

Spirit Of EW&Fこ、これは…。我らが長岡秀星画伯によるアース・ウィンド&ファイア『太陽神』(原題『All ’N All』)の出来損ないみたいなデザインのジャケット。まあ、EW&F感は伝わってきますが(笑)…ってなわけで、今回は英エクスパンションから発売されたこのコンピレーションを。EW&Fの編集盤ではなく、EW&Fメンバー(フェニックス・ホーンズ含む)の外仕事にスポットをあてたコンピレーションだ。EW&Fメンバーが演奏やソングライティング/プロデュースなどで参加したEW&F以外のナンバーを20曲収録。昨年はEW&Fデビュー40周年を記念して、日本でもカリンバ・プロダクションの作品が紙ジャケで再発され、今年に入ってからはEW&F本体(コロンビア時代)の紙ジャケCDも発売されたが、なら、UKも黙っちゃいれらん!ということか。

で、ラムゼイ・ルイス“Tequila Mockingbird”に歌詞をつけてカヴァーしたディー・ディー・ブリッジウォーターの快活な疾走アップで幕を開けるこのコンピ。選曲/監修は、先日紹介したPIR創立40周年記念ボックスを手掛けたラルフ・ティー(およびポール・クリフォード)ってことで、これまた一筋縄ではいかない、ソウル・リスナーのツボを押さえた選曲になっている。当然ながらカリンバ・プロの楽曲も選ばれているのだが、例えばポケッツが“Got To Find My Way”、デニース・ウィリアムスが“The Boy I Left Behind”、エモーションズが“There'll Never Be Another Moment”という感じで、定番曲を外して隠れ人気のアーバン度高めな曲を入れてくるというこのセンス…まったく憎たらしい(笑)。4曲目にマイティ・クラウズ・オブ・ジョイ“Glow Love”(アル・マッケイ制作)が登場するなんて、マニアックだよなぁ。

ロニー・ロウズ、カルデラ、ヴァレリー・カーター、パウリーニョ・ダ・コスタなど、EW&Fの楽曲に何度か関わった人たちの収録は想定内として、フィリップがリード・ヴォーカルを務めたエイブラハム・ラボリエル(メキシコ出身のベーシスト)の曲やアル・マッケイ&フィリップ作の“Angel”を歌ったフローラ・プリムとかは普通なかなか入ってこない。チャカ・カーンの7インチ・オンリー(“What' Cha Gonna Do For Me ”のB面)だった“Lover's Touch”なんて、EW&Fに曲(“Getaway”など)を提供したビロイド・テイラー(S.O.U.L.の元メンバー)が書いているというだけで収録って、ここまでやりますか、という感じだ。たぶん一番ストレートな選曲はラムゼイ・ルイスの“Sun Goddess”だろう。が、これもシングル・ヴァージョンを用意するという周到さ。

曲ごとのクレジットには、どのメンバーが何で関わったかということまでキチンと書かれている。特にホーン・セクションに関してはフェニックス・ホーンズのメンバーに加えて、常連だったオスカー・ブラッシャーなんかの名前まで記されていて、もしやラルフ、「サックス&ブラス・マガジン」のEW&F特集号見たな?と思ってしまうほど(笑)。冗談ですが。全体を通して聴いて思ったのは、モーリス・ホワイトやフィリップ・ベイリーの個性はもちろんだけど、ラリー・ダンの洒脱なキーボード・センスやアル・マッケイのコロコロした軽快なグルーヴが引き立った曲が多いなぁということ。タヴァレスの“Love Uprising”とかグレイ&ハンクスの“Dancin'”なんて基本フェニックス・ホーンズのメンバーが関わっただけなのに、リズム隊までEW&F感があるという。あと、アルトン・マクレイン&デスティニ-やジーン・ハリスなど、スキップ・スカボロウが書いた曲も収録。個人的に大好きだったブルー・マジック“I Waited”はプロデュースがスカボロウで、フィリップがペンをとり、アル・マッケイがギター、ラルフ・ジョンソンがドラムスで参加しているのだけど、これもアル・マッケイ感全開だなぁ。そういえば、エクスパンションからは以前スキップ・スカボロウの作品集『Skip Scarborough Songbook』が出ていたけど、あれとは選曲がかぶっていない。

さて、EW&Fといえば、去る5月17日に一夜限りの来日公演(@東京国際フォーラム)を行った。もう1ヵ月以上前のことなので詳しく書かないけど、古参メンバー3人(ヴァーディン、フィリップ、ラルフ)を中心に、フィリップの息子たちを加えた現グループは、モーリスの不在を何とかカバーしつつ新たな道を歩み始めていて、これが実に清々しい。フィリップも、そりゃ全盛期のようなファルセットは出ないけど、かなり頑張っていたと思う。モーリス役を務めるデイヴィッド・ウィットワース(元14カラット・ソウル)がちょいと出しゃばりすぎ?な印象もあったが(笑)、今やこうするしかないというか。マイロン・マッキンリーらを擁するバンドも悪くない。後でいろいろなライヴ評を見たり聞いたりすると、「“September”最高!」「当時の思い出がよみがえってきて涙」という意見もあれば、「PAが悪い」「モーリスがいないなんてやっぱりEW&Fじゃない」という意見もあって、まあ、人それぞれ。どのアーティストのファンもそうだが、特にEW&Fのファンは、テクニカルなことにまで言及するマニアと、懐かしの曲が聴ければそれでOKというライトなファン(バカにしているわけじゃないです)の温度差が激しい(ように見える)というか。そんな感じだから意見もバラバラになるのは当然。予想通り、会場が最も湧いたのは“Fantasy”“September”“Let's Groove”の3連発。やっぱり日本では“ディスコのEW&F”なんですね。ちょっと自慢っぽく聞こえてしまうかもだけど、これが本国アメリカでのライヴ(僕の場合はEssence Music Festival、昨年の独立記念日コンサートwithザ・ルーツを観戦)だと、ダンス・ナンバーはそこそこの反応で、“Devotion”や“Reasons”といったスロウ・バラードで観客絶叫となる。ここらへんの違いはとても興味深い。

EW&Fとしては、今年秋、延び延びになっている新作『Now,Then & Forever』(著名アーティストたちが選ぶEW&F名曲コンピとのセット)を発表予定。それに先駆けて、来日時に新作用のインタヴューを行ったのだけど、5月の時点では、曲は録ってあるものの選曲も含めてまだ大半が未定という感じだった。でも、今回は先行シングル“Guiding Lights”でキーボードを弾いていたラリー・ダンも結構関わっているようで、往年のファンには嬉しいトピックがいくつかある。それまではこのコンピでも聴いて待っていましょう。…何だか最近ラルフ・ティーの提灯持ちみたいだけど、まあ、いいか。

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Philadelphia International Records~The 40th Anniversary Box Set

PIR40ちょっとばかり紹介が遅れてしまったが、既にソウル・ファン、フィリー・ソウル好きの間で話題になっているフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)の創立40周年記念ボックスが届いた。英Harmlessからのリリースで、以前こちらの記事の最後でも軽く触れたように、PIR及びTSOPなどのサブ・レーベルの音源を交えたCD10枚組。全175曲という特大ヴォリュームのボックスだ。これで7,000円前後なのだから結構お買い得!?

フィリー・ソウル(PIR)のボックスというと、本国USではソニー/レガシーからギャンブル&ハフの仕事をまとめた『The Philly Sound:Kenny Gamble,Leon Huff & The Story Of Brotherly Love(1966‐1976)』という3枚組のCDボックスが97年に登場。これはまだ(ジャクソンズ以外の)76年以降のPIR音源の権利がソニーに戻っていない時のもので、それをカバーすべくPIR設立以前のウィルソン・ピケットやローラ・ニーロなんかの“第一期フィリー詣で”なシグマ録音曲も収録していた。で、76年以降の音源がソニーに戻ってからは、アヴコのスタイリスティックスやアトランティックのスピナーズなどの曲も交えた4枚組『Love Train:The Sound Of Philadelphia』が2008年(日本盤は2009年)に登場。ギャンブル&ハフやトム・ベルなど関係者のインタヴューや回想を載せたブックレットも結構な評判を呼んだ。日本盤のライナーノーツ(序文+71曲分の楽曲紹介)は自分がやっていて、2009年の正月に必死で書いたことを思い出す。一方、ヨーロッパ発のボックスでは、イギリスのストリート・サウンズから86年に出たLP14枚組セット『The Philadelphia Story』が有名。これは当時決定版とされた。それと、76年以降の権利が切れる直前にフランスのKnightレコーズが89年に出した『Philadelphia Years』というボックス(CD、LP、カセットで発売)。個人的にはこれを10代後半に聴きまくっていた。ニュー・ジャック・スウィングなんかと一緒に。

そこで今回、英Harmlessから登場した40周年記念ボックス。これまでのボックス、特にUSリリースのものは基本的に年代順に曲を並べてヒストリー性を重視していたが、今回のボックスは全体を通して何となく年代順ではあるものの、1枚のディスクにいろんな年代の曲が入っていて、ディスクごとに何となくテーマが設定されている(特に明記されているわけではない)。選曲/監修は、エクスパンション・レコーズを主宰するラルフ・ティー。英国人ソウル・マニアの彼らしい選曲(グルーヴィーでメロウなそれ)になっているのだけど、実は先述のLP14枚組『The Philadelphia Story』もラルフの監修で、本ボックスはそのLP14枚組をベースにしているようだ。もっとも、そのLP14枚組が発売されてから今や25年以上経っているわけで、今回は、80年代中期以降にEMIマンハッタンが、90年代にZOOエンタテインメントが配給していた時期のPIR音源も収録。もちろんオージェイズをはじめとする70年代のPIR名曲はひと通り収録されている。

注目はやはり、以前チラッと触れたディスク3か。当初アナウンスされていた収録曲とは若干異なるが、一昨年に日本でもCD化されたハワイのディック・ジェンセンをはじめ、エボニーズやアンソニー・ホワイトの昂揚感溢れる7インチ・オンリー曲、同じく7インチ・オンリーでゴールデン・フリース原盤となるラヴ・コミッティのダンサーとエシックスのスロウ、TSOP原盤となるカレイドスコープの素敵すぎるフィリー・ダンサー、トム・ベルが送り出した兄妹デュオのデレク&シンディによる“黒いカーペンターズ”風なバラード(サンダー原盤)……と、アナログだと結構レアな曲が並ぶ。あと、個人的に興味深かったのがディスク7。ここに並ぶのはジャズ、ジャズ・ファンク、ジャジー・スタイルのソウルで、マイケル・ペディシンJr.、モンク・モンゴメリー、それにノーマン・ハリスやリオン・ハフといった楽器奏者の曲が多め。全米屈指のジャズ・タウンでもあるフィラデルフィアのレーベルだけに、こうしたジャズにも力を入れていたのだ。ディスク7にはフィリス・ハイマンの没後に出された91年録音のラテン・タッチなアップ・チューン“Forever With You”も収録。ここでのジャジーで優雅なグランドピアノのプレイは、当時PIRで修業中だったジェイムズ・ポイザーだったりします。

他にも、何となくレア・グルーヴな選曲のディスク6、ステッパーズとして好まれる曲を集めたディスク8(スタイリスティックスの“Mine All Mine”とか!)あたりが個人的にはツボ。シャーリー・ジョーンズやフィリス・ハイマン、デルズなど、80年代中期以降の曲が多く並ぶディスク10もいいかな。正規では初公開となるジョーンズ・ガールズの美麗なミディアム“Baby Don't Go Yet”も入っている。デルズは92年にZOO配給のPIRから出したアルバム『I Salute You』の曲を収録。デルズといえば、PIR設立当初ギャンブル&ハフが獲得しようとするも叶わなかったグループ。代わりに連れてきたのが、デルズのマーヴィン・ジュニアに似たバリトン・ヴォイスのテディ・ペンダーグラスを擁するハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツだったというのはよく知られた話。それが20年近くを経てデルズ獲得となったわけで、このボックスでは、そんなPIR/ギャンブル&ハフのストーリーを通して見ることもできる。ちなみにデルズは70年代のPIRではレコードを作らなかったが、77年にマーキュリーからノーマン・ハリスらのバックアップによるシグマ録音のアルバムを2枚発表。それらは最近、デイヴィッド・ネイザンが主宰するイギリスのSoulmusic.comからボーナス・トラック付きで再発された(これも良いです)。

楽曲ごとの解説、品番つきのディスコグラフィーを掲載した50ページ以上に及ぶブックレットも力作。これだけでも十分価値がある。そして、箔押しというかデボス加工されたPIRのレーベルロゴが金に輝くシックな黒地のボックス。どこかの高級ブランドみたいな箱で…PIRの音楽は金持ちに向けたようなものじゃないけど、40周年記念ってことで、これくらい豪華でもいいでしょう。今やPIRというレーベル自体がブランドですし。僕が言うこともないけど、ブラック・ミュージック愛好家はマスト!って感じで興奮しすぎたのか、以前予約していたのを忘れて某ネット・ショップで再び購入ボタンを押してしまったようで…ウチには2箱あります(笑)。まあ、これくらいよく出来た箱なら2つ持っててもいいか。今後はPIR以外の、アトランティックやブッダとかに残されたフィリー録音曲を集めたボックスも期待したいところ。いつか自分で作ってみたいなぁ。



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Earl Van Dyke / The Motown Sound~The Complete Albums & More

EVD最近の新譜やライヴをネタにすると女性アーティストばかりになりそうだったので、ここらでリイシューものを。60年代モータウンのサウンドを支えたファンク・ブラザーズのオルガン/キーボード奏者、アール・ヴァン・ダイクがモータウンに残した音源のコンプリート集。モータウン作品のリイシュー/発掘で気を吐くHip-O Selectからのリリースだ。

ファンク・ブラザーズといえばベーシストのジェイムズ・ジェマーソンの名前が真っ先に挙がるけど、ジェマーソンと並ぶグルーヴ・マスターと言えば、個人的にはこのアール・ヴァン・ダイクを思い浮かべる。ただしファンク・ブラザーズ、60年代にテンプテーションズ、スプリームス、マーヴィン・ゲイ、フォー・トップスなどの曲でバック演奏を担当していたにもかかわらず、当時はその存在がほとんど知られていなかった。いや、今も熱心な音楽ファン以外にはあまり知られていない。ファンク・ブラザーズにスポットを当てた映画『永遠のモータウン』の冒頭で、レコード屋にいるお客さんにモータウンの曲で演奏していた人たちについて訊いてみても誰も知らないっていうシーンがあったけど、たぶん今もあんな感じでしょう。それもそのはず、60年代には彼ら演奏者の名前がレコードにクレジットされず、マーヴィン・ゲイの『What's Going On』(71年)で初めてその名が記されたのだから無理もない。当時は公にはファンク・ブラザーズとも呼ばれていなかった(2004年のベストCDで初めてその名義が使われた)。同じハコバンでもスタックスのブッカー・T&ザ・MGズがバンド名義でレコードを出していたのとは大違いですね。

けれどモータウンも、数々のヒット曲に貢献した演奏者たちのプライドを損ねないように(?)、リーダ-的な存在のアールを中心とした、実質ファンク・ブラザーズによるアルバム/シングルをリリース。ひとつは65年にアール・ヴァン・ダイク&ザ・ソウル・ブラザーズ名義で出した『That Motown Sound』。プロデュースは、ミッキー・スティーヴンソン、ヘンリー・コスビー、ハーヴェイ・フークアで、タイトルが示すように、当時のモータウン名曲のオケを収録したものだ。ヴォーカル・パートがない代わりに、アールのグルーヴィーなオルガンが主旋律を奏でるのだが、よく言われるように彼のプレイって大胆で攻撃的、そしてクドい(笑)。もっとも、モータウンのスターたちによって歌われたヴァージョンでは、アールの鍵盤もそれほどうるさくないけれど。

もうひとつは70年にアール・ヴァン・ダイク名義でリリースした『The Earl Of Funk』。70年1月にデトロイトで行ったライヴをパッケージしたこちらは、スライ、ミーターズ、ベン・E・キング、トニー・ジョー・ホワイトなどの非モータウン曲やアルバム用のオリジナルも交えた、ある種ニュー・ソウル的な選曲。Chunk Of Funkというニックネームがついていた彼らしい、まさに“ファンクの塊”とでもいったプレイが聴けるアルバムで、アールのリーダー作だが、バックはジェイムス・ジェマーソン(b)やロバート・ホワイト(g)らが務めるってことで、これもファンク・ブラザーズの作品と言って差し支えない。今回のCD(2枚組)は、その2枚のアルバムに、シングル・オンリー曲や未発表曲、ライヴ音源を加えた完全盤というわけだ。とりわけ、Disc 2に収録されたジェイムズ・ジェマーソン名義の図太くファンキーな3曲(レア&未発表)は圧巻。

70年代に本社が西海岸に移転するとミュージシャンもバラバラになるが、60年代には「ヒッツビルUSA」と言われたデトロイトのモータウン本社のスタジオ・Aを根城に数々の名演を生み出したファンク・ブラザーズ。狭い部屋ゆえにスネイクピット(蛇の穴)と呼ばれたスタジオ・Aは、現在はモータウン博物館となっている旧本社社屋に当時のまま残っていて、見学者はスタジオに立つこともできる。僕も2008年の夏に初めて訪れたけど、まあ、ソウル好きなら確実に興奮します。

かなり強引かもだけど…デトロイトの鍵盤奏者ということで、アールのスピリットって、ドウェレやアンプ・フィドラー、ケムなんかにも受け継がれているのかな、とも思ったり。あと、ファンクなビート感覚ってことではデトロイト出身の故J・ディラにも通じていたり、とか。直接影響を受けていなくても間接的には繋がっているはず、と僕は思っている、というか思いたいです。



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