R&B

Tyrese / Black Rose

Tyrese9月くらいにEssence Festivalのリポートを書こうかな……あと『新R&B入門』についても書かないと!と思ったのだけど、ブログの書き方を忘れかけていたので、1年ぶりくらいに更新してみた。以下、朝、起きがけにFacebookに書いた駄文のコピペ。

朝から晩まで、気がつけばタイリースの“Shame”を聴いている…という日々が(NOLA滞在時も含め)1ヵ月以上続いている。サム・ディーズ作のアトランティック・スター名曲“Send For Me”をさりげなく引用し、サム・クックを起点とする濃厚なソウル/ゴスペルの血脈を受け継ぐシャウト交じりの激唱で、実直かつエモーショナルに歌い上げ るソウル・バラッド。贅沢にもバック・ヴォーカルの一員として起用されたジェニファー・ハドソンは、アルバムにフィーチャリング・シンガーとして参加したクリセット・ミシェルやブランディよりも圧倒的な存在感を示す。聴きながら拳を握りしめてしまうような、どこをどう切っても“ソウル”としか言いようがない曲に、2015年という時代に出会えたことが、ただただ嬉しい。個人的には、年内にこれを凌ぐ名曲に出会わない限り、2015年のNo.1 R&Bソングとなりそう。制作はウォーリン・キャンベルで、DJ.ロジャーズJr.がペンを交え、ギターがワー・ワー・ワトソン。

ピアノ基調のシンプルなバックやクワイア調のコーラスなど、曲の作りは何となくサム・スミス“Stay With Me“と似てたりもするけど、サムの曲が(いい曲だけど)大仰でどこか壁があるというか心底のめり込めないのに対し、タイリースのこれはどっぷり浸れる。 これはもう個人の趣味でしかないが、勝手に比較させてもらうなら、一応R&Bと呼ばれるサムの曲と真正R&Bなタイリースの曲とでは、微妙なようで大きな違いがある。タイリースのシンガーとしての年季、LAのワッツ地区で育ったチャーチ・ルーツを持つ黒人としてのプライド……なんかもう気迫が違う。

この“Shame”を含むアルバム『Black Rose』は、早々に(自身初となる)全米アルバム・チャート1位を獲得。俳優としての人気等いろいろ要因はあると思うが、こういうストレートな R&Bアルバムが全米No.1を獲得するアメリカのチャートは頼もしいというか健全というか、やっぱりいいなぁと思ってしまうのであります。




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Soul Togetherness 2012

Soul 20123月にブログを始めてから早9ヵ月、2012年も残すところあと僅かとなってしまった。当初の予想通り(?)定期的には更新できず、8月以降はR・ケリーの新作について書いたきり3ヶ月以上放置し、11月になってEssence Music Festivalの座談会リポート3日分+序文をアップしたものの再び放置状態…。今年は、おかげさまで随分忙しくさせてもらいまして。まあ、皆さんお忙しいので、そのおこぼれが端くれの僕にも回ってきたのだと思いますが、レギュラーの雑誌や不定期の刊行物に加え、例年なら年間20本書くか書かないかだったCDのライナーノーツを、今年は一ヵ月に20本以上書く月もあったりで、物事をじっくり考える余裕がなかった。特にオリンピックあたりからアレコレとあり、ブログを書く時間がないというか気力ゼロ…と言いつつ、TwitterとかFacebookには仕事のネタ+αをちょくちょく書き込んでいたのだけど、原稿を書いた後にさらに文章を書くというタフさが残念ながら僕にはないようです(苦笑)。そんなこんなで、やはりブログはやらないほうがよかったのかなぁ…などと思い始めてもいる今日この頃ですが、年末進行も一段落したので再開してみました。

この時期になると、音楽ファンの皆さんは年間ベスト・アルバムなんかを考え始めているのではないでしょうか。国内外のメディアでも、あちこちで年間ベスト・アルバムの特集が組まれていたりしますが、僕も僅かながらいくつかのメディアで個人ベストなどに参加させてもらっています。最近ですと、ディスクユニオンさんが発行している『黒汁通信』の年間ベスト増刊号『黒汁大賞2012』に“黒ジリスト”のひとりとして今年も参加させていただくことに。黒汁マナー(って?)に則って、新譜・再発合わせた個人ベスト5を選んでいます。また、個人ベストではないですが、タワーレコードさん発行の『bounce』誌では、これまた今年も年間ベスト企画「OPUS OF THE YEAR」(R&B部門など)でアルバムに関するコメントを書いています。今後もまだいくつかあるのですが、今年はせっかくブログを始めたことですし、本ブログでもR&B/ソウルに限定した新譜/再発/シングルの個人ベスト10 と2012年のR&B総括みたいなのをやってみようかと考え中。まあ、自己満足以外の何物でもないですが、R&Bに限って言えば、それを専門に扱う(US R&Bを軸にした)日本のメディアは今や皆無なので、自己満足ついでにまとめておこうかと(予定)。

それにしても、いろいろな雑誌/メディアの年間ベスト・アルバムを見ていて、とても興味深いです。R&Bに関しては、僕の勝手な思い込みかもしれませんが、ロック・ジャーナリズム的価値観で選ばれたそれというか、レフトを気取った欧米の音楽雑誌の価値観が日本にも飛び火して…という感じで、オレンジ色の憎い奴(≠夕刊フジ)とか「消臭力」じゃない方の人の2ndがお約束のようにランクインしていて、へぇと思ったり。もちろん両作とも優れたアルバムだし、実際に今年の〈Soul Train Awards〉でも評価されたわけだけど、R&Bだけは相当な数の作品を聴いてるはずの自分からすると、それだったらあれも…と思うところもある。まあ、ここらへんのことは書き出すとキリがないので止めておきますが、評論家的なポーズをとるために世の風潮に歩調を合わせて、実際はそれほどピンときていないのに、その良さをあえて見出そうとしたり考え始めたりしたらそれは本心ではないと思うので、R&Bリスナーとしては尖がった部分を求めながらも保守的な感覚がベースにある僕のベストは、世間の評価とは少しズレたものになりそうです(既に発表済みのものも含め)。

で、今回は、そんな自分の正直な気持ちを代弁してくれているようなコンピを。UKのエクスパンションから毎年冬が近づくとリリースされる『Soul Togetherness』です。僕の記憶が正しければ第一弾が出たのが2000年。ということは、今回で13タイトル目になるのかな。モダン・ソウルをキーワードに、アーバンでスムーズなソウルを主力とするエクスパンションらしい感覚でその年に話題になった主にインディのR&Bやハウス、クラブ・ジャズ曲を70~80年代ソウルの曲も織り交ぜて収録しているのですが、これが僕の趣味とドンピシャ。特に2012年版の選曲は思いっきり僕好み。しかも今回は、R・ケリー“Share My Love”やアンソニー・ハミルトン“Woo”といったUSのメジャーどころまで入っていて、ソウルペルソナやクール・ミリオン、ジャザノヴァといったヨーロッパのクリエイター(・チーム)が作るダンサブルなナンバーたちの中に違和感なく溶け込んでいる。収録されているのは、必ずしもその年に発表された曲とは限らず、その年にフロアでヘヴィ・プレイされるなどした旧曲も含まれる。例えば、ロウレルの必殺メロウ・ダンサー“Mellow Mellow Right On”を引用したビッグ・ブルックリン・レッドの“Taking It Too Far”は4年ほど前に出ていた曲(これを収録したアルバム『Answer The Call』も好盤!)。どうやらここ2年くらいアンダーグラウンドなフロアで人気だったようで、実際、今年7月にニューヨークで観たヤーザラーのライヴでも開演前にDJがこの曲をかけていた。ネタに頼った曲とはいえ、これは文句なしに気持ちいい。

個人的に一番嬉しかったのが、UKではリール・ピープル・ミュージックと配給契約を結んだフィリーの姉妹デュオ、エイリーズが2010年にデジタル配信して話題を呼んだ爽快メロウなダンサー“Don't Give It Up”の初フィジカル化。70年代後半のテイスト・オブ・ハニーやマイケル・ジャクソンと繋げて聴いても違和感ない曲です。そして、KEMとのデュエットでも知られるデトロイトの歌姫モーリッサ・ローズ。彼女に関しては、アニタ・ベイカーのスピリットを受け継ぐ歌姫と勝手に思っていたのだけど、今回収録された“Thinking About You”をプロデュースしているのは、誰あろう、マイケル・J.パウエルその人であった。これまたスムーズなダンサー系の曲で、パウエルらしいジャジーでアーバンな作法とモーリッサの熱く深みを湛えたヴォーカルが見事な相性をみせる。他にも、ジェラード・アンソニーの新作『Ready To Live』からロニー・ロストン・スミスらをフィーチャーしたウェルドン・アーヴィンfeat.ドン・ブラックマン曲のカヴァー“I Love You”、来日公演も決まったソウル・ジャズ・シンガー、グレゴリー・ポーターの出世曲“1960 What?”のダンサブルなハウス調リミックス(Opolopo Kick & Bass Rerub)などなど、気持ちよすぎる全15曲。主義主張ありげな音楽を腕組んで考えながら聴くより、こういう方がずっと楽しいなぁ…という主義主張をしてしまいましたが、リハビリがてら書いてみました。これを機に、もう少し頻繁に更新していけたらなぁ…と思っています。


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R.Kelly / Write Me Back

KellyEssence Music Festival(EMF)から早くも1ヵ月が経とうとしている。リポートもそろそろ発表したいのだけど、今年は有志で座談会をやることになり、今大急ぎでそれをまとめているところ。で、そんな作業を仕事の合間にしつつ旅の思い出に浸っているのですが、思い出といえば毎年ニューオーリンズ(NOLA)のホテルでBGMとして流しているのが、現地のR&B専門FM局WYLD。これをつけていると、頻繁にかかるヘビロテ曲があって、それがその年のEMFとセットになって記憶されていく。

今年は、ジョン・レジェンドfeat.リュダクリス“Tonight(Best You Ever Had)”、アッシャー“Climax”、ロビン・シック“All Tied Up”あたりがヘビロテ。まあ、WYLDに限らず、R&Bとクラシック・ソウルを流すUSのR&B専門局はどこも選曲が似たりよったりなのですが。それに今は海外でエア・チェックしたカセットテープがお土産になっていたような時代とは違って、例えばNYのWBLSとかは日本からでもネットでリアルタイム(いわゆるサイマル・ストリーミング放送)で聴けてしまう時代。渡米者のみの特別な体験にはならない。それでも現地で聴くとリアルだし、WYLDに関しては、EMF開催期間中フェスの出演者がゲストで出ていたりして、それがまた気分を昂揚させてくれる。そのWYLDで今年、他のどの曲より耳にしたのがR・ケリーの“Feelin' Single”だった。先頃発表された新作『Write Me Back』の先行(セカンド・)シングルだ。

そんなわけで、今回は遅ればせながら『Write Me Back』について簡単に。デビュー時から在籍したジャイヴの閉鎖にともないRCAに移っての初アルバムとなる今作は、結果から言うと前作『Love Letter』(2010年)の続編だ。タイトルも前作の“ラヴレター”に対して“お返事待ってます”的なニュアンスが込められている…などと一部で言われていたが、R・ケリー本人はこれを完全否定している模様。まあ、タイトルに込められた意味がどうのなんて音や歌(声)を聴く上では二の次なので、これに関してはスルーしたい。とはいえ、サウンド的に前作を踏襲しているだろうことは聴けば明らか。今や十八番となったステッパーズを絡めたソウル・オマージュ・アルバムとでも言ったらいいか。なにしろ“Feelin’ Single”からして、ビル・ウィザーズ“Lovely Day”を下敷きにしたオマージュ・ソング。また、アルバム本編のラストを飾る先行ファースト・シングル“Share My Love”は70sフィリー・ソウル調の華麗なダンサー。ケリーがここまで直球なフィリー・ソウル調の曲をやったのは、たぶん初めてだと思う。ストリングスもいかにもフィリーって感じで、アレンジはラリー・ゴールド(元MFSB)かな?と思っていたら、なんとアルバム全編の管弦アレンジ/指揮がラリー(とケリー本人)だった。ラリーのストリングスを大フィーチャーしたのは、2004年のステッパーズ&ゴスペル・アルバム『Happy People/U Saved Me』以来。前作ではおそらくプログラミングだったストリングス&ホーンが今回は生ということで、ゴージャス度満点だ。

オマージュ・アルバムということで、シングル2曲以外も有名なソウル/リズム&ブルース曲にインスパイアされたナンバーがひしめく。踊るようなパーカッション音とベースが曲を引っ張っていく冒頭のアップ“Love Is”からしてフィリー・ソウル~サルソウル風というか、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツみたいなフィリー・ダンサー。フィリーといえば、“Lady Sunday”も盟友ドニー・ライルが弾くノーマン・ハリス風オクターブ奏法ギターも含めて、おそらく狙ったのはスピナーズの“I'll Be Around”だろう。また、“Believe That It's So”はスティーヴィ・ワンダーの“As”を彷彿させるし、“Green Light”は得意のアイズレー・ブラザーズ調メロウ曲。“Fool For You”はメロディ・ラインから繊細な優男ヴォイスまでスモーキー・ロビンソン(&ミラクルズ)風で、実際にケリーはスモーキーにインスパイアを受けたと(ココで)語っている。かと思えば、“Believe In Me”はアトランティック時代のレイ・チャールズが乗り移ったかのようなゴキゲンなリズム&ブルース曲で、“What'd I Say”みたいなウーリッツァーの音までご丁寧に再現。“Party Jumpin'”も、最近だとジャネル・モネイあたりがやっている50~60s風ロッキン・ソウルで、ここらへんは前作に入っていてもおかしくないような曲だ。“○○風”などと書いていると表現力の欠如と言われそうだけど、でも、どう考えたって明らかに“○○風”を狙ってるんだから、やはりここはそう語るのがベターというか、そう聴くのが正解かも。とにかく、ソウルマンになりきって伸び伸びと歌うケリーがやたら清々しい。唯一、普段の(現行R&B路線の)R・ケリーっぽいのが“Clipped Wings”という悲哀を込めたバラード。ウォーリン・キャンベルとの共作となるこれは今作においては異質で、ちょいと座りが悪かったかなという気がしなくもない。

ところで、僕が買ったのはUS盤のデラックス・エディション。これには日本盤と同じく4曲が追加されているのだけど、その中でとりわけ話題になっているのが“You Are My World”という曲だ。これはケリーがマイケル・ジャクソンに(と?)書いた曲のデモと言われ、ネット上で公開(リーク?)されていた音源の正規収録版。これまで何度かMJに楽曲提供していたケリーが、いつ、どのタイミングで作ったのか、ちゃんと調べてないのでわからないのだけど、ケリーの歌い方やブレスはモロにMJを意識していて、これはケリー、MJ双方のファンにとって嬉しいプレゼント。それにしても、短期間にこうもスラスラと人々を熱狂させる曲を簡単に作ってしまえる(ように見える)ケリーには感心させられるばかり。おそらく曲のストックが山ほどあるのでしょう。しかも、今作の裏では、もう一枚メインストリームR&B仕様のアルバム(タイトルは『Black Panties』とされるが詳細不明)を作っているとも言われている。今回それを保留にしてまでソウル・オマージュ的なアルバムを出してきたケリーの心境や如何に。そういえば“Feelin' Single”のミュージック・ヴィデオでは途中でフランク・シナトラ気取りのミュージカル風寸劇が挿まれるのだけど、今の気分的にはこっちなのかな。ともあれ、クラシックなソウル・スタイリストを気取りつつ2010年代の空気をも表現できてしまうケリー。こういう人が現役で活躍できているという事実が、R&Bリスナーとしてはとても心強い。

パブリック・アナウンスメントを率いてメジャーでアルバム・デビューを飾ってから今年で20年。何だかんだありつつも安定してキャリアを重ねているケリーは、同じく(?)聖と性を行き来した故マーヴィン・ゲイよりずっと安心感のある存在だし、作風は基本的に同じながら新しいことをやってくれそうな気配も感じさせる。以前喉を手術したことと関連があったのか、6月には入院騒ぎがあったけど、予想通り(?)ケリーお得意のホラ(仮病)だったとも言われていて……まあ、今後もいろいろお騒がせしながらいい曲を作ってくれるのでしょう。先日はデイヴィッド・リッツとの共著となる自伝本『Soula Coaster:The Diary of Me』を上梓し、8月に全米公開される映画『Sparkle』リメイク版のサントラでも数曲手掛けているケリー。まだまだ楽しませてくれそうですね。あとは、アレサ・フランクリンや故ルーサー・ヴァンドロス級に難関扱いされている来日公演の実現、でしょうか。そろそろEMFにも出演してほしいところです。



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Levert / I Get Hot

LevertニューオーリンズでのEssence Music Festival(EMF)を観終え、その後3日ほどニューヨークに立ち寄って帰国してから1週間。今年も実りの多い、嬉しいハプニング続きの旅となり、EMFのリポートもそろそろまとめたいところなのですが、帰国後は案の定バタバタ、しかも猛暑(ニューオーリンズを凌ぐ湿気!)でクラクラ。社会人が1週間仕事を休むと、やはりその前後にしわ寄せがくるわけでして、完全復帰までにもう少し時間がかかりそう。そんなわけでブログの更新も停滞してますが、今回は、最近仕事で関わったCDの中でもとりわけ思い入れの強いアイテムを告知も兼ねて取り急ぎ紹介。リヴァートの記念すべきデビュー作『I Get Hot』(85年)です。

よく知られているように、リヴァートはオージェイズのエディ・リヴァートの息子であるジェラルド・リヴァートとショーン・リヴァート、およびその友人であるマーク・ゴードンの3人からなるオハイオ州クリーヴランド出身のR&Bヴォーカル・グループ。当初は“親父の七光り”云々と言われるも、それをチャラにしてしまうほどの実力があったことは多くのR&Bファンが認めるところだ。とりわけジェラルドはソロ・シンガー/プロデューサーとしても活躍し、90年代以降のR&Bシーンになくてはならない存在に。もちろん、一枚だがソロ作を出したショーン、裏方として実力を発揮したマークの活躍も見逃せない。が、グループとしてのリヴァートは、97年に出した『The Whole Scenario』を最後に解散してしまう。2004年にはリユニオン・アルバムを作るべく録音していたようで、ジェラルドの共演曲などを集めたコンピ『Voices』(2005年)にリヴァート名義の新曲が収録されたりもしたが…その翌年、2006年11月10日にジェラルドが他界(享年40)。その後2008年3月30日には兄の後を追うようにショーンまでもが他界(享年39)してしまった。

そんなジェラルドとショーンの死をキッカケに、唯一CD化されていないリヴァートのデビュー作をリイシューできないだろうかと、何年か前、ヴィヴィド・サウンドのディレクター氏に話を持ちかけた。とはいえ、原盤レーベルのTempre(テンプリーもしくはテンパーと読むそう)は、リヴァートのレコードでしかお目にかかったことがない(実際リヴァートしか出していない)フィラデルフィアのマイナー・レーベル。どこからコンタクトを取っていいのかわからない。しかも、原盤権者を必死に探して再発するほど価値があるアルバムかといえば、正直それほどでもない。なにしろソウル・ファンからは、「いいのは“I'm Still”一曲だけでしょ。500円も出せばLP買えるよ」などと凡作扱いされてきたアルバムだったのだ。けれど、その“I'm Still”があまりにも素晴らしい。リヴァートは、メジャー(アトランティック)移籍後にも“(Pop,Pop,Pop,Pop)Goes My Mind”“My Forever Love”“Smilin'”“Baby I'm Ready”といったスロウ/バラードの名曲を数多く放ったが、デビュー・シングルでもあった“I'm Still”はそれらと比べても遜色ない…どころか、リヴァートの全キャリアで1,2を争うスロウだと個人的には思っているほど。18歳(当時)とは思えないジェラルドの父エディ譲りのディープなヴォーカルに、元MFSBのノーマン・ハリスによる陶酔感たっぷりなオクターブ奏法のギター。オージェイズが好きなら一発KOな70sフィリー・ソウル・マナーのスロウである。また、アルバムの他曲も、キャミオに影響されたというアップも今聴くと案外いいし、マークが単独で書いた“I Want Too”のようなミディアムも悪くない。だが、『I Get Hot』の曲はどのベスト盤にも入っていない。このままだと、きっとどこからも再発されないだろうな…そう思い、ならば原盤権者を探してみましょうということになった。

それから数年…こちらの熱い思いが通じたのか、今年に入って、ヴィヴィドが国内配給を行っているシャナキーから朗報が届いた。シャナキーでA&Rを務める(しかもフィラデルフィアンの)ランダル・グラス氏が原盤権者を知っているという。その人物とは、Tempreレコーズのオーナーで、『I Get Hot』のプロデュースにも関わっていたハリー・J・コームズ氏。リヴァートのメジャー進出後もグループのマネージメントを手掛け、彼らによるTrevel(Levertの逆さ読み)プロダクション関連のアーティストもサポートした御仁だ。そのハリー氏、実はかのフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)で10年近くスタッフとして働き、オージェイズをはじめとするPIRのほとんどのアーティストと仕事をしたという経歴の持ち主でもある。が、80年代初頭にPIRが事業を縮小し始めた頃に退社。PIRの本社近くの自宅オフィスにてひとりで興したのがTempreだったという。そこで、かねてより親しかったエディ・リヴァートから、音楽活動を始めたばかりの息子たちの曲(おそらくデモ)を手渡され、これはイケる!と思ったハリーが、彼らをフィリーに連れてきて録音しようということになったらしい。

アルバムの制作ではハリーのフィリー・コネクションを活かし、ノーマン・ハリス、デクスター・ワンゼル、シンシア・ビッグス、ブレイクウォーターのケイ・ウィリアムズJr.らも起用。もちろん父のエディやオージェイズのウォルター・ウィリアムズもクリーヴランドでのデモ録りの段階から関わっている。録音場所はフィリーのシグマ・サウンド・スタジオ。オーナーのジョー・ターシアに出世払いでOKをもらってスタジオを借りたというエピソードが今となっては感慨深い。そんなアルバムの制作過程や楽曲についてのアレコレは、快くインタヴューに応じてくれたハリー・J・コームズとマーク・ゴードンの発言を交えてライナーノーツにたっぷりダラダラと書いているので、お手に取っていただけると嬉しい。拙文だが、今までよくわからなかったデビュー作に関する謎が氷解すると思う。ただ、今回の再発CD、ひとつだけ(かなり)残念な点がある。というのも、実はTempreがアルバムのマスターテープを紛失してしまったようで、LPからの盤起こしになっているのだ。最初聴かせてもらったマスターにスクラッチ・ノイズが入っていたので、これは?と確認したところ、そのことが判明。でも、それを出してきたのはレーベル・オーナーで原盤権所有者のハリー氏だ。その彼が「オリジナル・マスターがない」と言うんだから、本当にないのだろう。こればっかりは仕方がない。

ただ、結果的にリイシューのタイミングとしてはバッチリだったと思う。昨年は、マーク・ゴードンがジェラルドの他界後に始動させたリヴァートII(現在は元フーズ・フーのブラック・ローズとマークのデュオ体制。今後新メンバーを加えてトリオにする予定)のアルバム『Dedication』がCD盤としてリリースされ、先日はエディ・リヴァートがキャリア初となるソロ・アルバム『I Still Have It』を発表したばかり。リヴァートのルーツを振り返るには、ちょうどいい時期だ。そんなこんなで、今月25日発刊のタワーレコードbounce誌ではリヴァート・ファミリーの特集もやっている。R&Bとヒップホップの懸け橋的な存在としてシーンを牽引していったリヴァートの原点『I Get Hot』を聴きながら、改めて再評価を! そして…個人的にはジェラルドの後を継ぐようなディープで熱いシンガーの登場/復権を願ってやまない。



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Karyn White / Carpe Diem~Seize The Day

KarynSWVに続いて今回も90年代復活組を。18年ぶりとなる新作の国内発売と約17年ぶりの来日公演が重なったキャリン・ホワイトです。“90年代復活組”といっても、キャリンがシーンに登場したのは80年代半ば、ジェフ・ローバーの86年作『Private Passion』にマイケル・ジェフリーズと一緒に参加した時。同アルバムに収録された“Facts Of Love”でリードを務めたことで注目を集めた。そして、その後ソロ・デビューしてからの大ヒット“Superwoman”。これも88年の曲なので、ここらへんをリアル・タイムで聴いていた人にとっては“80年代のシンガー”なのかもしれない。

僕もキャリンをリアル・タイムで聴き始めたのはソロ・デビュー作からだけど、正直言うと、当時10代だった自分には、“Superwoman”というかベイビーフェイスの作るバラードがベタに感じられて、イマイチのめり込めず…。しばらく経ってからその良さに気付くのだけど、それより当時はアップの方が断然好きで、“The Way You Love Me”の方をよく聴いていた。ちょうど同じ頃にヒットしていたザ・ボーイズの“Dial My Heart”とリズム・パターンがよく似ていたこともあって、そのふたつがセットで記憶されていたりする。が、本気でキャリンの音楽に燃えたのは、ジャム&ルイスと組んだ91年の2nd『Ritual Of Love』から。“Romantic”とかの、あのキラキラした感じがたまらなかった。あと、セクシーなアルバム・ジャケットも。この頃、彼女がテリー・ルイス夫人となったのは有名なお話。2ndに比べると94年の3rd『Make Him Do Right』は地味だったが、捨てがたいアルバムではある。個人的には、この時プロモーション来日した彼女のインタヴューに某音楽誌のペーペー編集者として同行し、少しふくよかになっていた(今思うと妊娠中だった?)ご本人と対面した記憶が蘇る。

その後、彼女はシーンから退いてしまう。今振り返るとヒップホップ・ソウルの流行とともに姿を消したというか、キャリン・ホワイトという人は、R&Bがヒップホップと手を繋ぎ始めた80年代後半から90年代前半という激動の時代に生きながら、ヒップホップ(・ソウル)とは無縁で過ごした正統派シンガーという気がしなくもない。が、その後姿を消したのはシーンに馴染めなかったからではなく、実業家に転向し、子供(娘)を育てていたから。その娘さんも今やすっかり成長し、名門ハワード大学に進学したとか。そういえば、キャリンのソロ・デビュー時にマネージメントを手掛けていたラーキン・アーノルドもハワード大学の出身でしたっけ。という余談はさておき…それでも6年ほど前には一度復活しようとしていたらしく、シャウト・ファクトリーから発売されたベスト盤(2007年)には、お蔵入りとなったアルバムからアコースティックな新曲(2曲)が収められてもいた。この時キャリンは既にテリー・ルイスと離婚していて、再婚したボビー・G(ゴンザレス)を制作パートナーに迎えて曲を作っていた。

そして18年ぶりに登場した新作。当初は一般流通の予定がなく、本人のサイトのみでの扱いだったので、僕もそこから購入した。が、結局市場に出回るようになり、来日直前に日本盤(輸入盤国内仕様)も登場。日本盤には、これまでのキャリアやアルバムの内容が的確に記されたライナーノーツ(荘治虫さん)が付いているので、未購入の方には日本盤をおススメするとして…新作の方向性は、簡単に言えばネオ・ソウルというかオーガニック・ソウル的なそれ。本人は“レトロ・アコースティック”なんて呼んでいるようだけど、お蔵入りアルバムのタイトルでもあったらしい冒頭の“Sista Sista”からしてそんな雰囲気。“Romantic”なんかのイメージからは随分かけ離れた感じだけど、先のベスト盤で披露された2曲を聴いていれば、何となく予想できた方向性ではある。僕個人はそれほど興味を惹かれなかったけどシンディ・ローパー“True Colors”のカヴァーなんかも含めて、自分の思いのままに今やりたいことを素直にやりました…という感じなのかな。オートチューン加工のヴォーカルも出てきますが。個人的なハイライトはメロウなミディアム“Sooo Weak”。エンダンビを聴いてるみたいで…っていう感想は的外れ?

プロデュースを手掛けたのはデレク“DOA”アレン。現在もR&B~ゴスペルの世界で活躍している人だけど、90s R&Bファン的にはブラックガールやボビー・ブラウン・ポッセ(スムース・シルクほか)のプロデュースをしていた人として記憶されるところ。主役の歌を引き出すのがとても上手い人だ。そのデレクに加え、夫のボビー・Gもソングライティングに参加し、美しいバラード“My Heart Cries”では途中からボビーも声を交える。他にも、クレジットを眺めていると、“Sista Sista”のバック・ヴォーカルでは僕の好きなファニータ・ウィン(アンジー・ストーンと一緒にやってた人)が歌っていたりも。あと、“Dance Floor”のソングライティングには、元クラブ・ヌーヴォーのジェイ・キングの名があるが、今回のアルバム制作においては彼が影の支援者として尽力したそう。関係ないけど、ジャケット裏の写真では壁にマキシン・ナイチンゲールの76年作『Right Back Where We Started From』が飾ってある(見える)のだけど、これは何か意味があるのかな? ちなみに、古代ローマの詩人ホラティウスの一節から名付けたというアルバム・タイトル『Carpe Diem』は“一日の花を摘め”、英語ではSeize The Dayとなり、今日を精一杯生きよう、という意味になる(とライナーにも書いてある)。というわけで、今を生きるキャリン。80~90年代の彼女を懐古したいファンとは逆に、本人はずっと先を見ているのかもしれないですね。

もちろん来日公演にも足を運んだ。ビルボードライブ東京での初日(6/22)、ファースト・ステージを松尾潔さんとふたりで観戦。“Romantic”も“The Way You Love Me”もやったし、ベイビーフェイスとの共演曲“Love Saw It”をバック・ヴォーカル兼ラップの男性と歌ってもくれた。もちろん“Superwoman”も。が、僕が観たステージでは過去のヒットはわりとあっさりと歌い、やはり新作の曲に力が入っているように見えた。デレクがベーシストとして帯同したバンドも、新作のオーガニックな曲の方がしっくりときている感じだったし。面白かったのは、新作からの“Dance Floor”。ライナーで荘さんは「マイケル・ジャクソンの往年のダンス・チューンを彷彿させる」とお書きになっているが、まさに慧眼というか、たぶんこの曲だったと思うが、途中でジャクソンズの“Shake Your Body”を織り込んで歌っていた。マイケルの命日(6/25)も近いので、ということからか。あと、パフォーマンス以上に印象的だったのは、あの美貌とスレンダーな体型をキープしていたこと。どこかダイアナ・ロス的な美しい歳のとり方というか。そんなキャリンを見て「さすがミスコン荒らしをしていただけのことはある」と松尾さん。

松尾さんとは、最近だとミュージック・ソウルチャイルドやロバート・グラスパーのライヴも観戦。“R&B情報交換会”と称して(?)、その日のライヴ・アクトを肴にしつつ、日本で評価の低いR&Bアーティスト(K・ジョンなど)について語り(飲み)合うという濃密かつ贅沢な時間を過ごさせていただいている。この日も、仮にキャリンがSWVみたいにケイノン・ラムとやってたら?などなどいろんな話が出たが、キャリンといえば、今回アンコールの前に歌った“Superwoman”はタイトル通り受け取ると間違いで、実は〈I'm NOT your superwoman〉と歌っているのです…という話も。これに関しては「松尾潔のメロウな夜」(NHK-FM)でもお話しされていたと記憶しているが、このテの話は、ここで僕がアレコレ書くより、松尾さんに語っていただく方が100倍説得力がありますね。で、そんな松尾さん、2010年からbmr誌の連載に加わるも休刊に伴って中断されていた「松尾潔のメロウな日々~TIMELESS JOURNEY~」が、この度ウェブ版として復活。今後も楽しみです。あとは……bmrの復刊を頼む!



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