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Tyrese / Black Rose

Tyrese9月くらいにEssence Festivalのリポートを書こうかな……あと『新R&B入門』についても書かないと!と思ったのだけど、ブログの書き方を忘れかけていたので、1年ぶりくらいに更新してみた。以下、朝、起きがけにFacebookに書いた駄文のコピペ。

朝から晩まで、気がつけばタイリースの“Shame”を聴いている…という日々が(NOLA滞在時も含め)1ヵ月以上続いている。サム・ディーズ作のアトランティック・スター名曲“Send For Me”をさりげなく引用し、サム・クックを起点とする濃厚なソウル/ゴスペルの血脈を受け継ぐシャウト交じりの激唱で、実直かつエモーショナルに歌い上げ るソウル・バラッド。贅沢にもバック・ヴォーカルの一員として起用されたジェニファー・ハドソンは、アルバムにフィーチャリング・シンガーとして参加したクリセット・ミシェルやブランディよりも圧倒的な存在感を示す。聴きながら拳を握りしめてしまうような、どこをどう切っても“ソウル”としか言いようがない曲に、2015年という時代に出会えたことが、ただただ嬉しい。個人的には、年内にこれを凌ぐ名曲に出会わない限り、2015年のNo.1 R&Bソングとなりそう。制作はウォーリン・キャンベルで、DJ.ロジャーズJr.がペンを交え、ギターがワー・ワー・ワトソン。

ピアノ基調のシンプルなバックやクワイア調のコーラスなど、曲の作りは何となくサム・スミス“Stay With Me“と似てたりもするけど、サムの曲が(いい曲だけど)大仰でどこか壁があるというか心底のめり込めないのに対し、タイリースのこれはどっぷり浸れる。 これはもう個人の趣味でしかないが、勝手に比較させてもらうなら、一応R&Bと呼ばれるサムの曲と真正R&Bなタイリースの曲とでは、微妙なようで大きな違いがある。タイリースのシンガーとしての年季、LAのワッツ地区で育ったチャーチ・ルーツを持つ黒人としてのプライド……なんかもう気迫が違う。

この“Shame”を含むアルバム『Black Rose』は、早々に(自身初となる)全米アルバム・チャート1位を獲得。俳優としての人気等いろいろ要因はあると思うが、こういうストレートな R&Bアルバムが全米No.1を獲得するアメリカのチャートは頼もしいというか健全というか、やっぱりいいなぁと思ってしまうのであります。




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KEM / What Christmas Means

KEM Christmas今年もクリスマスがやってきました。クリスマスは大好きです。ただし僕の場合は、“欧米の文化”として、遠い日本から憧れを抱きつつ眺めるのが好きというか、しんしんと雪が降る街や山村などで人々がクリスマス(・イヴ)を静かに過ごしている映像をTVなんかで観ていると、とても幸せな気持ちになります。日本で言うなら、大晦日に「ゆく年くる年」が始まって、外からかすかに聞こえてくる除夜の鐘を耳にしながら新年を迎えるあの感じでしょうか。個人的には宗教的に全くの部外者なわけですが、それでもゴスペルを好んで聴くのと同様、クリスマスもそれ関連の音楽や映像などを楽しんでいます。もちろんクリスマス/ホリデイ・アルバムも大好きで、R&B/ソウル系アーティストのそれは、目にしたものはほぼ全て買っているかな。聴きなれたクリスマス・スタンダードでもアーティストごとに解釈が違って、それぞれのシグネイチャー・スタイルがかえって浮き彫りになるというか、その人の持ち味を再確認できたり、チャーチ・ルーツが覗けたりするのが興味深いですよね。

今年も素敵なクリスマス・アルバム/ソングがリリースされました。デジタル配信限定のものも合わせるとアルバム/シングルともに夥しい数の作品が出ているわけですが、配信限定では、R&Bファン悶絶のメンツ(90年代復活組がヤバい!)が揃ったJ・ダブ監修の『Christmas At My House』がダントツでよかったです(8ドルで購入可)。フィジカルでは、シーロー・グリーンのもまずまずでしたが、ネオ・ソウル好きの僕としては、アトランタの実力派歌姫ロンダ・トーマスの『Little Drummer Girl』(本人のHPから直接購入)がベストでした。エリック・ロバーソンとデュエットしたオリジナル・ソング“Mistletoe”が蕩けそうなほどメロウな曲で、これだけでも買いです。

リイシュー系だと、ルーサー・ヴァンドロスが95年に出したクリスマス・アルバムの改訂増補的な編集盤『The Classic Christmas Album』が実は見逃せない一枚。正直、最初はルーサーだから…と惰性で買ったのですが、チャカ・カーンとデュエットしたライヴ音源が初音盤化となっていたり、あの「ルーサー」時代にコティリオン・レーベルのクリスマス・アルバム『Funky Christmas』(76年)に提供した2曲(91年に一度CD化)が加えられているので、ファンは必携でしょう。ポール・ライザーがアレンジした“At Christmas Time”の美しいこと。あと、海外では何度かCD化されていたサルソウル・オーケストラのクリスマス・アルバム『Christmas Jollies』(76年)が、ようやく日本盤CDとして登場。ヴィンセント・モンタナの娘デニース・モンタナが歌う“Merry Christmas All”がとにかく大好きで、これは僕のクリスマス定番曲になってます(この曲のモンタナ・オーケストラ版のミュージック・ヴィデオもあった!)。そういえば11年前のちょうど今頃、初めてフィラデルフィアを訪れた時に、The Studioでラリー・ゴールドを取材した後、立ち寄ったフィリー名物のチーズ・ステーキ屋でかかっていたWDAS-FMからこの曲が流れてきて感激したのですが、DJが「フィリー、フィリー!」と得意気にこの曲をかけていたように、フィラデルフィアでは地元を代表するホリデイ・ソングのひとつとして親しまれているようです。

そんななか
今年R&Bファンの間で最も話題になったのが、念願の来日公演も決まったKEMのクリスマス・アルバム。日本盤が一度も出されていなけどアメリカのブラック・コミュニティでは絶大な人気を誇る彼の素晴らしさを、これまで拙い文章で必死に訴えてきた僕ですが(『Intimacy』リリース時のbounce誌の記事はコチラ)、こうしてメジャーのモータウンからクリスマス・アルバムを出せたことが本国での人気を証明しています。2003年のメジャー・デビューから9年。現在は、過去のホームレス体験などを活かして地元デトロイトでホームレス支援コンサートなんかを行っているKEMですが、かつて帰る場所がなく辛く寂しいクリスマスを過ごしていただろう彼が、こうしてクリスマス・アルバムを作るまでの大物になったという事実にグッとくるものがあります。

アルバムは、これまでも共同作業をしてきた名手レックス・ライダウトがプロダクションに関わり、先のルーサーにも関わっていたデトロイトの巨匠ポール・ライザーがオーケストラ・アレンジを担当。メラニー・ラザフォード(デトロイト・ヒップホップ勢との絡みで知られる才女)などと共作したオリジナルも、クリスマス・スタンダードも、KEMらしいシンプルで静謐な美しくロマンティックな音世界が広がり、厳寒のデトロイトの雪景色が眼前に浮かんでくるかのようです。冒頭の“Glorify The King”ではクワイアを従え、いきなり厳かな気分に。ビリー・ポール“Me And Mrs.Jones”のメロディをベースにした“Be Mine For Christmas”では、レックスとの繋がりから、Essence Music Festivalでも共演したことがあるレディシとデュエット。オリジナル・アルバムにも関わっていたフィリーのヴェテラン・ギタリスト、ランディ・ボウランド(来日公演にも同行予定!)もいい音を鳴らしていて、スタンダードの“The Christmas Song”ではジャジーなソロを披露してくれてます。

最後の“Doo Wop Christmas(That's What Christmas Is All About)”は、表題通りドゥー・ワップ・スタイルのア・カペラ・ソング。KEMとともに50~60年代のドゥー・ワップ・グループを気取ってみせるのはハーシェル・ブーンとクリス・マッキーで、バック・ヴォーカルには、あのフローターズ(デトロイト出身)のラルフ・ミッチェルらも名を連ねている。ハーシェル・ブーンは、ブーン兄弟からなるデトロイト(Detroyt)のメンバーとして84年にタブーからアルバムを出していたあの人のはずで(兄弟のカーティス・ブーンは、近年もアレサ・フランクリンなどを手掛けている名裏方)、2010年に出したソロEP『To Be With You』も滅法素晴らしいので(盤はCD-Rですが)、R&Bファンは要チェック。それにしても、どこまでもデトロイトにこだわるKEMの地元愛には頭が下がります。

25日が終わったとたん、日本では一気に正月モードに突入しますが、アフリカン・アメリカンの間では26日から1月1日にかけてポスト・クリスマス的なクワンザ(Kwanzaa)というお祭りがあります。どんなお祭りなのかはコチラを見ていただくとして、貧しい人たちがクリスマス後の値下がり品を買ってお祝いする…みたいなそれには、何だか心温まると同時にウルッとくるものがありますね。まあ、アフリカン・アメリカンではない日本人は黙って眺めているしかない祭事なのですが、ブラック・ミュージック・ファンは25日が終わってもクワンザがありますよ…ということで。先のロンダ・トーマスもそうですが、クワンザにちなんだ曲が入っているクリスマス盤も結構あります。要らぬお世話かもですが、ブラック・ミュージック専門のレコード・ショップさんには、この時期、クリスマス・アルバムなどを含めて余剰在庫品を安値で放出する“Happy Kwanzaaセール”みたいなのをやってもらえると嬉しいかもしれません…なんてことを思う2012年のクリスマスでした。



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R.Kelly / Write Me Back

KellyEssence Music Festival(EMF)から早くも1ヵ月が経とうとしている。リポートもそろそろ発表したいのだけど、今年は有志で座談会をやることになり、今大急ぎでそれをまとめているところ。で、そんな作業を仕事の合間にしつつ旅の思い出に浸っているのですが、思い出といえば毎年ニューオーリンズ(NOLA)のホテルでBGMとして流しているのが、現地のR&B専門FM局WYLD。これをつけていると、頻繁にかかるヘビロテ曲があって、それがその年のEMFとセットになって記憶されていく。

今年は、ジョン・レジェンドfeat.リュダクリス“Tonight(Best You Ever Had)”、アッシャー“Climax”、ロビン・シック“All Tied Up”あたりがヘビロテ。まあ、WYLDに限らず、R&Bとクラシック・ソウルを流すUSのR&B専門局はどこも選曲が似たりよったりなのですが。それに今は海外でエア・チェックしたカセットテープがお土産になっていたような時代とは違って、例えばNYのWBLSとかは日本からでもネットでリアルタイム(いわゆるサイマル・ストリーミング放送)で聴けてしまう時代。渡米者のみの特別な体験にはならない。それでも現地で聴くとリアルだし、WYLDに関しては、EMF開催期間中フェスの出演者がゲストで出ていたりして、それがまた気分を昂揚させてくれる。そのWYLDで今年、他のどの曲より耳にしたのがR・ケリーの“Feelin' Single”だった。先頃発表された新作『Write Me Back』の先行(セカンド・)シングルだ。

そんなわけで、今回は遅ればせながら『Write Me Back』について簡単に。デビュー時から在籍したジャイヴの閉鎖にともないRCAに移っての初アルバムとなる今作は、結果から言うと前作『Love Letter』(2010年)の続編だ。タイトルも前作の“ラヴレター”に対して“お返事待ってます”的なニュアンスが込められている…などと一部で言われていたが、R・ケリー本人はこれを完全否定している模様。まあ、タイトルに込められた意味がどうのなんて音や歌(声)を聴く上では二の次なので、これに関してはスルーしたい。とはいえ、サウンド的に前作を踏襲しているだろうことは聴けば明らか。今や十八番となったステッパーズを絡めたソウル・オマージュ・アルバムとでも言ったらいいか。なにしろ“Feelin’ Single”からして、ビル・ウィザーズ“Lovely Day”を下敷きにしたオマージュ・ソング。また、アルバム本編のラストを飾る先行ファースト・シングル“Share My Love”は70sフィリー・ソウル調の華麗なダンサー。ケリーがここまで直球なフィリー・ソウル調の曲をやったのは、たぶん初めてだと思う。ストリングスもいかにもフィリーって感じで、アレンジはラリー・ゴールド(元MFSB)かな?と思っていたら、なんとアルバム全編の管弦アレンジ/指揮がラリー(とケリー本人)だった。ラリーのストリングスを大フィーチャーしたのは、2004年のステッパーズ&ゴスペル・アルバム『Happy People/U Saved Me』以来。前作ではおそらくプログラミングだったストリングス&ホーンが今回は生ということで、ゴージャス度満点だ。

オマージュ・アルバムということで、シングル2曲以外も有名なソウル/リズム&ブルース曲にインスパイアされたナンバーがひしめく。踊るようなパーカッション音とベースが曲を引っ張っていく冒頭のアップ“Love Is”からしてフィリー・ソウル~サルソウル風というか、ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツみたいなフィリー・ダンサー。フィリーといえば、“Lady Sunday”も盟友ドニー・ライルが弾くノーマン・ハリス風オクターブ奏法ギターも含めて、おそらく狙ったのはスピナーズの“I'll Be Around”だろう。また、“Believe That It's So”はスティーヴィ・ワンダーの“As”を彷彿させるし、“Green Light”は得意のアイズレー・ブラザーズ調メロウ曲。“Fool For You”はメロディ・ラインから繊細な優男ヴォイスまでスモーキー・ロビンソン(&ミラクルズ)風で、実際にケリーはスモーキーにインスパイアを受けたと(ココで)語っている。かと思えば、“Believe In Me”はアトランティック時代のレイ・チャールズが乗り移ったかのようなゴキゲンなリズム&ブルース曲で、“What'd I Say”みたいなウーリッツァーの音までご丁寧に再現。“Party Jumpin'”も、最近だとジャネル・モネイあたりがやっている50~60s風ロッキン・ソウルで、ここらへんは前作に入っていてもおかしくないような曲だ。“○○風”などと書いていると表現力の欠如と言われそうだけど、でも、どう考えたって明らかに“○○風”を狙ってるんだから、やはりここはそう語るのがベターというか、そう聴くのが正解かも。とにかく、ソウルマンになりきって伸び伸びと歌うケリーがやたら清々しい。唯一、普段の(現行R&B路線の)R・ケリーっぽいのが“Clipped Wings”という悲哀を込めたバラード。ウォーリン・キャンベルとの共作となるこれは今作においては異質で、ちょいと座りが悪かったかなという気がしなくもない。

ところで、僕が買ったのはUS盤のデラックス・エディション。これには日本盤と同じく4曲が追加されているのだけど、その中でとりわけ話題になっているのが“You Are My World”という曲だ。これはケリーがマイケル・ジャクソンに(と?)書いた曲のデモと言われ、ネット上で公開(リーク?)されていた音源の正規収録版。これまで何度かMJに楽曲提供していたケリーが、いつ、どのタイミングで作ったのか、ちゃんと調べてないのでわからないのだけど、ケリーの歌い方やブレスはモロにMJを意識していて、これはケリー、MJ双方のファンにとって嬉しいプレゼント。それにしても、短期間にこうもスラスラと人々を熱狂させる曲を簡単に作ってしまえる(ように見える)ケリーには感心させられるばかり。おそらく曲のストックが山ほどあるのでしょう。しかも、今作の裏では、もう一枚メインストリームR&B仕様のアルバム(タイトルは『Black Panties』とされるが詳細不明)を作っているとも言われている。今回それを保留にしてまでソウル・オマージュ的なアルバムを出してきたケリーの心境や如何に。そういえば“Feelin' Single”のミュージック・ヴィデオでは途中でフランク・シナトラ気取りのミュージカル風寸劇が挿まれるのだけど、今の気分的にはこっちなのかな。ともあれ、クラシックなソウル・スタイリストを気取りつつ2010年代の空気をも表現できてしまうケリー。こういう人が現役で活躍できているという事実が、R&Bリスナーとしてはとても心強い。

パブリック・アナウンスメントを率いてメジャーでアルバム・デビューを飾ってから今年で20年。何だかんだありつつも安定してキャリアを重ねているケリーは、同じく(?)聖と性を行き来した故マーヴィン・ゲイよりずっと安心感のある存在だし、作風は基本的に同じながら新しいことをやってくれそうな気配も感じさせる。以前喉を手術したことと関連があったのか、6月には入院騒ぎがあったけど、予想通り(?)ケリーお得意のホラ(仮病)だったとも言われていて……まあ、今後もいろいろお騒がせしながらいい曲を作ってくれるのでしょう。先日はデイヴィッド・リッツとの共著となる自伝本『Soula Coaster:The Diary of Me』を上梓し、8月に全米公開される映画『Sparkle』リメイク版のサントラでも数曲手掛けているケリー。まだまだ楽しませてくれそうですね。あとは、アレサ・フランクリンや故ルーサー・ヴァンドロス級に難関扱いされている来日公演の実現、でしょうか。そろそろEMFにも出演してほしいところです。



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Luther Vandross 1951-2005

Luther昨晩観たキャンディ・ステイトンのライヴ(6/30、ビルボードライブ東京)が素晴らしかったので、そのことについても書いておきたいのだけど、7月1日といえばルーサー・ヴァンドロスの命日。彼がこの世を去ってから7年が経つが、“あの日”のことを僕はよく憶えている…というか、これからもずっと忘れない。今回はCDの紹介ではなく思い出話です。一応ジャケットを掲載したCDについても簡単に触れておくと、これは今年出たルーサーの編集盤。『Hidden Gems』と銘打たれているようにルーサーの隠れ名曲を集めたベストで、エピック~ヴァージン~J・レコーズと、レーベルを跨いでの選曲が売りのようだが、何となくポップス・サイドから見たルーサー名曲という感じなので評価は分かれるかもしれない。というわけで、以下は“あの日”のお話。

2005年7月1日、僕は初めてのEssence Music Festival(EMF)観戦のためニューオーリンズにいた。EMFの開演は夜7時からだったが、その日は初めてということもあって、早めに準備を済ませてホテルの部屋でゴロゴロしていた。で、現地に到着してからBGM代わりにしていた地元のR&B専門ラジオ局WYLD-FMにチューニングを合わせると、何故かルーサー・ヴァンドロスの曲ばかりが流れている。ん?と思っていたら、女性DJの口から「Luther Vandross has passed away...」と。2003年に脳卒中で倒れて入院していたものの回復していると言われていたので安心していたのだが…ルーサーは帰らぬ人となってしまった。まさにEMFのアイコンとも言えたルーサーが、よりによってEMF初日に亡くなるなんて。そして。“So Amazing”が何度も流れるラジオを消してテレビをつけると、ニュース番組はルーサーの訃報に続いてフォー・トップスのレナルド・オービー・ベンソンの訃報を伝えた。ルーサーとオービーが同じ日に? そういえばEMF初日のトリはアレサ・フランクリン。ルーサーはアレサをプロデュースし、オービーはそのルーサーが手掛けた『Jump To It』(82年)収録曲“I Wanna Make It Up To You”にフォー・トップスの一員として客演している…。すぐにそのことに気付いた僕は、その晩に行われるアレサのステージを勝手に心配し始めていた。アレサ、大丈夫かな?と。

初めてのEMFは、当時bmr編集部にいた金子穂積さんとの男二人旅。R・ケリーやカニエ・ウェストで盛り上がるシカゴに(自費で)取材に行こうということになり、金子さんが「せっかくならニューオーリンズに寄ってEMFを観てみたいんですけど…」と口にしたことから急遽決まったEMF行きだった。確か航空券も現地のホテルも旅行の3週間前くらいに予約したんだと思う。ホテルは(超高級ホテル以外)一つしか空いていなかった安ホテルの部屋を何とか確保するという計画性のなさ(笑)。ニューオーリンズには学生時代アメリカを一人旅した時に訪れたことがあったので土地勘はあったが、EMFに関しては、フェスの存在は知っていたものの情報がなく、何をどうしたらいいのかさっぱりわからなかった。当時僕の周囲では誰も行ったことがなく(後になって松尾潔さんが初回の95年から2004年まで何度か足を運ばれていたことを知るのだが)、実際に会場入りするまで謎だらけで、まさに手探り状態。今でこそ、bmr誌に7年連続で座談会形式のリポートを掲載したこともあって、すっかり有名になったEMFだけど、2004年まではほとんど騒がれていなかったのだ。そういう意味では金子さんが言い出したお蔭なのかしれない。あのリポート掲載後、日本から行かれる方も増えたと聞く。

DSC00057で、初日の7/1。初EMFへの期待と無事に会場に入れるのかという不安、そしてルーサー&オービー死去のショックとが相まって妙な昂揚感が生まれ、会場までドキドキしながら足を運んだことを思い出す。…結果から言うと初日はルーサー追悼一色だった。なにしろメイン・ステージの一発目は、デビュー作で(ルーサー版を意識した)“Superstar”を歌っていたルーベン・スタッダード。おそらく訃報を聞く前からセットリストに組み込んでいたのだろう“Superstar”に加え、“Never Too Much”“So Amazing”を歌って最後には涙ぐんでしまったルーベンを僕は忘れることができない。その後も会場のスクリーンにたびたびルーサーの写真が映され、何だか大変な時に大変な場所に来てしまったような気持ちに。そして初日のトリを飾ったアレサ・フランクリン。僕の心配をよそに、やたら明るいアレサに拍子抜けしたが、スクリーンにルーサーの写真が映るなかでルーサーがプロデュースを手掛けた“Get It Right”を歌い、その後「今日は私の大切な友人を二人同時に亡くしてしまいました」と言ってゴスペル曲を熱唱する姿には、さすがに目頭が熱くなった。

翌日もルーサー追悼ムードは続き、あちこちのステージでトリビュートが行われた。とりわけ個人的に印象に残っているのはフロエトリーが歌った“A House Is Not A Home”。マーシャ・アンブロウジアスが♪A chair is still a chairと歌い始めると、ラウンジ(小さい会場)にいた観客の全員という全員が♪Even when there’s no one sitting thereと続き、その後はフロエトリーの二人と皆で最後まで大合唱。全身に鳥肌が立った…というか、その場にいたほぼ全員が歌詞を覚えている上にルーサー独特のフレージングまで真似ちゃったりして、ワケわからず日本から来た自分は頭ポカーン状態。つまり、それくらいブラック・コミュニティにはルーサーの音楽が根付いているのだ…と以前から聞いていた話ではあったけど、こうしてその現場に居合わせ、直接肌で感じ取った体験は、どこの誰にどんな話を聞くよりも説得力があった。2009年、開催1週間前にマイケル・ジャクソンが亡くなった時のEMFでもトリビュートが行われたが、ルーサーは他界直後ということで、会場は異様な空気に包まれていた。でも、しんみりした感じはなく、むしろ皆さん楽しげ。ここらへんがまたEMFのいいところなんだな。

ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズの街を襲ったのは、その約2ヵ月後のことだった。翌年のEMFは、会場のルイジアナ・スーパードーム(現在は「メルセデス・ベンツ・スーパードーム」と改名)修復のため、ヒューストンで臨時開催。2007年から再びニューオーリンズに戻っての開催となったのだが、その時僕は、諸々条件が整えば毎年行こうと決めた。“お金を落としに行く”という言い方は何だか品がなくて好きではないけど、現地で消費税を払って(ルイジアナ州の消費税は高いので)それが復興の一助になるのなら、それもひとつのチャリティではないかと。…そして、今年も何とか行けることになった。今週末から始まるEMF 2012。今年はアレサ・フランクリンも、ルーサーが亡くなった“あの日”以来、7年ぶりに出演する。未だ日本にやってこない女王様だけに絶対に見逃せないステージ。R・E・S・P・E・C・Tの気持ちで、その姿を拝んできたい。また、ディアンジェロの出演も決定していて、全米では10年ぶりとなる本格的なライヴということもあって各所で話題になっている。その他の出演者も近年稀に見る豪華さで、行く前からもうクラクラ。いつもはヒップホップ・アクトも数組出演するEMFだけど、〈The Power of Our Voice〉というテーマを掲げた今年は、毎年恒例の地元ブラスバンド以外、出演者はほぼR&Bアーティストで固められている。しかも滅法歌えるシンガーばかり。ルーサー亡き後もR&Bスターはちゃんと存在しているのだ。

今年は僕の周囲だけでも日本から多くのR&Bファンが参加予定。というわけで帰国後にはライヴ・リポートを…といきたいところだが、今年はbmr誌が休刊中のため同誌での座談会形式のリポートはナシ。当然ながらリポートの依頼もないわけだけど、記録は残しておきたいので、必ずどこかでやるつもりだ(本ブログで?!)。もっとも、EMFにはライヴ・リポートを書くために行っているわけではなく、あくまで現地のあの雰囲気を体感することが目的。せっかく今年も行けることになったのだから、思いっきり楽しんできたい。無事観戦を終え、帰国できたら諸々ご報告します。



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K'Jon / Moving On

K'JON久々に男性ソロ・シンガーで。エリック・べネイの新作も話題だけど、エリックに関しては最新号のbounceに記事を書いたので、5月の来日公演後にライヴ・リポートとあわせて改めて。というわけで、今回はシャナキーからリリースされたK・ジョンの新作を。2009年にユニヴァーサル・リパブリックの配給で発売された初のメジャー・アルバム『I Get Around』は日本盤が出なかったのに、今回はヴィヴィドから日本盤(輸入盤国内仕様)が初登場! ライナーノーツは自分です…と自分で書くのも何だかなぁという感じですが、これまで日本の紙メディアでほとんど無視されてきた才能を放っておけん!という勝手な使命感から、ここでもちょっと書いておきます。

K・ジョンはデトロイトのR&Bシンガー。“On The Ocean”の人と言えば通じるか? もの憂げだが芯のあるテナー・ヴォイスが特長となるシンガーで、僕が彼の音楽を聴いたのは、今も本人が運営している自主レーベルUp&Upから出されたセカンド『The Ballroom Xplosion』(2007年)が初めて。デフ・ジャム・サウス発のサントラ『2 Fast 2 Furious』(2003年)でR・ケリーを意識したようなミッド・バウンス“Miami”を披露していたとか、シャリーファの2006年作『Point Of No Return』で曲を書いていたなんてことは後から知った。しかも、現在までに3枚のミックスCDも出していた…なんてことも、実は最近知ったことだったりして(恥)。

『The Ballroom Xplosion』に興味を持ったのは、アルバムがステッパーズをテーマにしたものだったから。地元の大先輩であるドラマティックスの曲を大ネタ使いした“Feels Like Love”とか本当によく聴いたけど、このアルバムというのが、その数年前にシカゴ・ステッパーズをリヴァイヴァルさせたR・ケリーに対抗したような内容でして。K・ジョンはデトロイト版のステッパーズである“(デトロイト・)ボールルーム”を謳ってレペゼン・デトロイトをしていたわけ。シカゴ・ステッパーズもデトロイト・ボールルームも、ともに中西部の黒人コミュニティにおけるフォーク・ダンス(・カルチャー)の一種。だけど、踊り方や使用曲は微妙に違うようで、こんな比較映像もあったりするのだが、何がどう違うのかはダンスの専門家じゃない僕にはよくわからない。

その『The Ballroom Xplosion』に収録され、中西部一帯でジワジワと人気を集めて全国ヒットとなったのが“On The Ocean”というスロウなステッパーズ/ボールルーム・ソングだった。これはメジャー移籍作『I Get Around』にも再収録され、何とビルボードの「R&B/Hip Hop Songs」に75週チャートインという驚異的な記録も打ち立てた。レコード・リサーチ社が出しているコレでは、集計途中ということもあってか73週チャートイン(00年代において3番目に長くチャートイン)したことになっているのだけど、最終的には1位のメアリー・J・ブライジ“Be Without You”(75週)と並び、男性R&Bシンガーでは90年代のアッシャー“You Make Me Wanna…”(71週)を抜いて史上最長チャートイン記録保持者となってしまった。数年前、日本ではネクストNe-Yoな美メロ王子たちが大人気だった頃に、本国ではこんなに粋で大人なR&Bが流行っていたわけです(笑)。また、この“On The Ocean”をキッカケにステッパーズ熱も再燃してきている模様。L.J.レイノルズの“Come Get To This / Stepping Out Tonight”なんかも、これに刺激されたのかな?と思ったり。

そんなわけで新作は、大雑把に言うと、前半がメインストリームR&Bサイド、後半がステッピン・サイドという二部構成。プロデュースはK・ジョン本人と、デトロイト、NY、アトランタ、マイアミの新鋭~中堅クリエイターで、Daheartmizerことマーカス・デヴァインやNeff-Uことセロン・フィームスターも関与。地元デトロイトのラッパーなども客演している。前作収録曲の続編“On Everything Pt.2”やオートチューン加工のヴォーカルが印象的な“Bad Gurl”が登場する前半も刺激的だけど、個人的にはやはりステッピンな後半かな。リード・シングルの“Will You Be There”なんかは明らかに“On The Ocean”を踏襲したバラードだけど、この路線はいいですね。特に、これまたR・ケリーの近作を意識したような、というかメアリー・Jの“All That I Can Say”みたいな激メロウ&スムーズなステッピン・チューン“I'm Good Boo”を目下ヘヴィロテ中。

やっぱり僕はこういうステッピン・ソングみたいなのが一番好きなのかも。先日も、とあるステッパーズ大会のプレイリスト(新旧ステッピン定番曲がズラリ!)を見ていて、自分で妙に納得してしまった。で、こういう地方独自のムーヴメントって、改めていいなぁと。何年か前、ミュージシャンもネットで交流できる時代だからサウンドや流行に地域性を見出すことはもはやナンセンス…みたいに言われてたことがあったけど、いやいや、そんなことはないんです。特にブラック・ミュージックは地元で流行ってナンボの世界。それがこのジャンルの面白いところというか。K・ジョンは、そんなことに改めて気づかせてくれたシンガーなんじゃないかなと思っていたりします。



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