トップページ » Estelle / All Of Me

Estelle / All Of Me

EstelleR&Bの新譜、とにかく女性シンガーものが多いです。で、今回はエステルの新作を。前作『Shine』から約4年ぶり、通算3作目。アトランティック(が配給するジョン・レジェンド主宰のホーム・スクール・レコーズ)からのワールドワイド・リリースとしては、これが2枚目。4月4日には、その日本盤も発売された。実はこのライナーノーツを書いたのだが、経歴や客演作品、プロデューサー、ミックステープがどうの…などはライナーでゴチャゴチャと書いたので、ここではサラッといこう。

延期を繰り返しての、ようやくのリリース。当初は2010年秋の発表予定で、その頃はデイヴィッド・ゲッタとアフロジャックがプロデュースした“Freak”が新曲として話題になっていた。カーディナル・オフィシャルを招き、ソウルⅡソウル“Back To Life”のフックを引用したエレクトロ・ビート・チューン。結局これは新作が延期されるうちにゲッタのリーダー作『One More Love』(のデラックス盤)とかダンス映画のサントラ『Step Up 3D』に収録されて、今回の新作には未収録。で、もう一曲、新作のバズ・シングル的な形で発表されながらアルバム未収録となったのがDJ Frank E制作の“Fall In Love”。ジョン・レジェンドとナスそれぞれとの共演ヴァージョン(とヴィデオ)も話題になったネオ・ソウル×ハウス的なメロウな四つ打ちダンス・チューンで、こんないい曲が未収録だなんて…って感じだけど、日本盤には“Freak”とともにボーナス・トラックとして収録されております。ちなみに今回の日本盤に収録された“Fall In Love”はジョンとナス両者が合体したヴァージョン。って、いきなりサラッといかない話でした。

で、アルバムは、有名どころのプロデューサーだと、ジェリー・ワンダ、アイヴァン&カーヴィン、ジェイムズ・ポイザーなんかが関わっているのだけど、エステルらしいジャンル横断型の全方位スタイルはいつものまま。ハスキーな声でラップ(・シンギング)を織り交ぜた歌唱もこれまで通り。それでもベースにはオーセンティックなソウル/R&B感覚みたいなものがあって、最終的にはちゃんとそこに着地するというか…そこらへんが僕みたいなリスナーを惹きつけるのかも。そういえば、本国イギリスのみで発表されたデビュー・アルバム『The 18th Day...』を、僕はbmr誌の2004年個人年間ベストで1位にしていて、「US的流行を咀嚼しつつ新しい世界を描き出したUKモノということで不思議な衝撃を受けた一枚」とか評論家気取りで書いていたが(恥)、まあ、その後の彼女の活動を見てみれば、大きく外れた意見ではないと思う。近年のゲッタなどとのコラボは賛否ありそうだが、前作でのウィル・アイ・アムも含め、“時の人”を味方につけながら自身のソウルネスというかブラックネスのようなものを追求していく姿勢が何とも痛快です。

個人的に気に入ったのは、新作の正式リード・シングルとなった“Break My Heart”。ジョン・レジェンドもペンを交えたドン・キャノン制作のスムーズなミッド・チューンで、ヴィンセント・モンタナの78年曲“Warp Factor Ⅱ”を引用したセンスに惚れまくり。この路線では“Cold Crush”も素晴らしい。が、世間的には、クリス・ブラウンとトレイ・ソングスというふたりの“アメリカン・ボーイ”を招き、世界を股にかけてる自分たちをアピールした(?)“International(Serious)”が話題か。グラミー受賞曲となった前作のヒット“American Boy”もそうだったけど、エステルのUKガール目線のリリックって愛らしいというか、ルーツを忘れてなさそうで好感。クリエイティヴ・ソース版の“Wildflower”をネタ使いしたスウィートで切ないスロウ・バラード“Thank You”は怨念系の歌みたいだけど、この歌詞はエイコンによるもの。あと、ニーヨの制作でジャネル・モネイと共演した“Do My Thing”は、UK、USそれぞれの尖がり歌姫どうしのコラボで興味深い。ロッキン・ファンク・ソウルなこれは完全にジャネル寄り(“Tightrope”路線の)曲ですが。さらに、本作にはスポークンワード風なインタールードが5曲挿まれているのだが、それを手掛けたのがザ・ルーツのクエストラヴ。そういや、去年の7月4日にフィラデルフィアで行われた合衆国独立記念コンサートでエステルとザ・ルーツが共演したんだけど、あれはこの新作とも関係があったのかな?

以前、「自分が書く曲は100%実体験」と話していたエステル。今回は、『All Of Me』と題したアルバム・タイトル、それにモノクロームのシンプルなジャケットが伝えるように、これまで以上に自分の素を伝えた作品のよう。個人的には、リリックがどうの…と言われすぎると萎えるのですが、日本盤には素晴らしい歌詞対訳が付いておりますので(ボーナス・トラックの件もありますし)、そちらをおススメしたいです。



トラックバックURL
コメントを書く




情報を記憶: 評価:  顔   星