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2021年01月

2020-2021 R&Bトーク:林 剛×Yacheemi


Jhene AikoR&B常に進化し続け、いつの時代も新しく刺激的な作品を届けてくれる。ステイホームを余儀なくされた2020年(2021年の現在も)は、自宅で音楽に接する時間が増え、R&Bをよく聴いたという声が例年以上に多かった。一方で、聴いてはみたが、2010年代以降のR&Bがどういう状況になっているか、よくわからないという声もあった。個人的にはウェブ・メディアで2020年のベスト・アルバムを選んだりもしたが、シーン全体の総括はしておらず、2020年のR&Bがどんなものだったか、また、2021年に向かってどう進んでいるか、自分用にまとめておきたいと思った。そんなわけで、放置状態だった拙ブログにて、2020年の大晦日にZoomで行ったR&Bファンどうしによる趣味全開のトークを一方的にお届けする。対談のお相手は、ダンサー/DJとして活動するYacheemi(ヤチーミ)さん。ヒップホップ・グループ、餓鬼レンジャーのマスコット的存在であるタコ神様としても会場を熱狂させている鬼才で、R&Bを中心に、ヒップホップやレゲエなどを嗜む彼は、時に筆も握る。字数制限がない個人ブログなので、約3時間にわたってお喋りしたものを、ここではほぼそのままテキスト化した。なお、最後には2020年の個人ベストR&Bアルバム20を発表、ベストR&Bシングル30曲のプレイリストも公開している。聴きながらお読みいただけると嬉しい。(構成:林 剛)


Yacheemi @YacchiAFire

林 剛 @hystys

 

 

■2020年の気分

 

林剛(以下HYacheemiさんには、何度かイヴェントでDJをやってもらったりしていましたが、初めてお会いしたのがニューオーリンズ、Essence Festivalの時なんですよね。

 

Yacheemi(以下Y:そうですね。僕が初めてニューオーリンズに行ったのが2009年、20歳の時でした。雑誌『bmr』に掲載されていたEssence Fest.のリポートを読んで、こんな楽園みたいなフェスがあるのか!と思い、何の予備知識もないまま渡米。まさにR&Bファンにとってのパラダイスで大きな衝撃を受けました。それからEssecne Fest.には4回行っていますが、2回目の2015年に初めて林さんとお会いしました。

 

H:共通の友人による遠隔操作で現地合流しましたね。2019年は成田から一緒に行きましたが、ESSENCE』誌の創刊50周年でもあった2020年は新型コロナウィルスの影響で中止になってしまい。結局オンライン・フェスとして配信されたわけですが、既に発表されていた(中止になった)ラインナップには、ジャネット・ジャクソンやパティ・ラベルのようなヴェテラン、初出演のブルーノ・マーズ、小会場のラウンジにはアリ・レノックスやキアナ・レデイ、SiRDスモークなどの名前があって、特にラウンジの出演者はこれぞ2020年!といった感じで期待も大きかった。現地開催の中止は残念でしたが、とはいえ、フェスに行かなくても音楽そのものは十分楽しかった2020年ではありました。

 

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                      幻に終わったEssence Fest.2020の出演予定者

 

Y:今年のキーワードのひとつとして大きく感じたのは癒しでした。コロナ禍での精神的な癒しもそうだし、R&Bに関して言うと、アメリカで黒人として生きることへの不安を和らげるための癒しだったりと、少しでもネガティヴな状況を打開するような音楽が必要とされていた気がします。

 

H:それは例えば、ジェネイ・アイコ『Chilombo』のサウンド面におけるヒーリング感だったり、ティヤーナ・テイラーが“Still”で、アメリカで黒人として生きることとは?と問いかけたそういう歌のこと?

 

Y:まさにですね。ジェネイ・アイコの場合はサウンドにシンギング・ボウル(orクリスタル・ボウル。ネパール仏教やチベット密教にて使われてきた法具)が使われて瞑想的な一面もあったり、アリシア・キーズ『ALICIA』も2020年の日常に寄り添って作られた力強い作品だった。気持ちを上げてくれるような作品という意味では、パーティ・ソングも充実していましたね。

 

H:ポップ・フィールドでもジェシー・ウェアやカイリー・ミノーグらが直球なディスコ・アルバムを出してきたりする中、ドージャ・キャットの“Say So”とか、ヴィクトリア・モネイとカリードの“Experience”みたいなダンス・ナンバーが注目を集めた。密なダンス・フロアでは踊れないけど、脳内でミラーボールを回してくれるような、自宅でも気分を昂揚させるような曲は確かに多かったかもしれない。

 

Y踊りがもたらす効果も結果的には癒しなのかな、と。あとはSNSを中心に若い世代でよく使われるVibeMoodといった、抽象的な心地よさを重視した楽曲も増えた印象。いわゆるR&B/ゴスペル的なスキルフルさはなくても、耳心地のよいMoodyなヴォーカルを携えた新人アーティストが顕著に見られました。

 

H:加えて、ここ数年の女性アーティストの活躍、ウーマン・パワーが炸裂した年という印象もあったかも。2010年前後に再スタートを切ったジェネイ・アイコ、あと、ケラーニあたりが土壌を作って、3年くらい前にエラ・メイやH.E.R.がブレイクしてっていう流れで女性シンガーの勢いが増してきたこともあるけど、アリシア・キーズやアリアナ・グランデみたいなポップ・アイコンと呼べる人がフェミニズムの先頭に立って、それがR&Bシーン全体に及んでいるというのが、2020年は特に強く感じられた。2000年前後のデスティニーズ・チャイルドやTLCなんかのダメ男叩きの曲とは違った、より思慮深さが感じられるというか、人種や性も含めた、より幅広い層にアピールする曲が増えている。それだけに、ティヤーナ・テイラーが第63回グラミー賞の〈最優秀R&Bアルバム部門〉にノミネートされたのが男性ばかりだったことに対して、これじゃ〈最優秀男性アルバム部門〉でしょ…」と不満をぶちまけた気持ちもよくわかる。

 

 

サンプリング、オマージュから見る近年のR&B

 

H:2020年に始まったことではないけど、R&Bの曲で使われるサンプリング・ソースやオマージュの対象がガラッと変わった。90~00年代のR&B7080年代のソウルやファンクのネタが目立っていたのが、2010年代以降になると9000年代前半のR&Bやヒップホップを使う曲が増えてきて、特にここ数年はその傾向が一段と強くなった。歌い手や作り手の世代が切り替わったんですね。

 

Y:そうですね。特に2020年は、アルバムに必ず1曲は9000年代前半のネタ使いがあるんじゃないかと思うくらい頻用されました。

 

H:例えば、エムトゥーメイの“Juicy Fruit”83年)は昔から定番中の定番ネタで、2020年にリリースされた曲では、キアナ・レデイfeat.マネーバッグ・ヨー&ビア“Labels”、エイドリアン・マーセル“NoWhere”V.ボーズマン“Juicy”Ne-Yo feat.ジェレマイ“U 2 Luv“などと続いて、つい最近もレイトン・グリーンの“Chosen One”で使われていた。おそらく、これもエムトゥーメイの曲として使ったというより、“Juicy Fruit“を引用したビギー(ノトーリアスBIG)の“Juicy”94年)などを経由してのネタ使いなのでしょうね。

 

Y(ビギーの“Juicy”経由で)“Juicy Fruit”をサンプリングしたキーシャ・コールfeat.ミッシー・エリオット&リル・キムの“Let It Go”だったりもするのかも。あと、2020年はザップの“Computer Love”85年)ここにきて何でこんなに被るんだというくらい使われている。

 

H:これも以前から使われていた超定番ネタだけど、2020年は続きましたね。チャーリー・ウィルソンfeat.スモーキー・ロビンソン“All Of My Love”のトークボックスでザップ/ロジャーを匂わせているのは直球でザップ/ロジャーへのオマージュだと思うんだけど、若手シンガーの場合は2パックとかを経由しての引用のはず。例えばクイーン・ナイジャが新作『missunderstood』の収録曲でメイズの“Happy Feelin’s”とかデバージの“A Dream”を引用していたけど、あれはきっと両曲を使っていた2パックへのオマージュ。サグライフへの共感みたいなところもあるのかもしれない。それらの曲を使うというアイディアはナイジャ本人ではなく、プロデューサーなのだろうけど。


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 Y:聴く世代によって思い起こす曲が30年以上違うこともありますよね。サンプリングのサンプリングじゃないけど、ワンクッションあることで新しい楽しさもある。ヒップホップ界隈でいうとヤング・バーグことヒットメイカのプロデュース作はR&Bファンのツボをついてくる曲も多かった。O.T.ジェナシスの“Back To You”(ボンゴ・バイ・ザ・ウェイとの共同プロデュース)ではギャップ・バンドの“Outstanding”82年)をサンプリングして、本家のチャーリー・ウィルソンをクリス・ブラウンと共に迎えて歌わせたり。それこそ2000年代初期のジャ・ルールとアシャンティのような、ヒップホップとR&Bが元気に交わってる空気感がありましたね。

 

H:そういう元気な感じは、確かに2000年代ぽい。共演ではないけど、ジョニー・ギルの“My My My”90年)を速回しで引用したリル・モジーの“Blueberry Faygo”2000年代感ありましたね。

 

Y:あと今年カーディ・Bとの“WAP”で大躍進したミーガン・ジー・スタリオンの『Good News』も、ミシェレイ“Something In My Heart”やアディーナ・ハワード“Freak Like Me”などR&B曲の引用が多かった。

 

H:確かに。クイーン・ナイジャの話に戻すと、“Pack Lite”がそうだけど、エリカ・バドゥの曲を引用したオマージュも目立った。タイ・ダラー・サインの“Tyrone 2021”とか。存在自体がエリカへのオマージュみたいなアリ・レノックスもいますけど、80~90年代生まれの世代にとってはエリカの存在は大きい。

 

Y:サンプリングとして引用している部分が、歌詞の内容も引き継いでいるのが面白いですね。タイ・ダラー・サインの“Tyrone 2021”も、エリカの“Tyrone”への男性側からのアンサーになっていたりとか、クイーン・ナイジャの“Pack Lite”もエリカの“Bag Lady”のフレーズを男性に向けて使ったりと、サウンド面だけじゃなくてリリックでも強烈な影響を与えているんだなというのは再確認しました。

 

H:ティヤーナ・テイラーの“Lowkey”はエリカの“Next Lifetime”を引用した上にエリカ本人も招いて、現世では恋人になれない関係だから来世で恋をしましょうみたいな歌にしていた。それにエリカ本人も、コロナ禍のステイホーム期間にわりと早い段階でライヴ配信をしたり、バトル配信シリーズのVerzuzでジル・スコットと組んだり、自分のアルバムは出さなかったけど、露出が多かった。そういえば、エリカのバック・ヴォーカルをやっているデュランド・バーナーが強力な新作『Dur&』を出しましたね。ここでもアリ・レノックスと共演した“Stuck”がザップの“Computer Love”使いでしたが。

 

Y:デュランドは、やっと世に名前が知れ渡ってきた、という感じですよね。アクロバティックかつフェミニンなヴォーカルはラサーン・パターソンにも近いかな。彼の楽曲しか聴いたことのない人は、普段のハイテンションなキャラクターを知ったらびっくりするかも。人柄も含めてクセになる存在です。


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H:エリカの繋がりで言うと、エリカやロイ・ハーグローヴの出身校として有名なダラスのブッカー・T.ワシントン高校舞台芸術校に通っていたLiv.e(リヴ)が個人的には気になる存在で。2020年に出した『Couldn’t Wait To Tell You…』はジョージア・アン・マルドロウやエンダンビみたいなプログレッシヴでローファイな質感のネオ・ソウル〜オーガニック・ソウル・アルバムで、気に入ってアナログも買った。この人、RC&ザ・グリッツやコリー・ヘンリーのザ・ファンク・アポストルズのメンバー、タロン・ロケットの妹(or姉)なんですよね。個人的にメチャクチャ注目しています。

 

Y:ネオ・ソウルといえば、パリ生まれでNY育ちのアデュリーンのEP『Intérimes』もエイドリアナ・エヴァンスみたいでお気に入りでした。あとはアッシャーも2019年あたりから活動的で、ここにきて若々しさを取り戻していますよね。エラ・メイを迎えた“Don’t Waste My Time”などのシングルもありましたが、サンプリングでは2019年にサマー・ウォーカーと共演した“Come Thru”“You Make Me Wanna…”97年)が使われていたり、2020年もdvsn feat.スノー・アレグラの“Between Us”“Nice & Slow”97年)が使われていたりとか。あと、自分の曲では“Bad Habits”が、それこそザップの“Computer Love”使いだった。

 

H:今や、アッシャーの90年代ヒットをR&Bクラシックとして親しんできた世代が主流なんですね。アッシャー自身は、ゼイトーヴェンと組んだ2018年のEP“A“』から、改めて現行シーンに乗り込んできた感があります。対して、9000年代にR&Bのキングとして君臨したR.ケリーがR&Bの世界から完全に消えた。『サバイビング・R.ケリー』という、R.ケリーに被害を受けた女性たちの告発ドキュメンタリーを観ると、そりゃダメだとなるのだけど、今後彼の作品を聴くか聴かないかはリスナー次第として、それでも過去の作品は無視できないし、捨て去ることもできない。カーディ・Bとブルーノ・マーズの“Please Me”が、どう聴いてもR.ケリー“Sex Me”93年)のオマージュだったように、今も誰かがケリーのムードを求めている。2020年の曲でいえば、タイ・ダラー・サインの“By Yourself”feat.ジェネイ・アイコ&マスタードは、R.ケリーが手掛けたチェンジング・フェイシズ“G.H.E.T.T.O.U.T.”97年)の、ビリー・パイパーのヴァージョンを使っていて。

 

YR.ケリーというキーワードを出さずにR.ケリーにオマージュを捧げている、と。

 

H“G.H.E.T.T.O.U.T.”R.ケリーが書いているからクレジットは入るけど、R.ケリーが楽曲制作に直接タッチしていないビリー・パイパーのヴァージョンを使うという屈折したネタ使い。推測ですけどね。とにかく、R.ケリーが作ったムードは今もうっすら漂っていて、おそらく今後も引き継がれていくと思う。本当はR.ケリー以上に人間的に問題があったとされる(のに神格化されている)マーヴィン・ゲイのムードがいまも健在なように。

 

Y:そういう意味では、今年アルバムを出したトレイ・ソングス(『Back Home』)やオーガスト・アルシーナ(『The Product III: stateofEMERGEncy』)も、それぞれ自分をクリーンに保ちつつ、サウンド的にはR.ケリーの影響をモロに受けている。まぁ、オーガストはジェイダ・ピンケット・スミスとの過去の恋仲を暴露して世間を騒がせていましたが…。一方で、シリーナ・ジョンソンはR.ケリーが書いた曲はもう歌わないという宣言をしましたね。


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H:シリーナは、代表曲と言える曲がR.ケリーのソングライティング/プロデュースだったりするから複雑というか、これまでのキャリアが否定される感じになってしまったわけだから本当に気の毒で

 

Y:それでもR.ケリーの曲を歌わないという道を選んだシリーナの最新アルバムのタイトルが『Woman』だったのもグッときました。

 

H9000年代R&Bネタの話で言えば、ブライソン・ティラーがデビュー・アルバム『Trap Soul』からかなり意識的に使っていて、それをトラップ・ビートのR&Bとして今の音楽として成立させている。2020年に出した“Inhale”も、その流れを汲んだ一曲。

 

Y“Inhale”は文章で説明しづらいですが、SWV“All Night Long”とメアリー・J.ブライジの“Not Gon’ Cry”、どちらも映画『ため息つかせて(Waiting To Exhale)』のサントラ(95年)からのサンプリングで、Exhaleの反対語で“Inhale”だと。でも、そのトラックは別の(DpatことDavid Patinoの)楽曲“Exhale”としてリリースされていたという

 

H:そのややこしい経緯をTwitterに書いた記憶がありますが、まあ、映画『ため息つかせて』へのオマージュなのでしょう。ブライソン・ティラーの新作は、最初『Serenity』というタイトルがアナウンスされていたのが、それは後で発表されるようで、その前に『Trap Soul』の5周年で『ANNIVERSARY』というタイトルで出したという。

 

Y:さすがトラップ・ソウルの先駆者だけあって、“Inhale”を含め随所にサンプリングのセンスを感じた作品でした。ネタさえ良ければ何でもいい、というわけにはいかないですからね。

 

H:ネタというかビートに関して言うと、近年はType Beat音楽クリエイターが“○○っぽいビートとして制作し、オンライン販売しているインストのビート)の使用もあるようで。どの程度R&Bの曲に用いられているかは把握できていないのですが。

 

 

存在感を示したアーティスト

 

YH.E.R.の存在感は相変わらず大きかったですね。アルバムは出さなかったですけど、スキップ・マーリーとの“Slow Down”も含めて、2020年に出したシングルをまとめただけでアルバムになるんじゃないかというくらい。

 

H:トニ・ブラクストンのアルバム『Spell My Name』にはギタリストとしてフィーチャーされていた。特にDマイルが手掛けた“I Can’t Breathe”2020年を象徴するという意味ではインパクトが大きかったですね。ミネアポリスでのジョージ・フロイド殺害事件を受けて作られた、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動に関連したプロテスト・ソング。ビル・ウィザーズやジェイムス・ブラウンのバラードに通じるディープな曲で、スポークンワーズの部分にギル・スコット=ヘロンの“The Revolution Will Not Be Televised”の一節を交えていたのも印象的で。これを奴隷解放記念日(JUNETEENTH)にあたる619日にリリースするという。


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Y:一曲ごとのインパクトやクオリティの高さに、アーティストとしての成熟を感じましたね。

 

H:存在として突き抜けた。2000年代にアリシア・キーズが、楽器を弾くシンガー/ソングライター的な風情でスーパースターになっていった時のことを思い起こさせるのが今のH.E.R.。そういえばアリシアもH.E.R.も、MBKプロダクションを主宰するジェフ・ロビンソンに育てられた人で、育て方、売り出し方が似ているのかもしれない。

 

YH.E.R.と名乗る前に、ギャビ・ウィルソンとしてTVショウでアリシアの曲を披露していましたね。“Do To Me”でのレゲエ路線やYGとハードコアに絡む“Slide”だったり、ストリートとの距離感も近しいものがあります。あと客演の数で言うと、『Featuring Ty Dolla $ign』というアルバムを出したタイ・ダラー・サインはもちろんですが、アリ・レノックス、ラッキー・デイ、キアナ・レデイは重要な作品には必ず名前が出てきた。しかも参加している曲がどれも良い出来で、今必要とされている存在なんだなと思います。アリとラッキーは2020年にアルバムを出していないけど(デラックス・ヴァージョンを除く)、今年の客演の顔かなと。

 

H:キアナ・レデイのアルバム『KIKI』にアリもラッキーが登場して、3人揃い踏み。あと、クイーン・ナイジャの『missunderstood』にもアリとラッキーが出てくる。キアナのアルバムは歌が良いのに加えて、デラックス版で加わった共演者も含めて、ゲストの人選がツボだった。特にジャクイースを招いた“Only Fan”はキース・スウェットの“Merry Go Round”90年)あたりをモチーフにしたようなスロウ・ジャムで最高だった。

 

Y:90年代R&Bファンの心をくすぐるメロディーが多いですね。もっと全米的にチャート・アクションがあってもいい才能だと思います。

 

H:確かに。アリ・レノックスとラッキー・デイに関しては、年末に出たGlobal Citizen Prizeの企画でラファエル・サディークが音頭を取ったカヴァー・アルバム『Stand Up』にも登場した。ラッキー・デイ×ビッグ・フリーダ×BJRNCKによるウィリアム・デヴォーン“Be Thankful for What You Got”は我が意を得たりというか、ラッキーとフリーダのニューオーリンズ出身者がこの名曲で繋がったのは本当に感慨深くて。ニューオーリンズも僕ら的に外せないキーワードだけど、PJモートンも相変わらず精力的に活動しているし、タンク・アンド・ザ・バンガスも含めて、お互いの作品で共演し合ってソウル・コミュニティっぽいシーンが形成されているようで、今後がますます楽しみ。

 

Y:ビッグ・フリーダのシャウトが入るだけで一気にニューオリンズ気分になれる。アトランタでいうリル・ジョンみたいな存在感ですね。

 

H:まさに! 2000年代のリル・ジョン、そして、2000年代から活動していたけど、現代のビッグ・フリーダ。

 

Y:タンク・アンド・ザ・バンガスのEPFriend Goals』にもニューオーリンズ・バウンスの曲がありましたが、最近はR&B界隈でも増えてますね。クリス・ブラウンとヤング・サグの“Go Crazy”もそうですし、コリン・ホーソーンの“Sunday“みたいなゴスペル・バウンスみたいなのも。バウンスがくるとつい喜んじゃう。


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H:コリンはニューオーリンズの人なので、それなりに意識しているでしょう。ニューオーリンズのアーティストは今後も追い続けていきます。で、2020年は、さっきも名前が上がったクイーン・ナイジャがフル・アルバムを発表して、客演もそれなりに多かった。ルー・ケルの“Want You”もそうだし。

 

YNe-Yo feat.ジェレマイ“U 2 Luv”のリミックスにもフィーチャーされていましたね。日本の知名度は高くないですが、本国でのファンベースは確固たるものがある。言葉の詰め方だったりソングライティングのセンスは、エクスケイプのキャンディに近いものを感じたり。アルバムも良かったです。

 

H:個人的には、2017~2018年に出した“Medicine”“Karma”2019年の“Away From You”みたいなシングルを改めて入れてくれたらもっとパキッとしたんじゃないか?とも思ったのだけど、懐かしさが先に立ってしまうからかな?ともあれ、あのペタペタした人懐っこいヴォーカルはクセになる。『アメリカン・アイドル』で途中敗退するも、ユーチューバーとして注目されてシンガーへというキャリアは今っぽいけど、本当にしっかり歌える人だから。オーディション番組で敗れても、今はSNSでセルフ・アピールできる。それを最大限に活かしたのが彼女。

 

Y:そっちの方がパワフルだったりしますからね。オーディション番組で勝ち上がったという肩書きがあまり意味をなさなくなった。

 

H:ルーベン・スタッダードやジェニファー・ハドソンあたりは、『アメリカン・アイドル』のファイナルまで行ったことが強みになって信頼に繋がったけど、現代はもう何かの権威に頼ることが最良とは限らない。そういえば、“YouTubeでのパフォーマンスが注目を集めてデビューみたいな売り文句が、まだ新しく思えた時代に登場したのがジャスティン・ビーバー。ジャスティンは2020年、自分のルーツだと言うR&Bを意識したアルバム『Changes』を出したけど、先行シングルの“Yummy”を含めて個人的には相当ハマった。

 

Y:“Yummy”のリミックスにはサマー・ウォーカーも参加しましたね。ケラーニとの“Get Me”もバッチリだった。

 

H:カナダ出身者だと、サヴァンナ・レイという女性シンガーがいて、彼女のシングル“Solid”がキーシャ・コールの“Love“を現代に蘇らせたみたいなオーセンティックなスロウで、たまらなかった。旦那さんがYogiTheProducerっていう、ケラーニの新作『It Was Good Until It Wasn't』にも関わっている人で、本人もベイビーフェイスと曲を書いていたこともあるようなので、今後が楽しみ。それこそ、タミアとかデボラ・コックス、メラニー・フィオナみたいに、カナダを飛び越えてアメリカでブレイクしそうな予感。

 

Y:そう思うとカナダ勢はザ・ウィークエンドやdvsn、パーティーネクストドア、ジェシー・レイエズなど、今年リリースがあった人たちだけでも個性的なタレント揃い。ケイトラナダもモントリオール出身だし、ダンス・ミュージックのセンスがピカイチですね。

 

 

ヴォーカルの傾向

 

Y新人のアーティストも耳馴染みのいい楽曲がたくさんあったんですが、いかんせんヴォーカルの匿名性も強い。K.ミシェルだったり、今度ニュー・アルバムを出す(202118日に『Heaux Tales』を発表した)ジャズミン・サリヴァンを聴いちゃうと、やっぱり歌声のパンチ力はR&Bに必要不可欠だな、と思ってしまった。


H:まずヴォーカルありきのジャンルだから。ただ、近年のR&Bにおけるヴォーカル・スタイル、特に女性シンガーに顕著なのが、ジェネイ・アイコに代表される、ソウルフルとは言えない、舌足らずというか甘えたような声。2000年代半ば、Ne-Yoが出てきた時、よく言えばセクシーでスウィート、でも従来のR&Bシンガーと比べると薄口な、高めのトーンの声が苦手というリスナーも多かったけど、そういう人が主流になっていくとこちらの耳も慣れてきて、だんだんいいなーと思えてくる。Ne-Yoの歌声は、呟くような歌い方をする人が主流の今では、むしろ濃いと感じるほどですが。とにかく現代の女性シンガーは、あの舌ったらずな声が主流で

 

Y:元を辿るとアシャンティ、10年代だとティナーシェとかの系譜なんですかね。思えばキャシーの舌ったらず感は今っぽい…。

 

H:やっぱりジェネイ・アイコの影響が大きいかも。そうやって似た声のシンガーが次々と出てくる状況も含めて、現代の女性シンガーの台頭は、90年代にメアリー・J.ブライジのフォロワーが雨後の筍の如く出てきた感じにも似ている。ジェネイ・アイコ以降と言っていいのかわからないけど、クイーン・ナイジャやレイトン・グリーンみたいな人もアイコの流れを汲んでいる。『5th Element』というEPを出したアイヴィ・ジェイ(2002年生まれ)に至っては、クイーン・ナイジャからの影響を公言していて、時代がどんどん進んでいるなと

 

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Y:なるほど。ヒップホップ・ソウル期と同じく、今後も活動していく上で頭ひとつ抜けるには、自分のシグネチャーとなる歌唱スタイルが必要になりそうですね。あとは近年再評価の高いブランディをアイドルとする人も多い。アンダーソン・パークがサポートするインディア・ショーンなんかは、コーラスの重ね方や声のトーンもブランディ的。

 

H:ブランディは今年、DJキャンパーと組んで現代風に攻めた新作『b7』を出しましたね。ブランディの歌唱はヴォーカル・バイブルとして崇められているけど、彼女の影響力は今も大きい。近年は“I Wanna Be Down”94年)のリミックス・ヴァージョンがフェスやアウォードなどでブランディを含めた女性シンガー/ラッパーが歌っているのをよく目にするけど、今年はRoeという女性シンガーがこれ引用した“Wanna Be”という曲も出した。

 

Y:ブランディに加えて、アリーヤの影響も大きいでしょうね。

 

H2010年代以降の女性R&Bシンガーって、大雑把に言うとアリーヤとシャーデーのミックスというか、サウンドがシャーデー、歌がアリーヤ。そんな中、シャーデーが久々のアルバムで帰ってきそうな予感もあるけど。

 

Y:スノー・アレグラがまさにそのタイプと言えそう。

 

H:そう考えると、ジェネイ・アイコ以降と言っても、エラ・メイやH.E.R.はアイコと似ているようでタイプが違うというか、音の感触通り、懐かしさを含んだ、よりオーセンティックなソウルフルなヴォーカルで。だから、〈R&B is Alive!〉みたいなことを結構な頻度で言っているのもよくわかる。ヤングMA最近のR&Bにあんまりいいのがないと言って、PJモートンみたいな人がそんなことはないとはっきり言ってくれたりするのは本当に頼もしいです。

 

Y:これだけ良い新譜が出ているのに、聴かずして判断されるのは悔しいですしね。しかしヤングMAの発言をきっかけにしてか、タンクが〈R&B Money〉と謳って今このR&Bが熱いとSNSでリコメンド投稿したり(現在はほぼ筋肉写真のみ)、R&Bアーティストを自認する人たちのコミュニケーションが増えた気がします。

 

H:タンクは、自分のレーベルの名前がR&B Moneyですからね。2020年は『While You Wait』『Worth The Wait』というピアノ弾き語りのEP2枚出しましたが、数年前、Esssence Fest.で、まんまこのスタイル弾き語りのライヴを観ていて、R&Bの真髄を見せられた気分でした。R&B一直線。ハードコアR&Bって感じの。

 

Y:最近は音楽活動がご無沙汰のジェイミー・フォックスを思い出します。ハードコアR&B“というネーミング、いいですね。

 

H:脇目もふらず、その道を極める人。女性ならK.ミシェル。彼女の最新作『All Monsters Are Human』は2020年で最もガッツリ歌っているR&Bアルバムだったかもしれない。

 

Y:気持ちがいいくらいにド直球。逆に言うと、あまり気を衒わないR&Bアルバムは近年スポットが当たりづらいですね。リル・ロニーが手がけた“Something New”とか本当に素晴らしいです。シングルの“The Rain”はニュー・エディションの“Can You Stand The Rain”のサンプリングが話題になりました。

 

H:ニュー・エディションといえば、トレイ・ソングスfeat.サマー・ウォーカーの“Back Home”もニュー・エディション“If It Isn't Love”をモチーフにしていましたね。で、K.ミシェルだけど、今度カントリーのアルバムを出すそうで(20212月リリース予定)。ビリー・レイ・サイラスと一緒にやった曲も入ると。

 

Y:2020年の頭に出したミックステープでもカントリーの楽曲がありましたし、新作のMVではカウボーイ・ハットを被っていましたね。

 

H:キャリー・アンダーウッドのカヴァーをやったり、カントリーへのアプローチは今に始まったわけではないけど、メンフィスっ子というか、テネシー州出身者としての矜持みたいな感じなのかも。だから、「リル・ナズX“Old Town Road”のヒットに便乗して黒人シンガーの私もカントリーをやってみました、ではない的なことを本人も言ってます。最近亡くなった黒人カントリー・シンガーの草分けとして知られるチャーリー・プライドとか、フーティ&ザ・ブロウフィッシュのダリアス・ラッカーとか、その系譜にあるのかも。ドリー・パートンの書き下ろし曲を含むというカントリー・アルバムは楽しみにしています。と、話が少しそれましたが、男性シンガーだと、タンクやトレイ・ソングス以外にガッツリ歌える人というと

 

Y:個人的にはVedoが良かったですね。2013年にオーディション番組『The Voice』に出場して、審査員を務めたアッシャーのお気に入りだった人。ジャネット・ジャクソン“I Get Lonely”使いの“You Got It”がTikTokをきっかけにバイラル・ヒットしています。


 

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HVedoはまさにハードコアR&B。『For You』は素晴らしいアルバムだった。アッシャーfeat.エラ・メイ“Don't Waste My Time”でコ・ライトした実力派。あと、R&Bファンの間で人気が高かったのが、ジェイコブ・ラティモアのEPLeo Season』。ジェイコブは俳優でもあるけど、お父さんが2001年にMCAからアルバムを出したジャージー・アヴェニューのメンバーで、ケニー・ラティモアの親戚だとされる血筋の良さ。

 

Y:まさにR&Bサラブレッド!あとはケヴィン・ロスの一連の作品も充実していました。中でも“God Is A Genius”は、ラッキー・デイ“Roll Some Mo”も想起させる2020年屈指の名曲。

 

H:タイトルがゴスペルっぽいけど、ゴスペルじゃないよっていう。2枚のEPを合体させたフル・アルバム『Audacity Complete』も素晴らしくて、そこに収録されたライヴも聴き応えがあった。モータウンとヴァーヴの両ロゴが入った『The Awakening』(2017年)も快作だったけど、彼のオーセンティックなR&Bシンガーとしての魅力が、トレンドを意識するあまり消されていたような気もしていて。でも今回は、インディからのリリースで、自分の音楽性に正直なアルバムになっている。

 

Y:ケヴィン・ロス、ジェイコブ・ラティモア、タンクは全員エンパイア傘下のレーベルに所属してますね。ロイドやサミーもいるし、エンパイアは男性シンガー強し。

 

H:新世代の男性シンガーだと、2枚目のアルバムだけど、レヴィン・カリの『HIGHTIDE』が突き抜けていたな。ジ・インターネットにも通じる西海岸らしい開放感のあるネオ・ファンクというか。

 

Yゲストも前作に引き続きシド、タイ・ダラー・サインと西海岸勢。メロウなんだけどファンク魂がしっかりあるので、クラブDJからの人気も高かったです

 

H:お父さんがマザーズ・ファイネストのベース奏者、ジェリー・シーイなんですよね。それで思ったのは、タイ・ダラー・サインのお父さんがレイクサイドの元メンバー(タイロン・グリフィン・シニア)で、サンダーキャットやキンタローのお父さんもフレッド・ウェズリーがプロデュースしたカメレオンというバンドの元メンバー(ロナルド・ブルーナー・シニア)だったりするように、70年代後期から80年代中期にファンク・バンドで活動した人たちの息子で、LAで育った人たちのファンク魂というか、共通した空気感がある。意識しなくてもバックグラウンドが滲み出ちゃってるような。

 

Y直接的にサンプリングをしていないのに80年代の空気を纏っている。DNAに染みついているから自然なんですね

 

H:あと、男性シンガーではギヴィオン。サンファみたいな眠たそうな声が独特で、彼はヴォイス・オブ・ザ・イヤーって感じかな。尺的にはEPと言っていいアルバム『Take Time』は、第63回グラミー賞で〈最優秀R&Bアルバム〉にノミネートされた。

 

Y:元々はドレイクの“Chicago Freestyle”にフィーチャーされて話題を呼んだ人でしたね。


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H:その曲が出た時に、ドレイクのファンからサンファに間違えられたという。このギヴィオン、女性ではヴィクトリア・モネイが、2020R&Bの新人という感じかな。ヴィクトリア・モネイはキャリアが長いけど。

 

Y:ヴィクトリア・モネイは完全に新作で化けましたね。アリアナ・グランデのベスト・フレンドという触れ込みが先立っていたけど、全米的なタレントになった。セクシュアリティをオープンにして(彼女はバイ・セクシュアルを公言している)自由を唱えたカリードとの“Experience”も素晴らしかったし、新しいアイコンとしてどんどん成長しそう。

 

H:他には、ピンク・スウェッツやLonr.あたりがブレイクし始めた印象。ピンク・スウェッツは、まさに全身ピンクで決めて、テディ・ベアをマスコットにしている。

 

Y:ネクスト・カリードという印象ですね。彼自身がマスコットみたいで可愛らしい。

 

HLonr.は、ライヴを観て、R&B版のジュース・ワールドみたいな印象も受けたんだけど。

 

Y:確かに見た目はR&Bシンガーっぽくないですね。BETアウォードでもパフォーマンスしていたH.E.R.とのデュエット“Make The Most”は愛聴しました。

 

H“Make The Most”DJキャンパーの制作だけど、Lonr.H.E.R.のソングライティング・パートナーなんですよね。たぶん本名がイライジャ・ディアス。H.E.R.の舎弟的な存在で、その意味では、サマー・ウォーカーとNo1-Noahに近い関係かな。

 

Y:お抱えの、とまではいかないけど、勢いに乗ってる女性シンガーが送り出す男性シンガーということで要注目です。

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soul_ringosoul_ringo  at 20:35 この記事をクリップ!