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2012年06月

Wonderland-The Spirit Of Earth Wind & Fire

Spirit Of EW&Fこ、これは…。我らが長岡秀星画伯によるアース・ウィンド&ファイア『太陽神』(原題『All ’N All』)の出来損ないみたいなデザインのジャケット。まあ、EW&F感は伝わってきますが(笑)…ってなわけで、今回は英エクスパンションから発売されたこのコンピレーションを。EW&Fの編集盤ではなく、EW&Fメンバー(フェニックス・ホーンズ含む)の外仕事にスポットをあてたコンピレーションだ。EW&Fメンバーが演奏やソングライティング/プロデュースなどで参加したEW&F以外のナンバーを20曲収録。昨年はEW&Fデビュー40周年を記念して、日本でもカリンバ・プロダクションの作品が紙ジャケで再発され、今年に入ってからはEW&F本体(コロンビア時代)の紙ジャケCDも発売されたが、なら、UKも黙っちゃいれらん!ということか。

で、ラムゼイ・ルイス“Tequila Mockingbird”に歌詞をつけてカヴァーしたディー・ディー・ブリッジウォーターの快活な疾走アップで幕を開けるこのコンピ。選曲/監修は、先日紹介したPIR創立40周年記念ボックスを手掛けたラルフ・ティー(およびポール・クリフォード)ってことで、これまた一筋縄ではいかない、ソウル・リスナーのツボを押さえた選曲になっている。当然ながらカリンバ・プロの楽曲も選ばれているのだが、例えばポケッツが“Got To Find My Way”、デニース・ウィリアムスが“The Boy I Left Behind”、エモーションズが“There'll Never Be Another Moment”という感じで、定番曲を外して隠れ人気のアーバン度高めな曲を入れてくるというこのセンス…まったく憎たらしい(笑)。4曲目にマイティ・クラウズ・オブ・ジョイ“Glow Love”(アル・マッケイ制作)が登場するなんて、マニアックだよなぁ。

ロニー・ロウズ、カルデラ、ヴァレリー・カーター、パウリーニョ・ダ・コスタなど、EW&Fの楽曲に何度か関わった人たちの収録は想定内として、フィリップがリード・ヴォーカルを務めたエイブラハム・ラボリエル(メキシコ出身のベーシスト)の曲やアル・マッケイ&フィリップ作の“Angel”を歌ったフローラ・プリムとかは普通なかなか入ってこない。チャカ・カーンの7インチ・オンリー(“What' Cha Gonna Do For Me ”のB面)だった“Lover's Touch”なんて、EW&Fに曲(“Getaway”など)を提供したビロイド・テイラー(S.O.U.L.の元メンバー)が書いているというだけで収録って、ここまでやりますか、という感じだ。たぶん一番ストレートな選曲はラムゼイ・ルイスの“Sun Goddess”だろう。が、これもシングル・ヴァージョンを用意するという周到さ。

曲ごとのクレジットには、どのメンバーが何で関わったかということまでキチンと書かれている。特にホーン・セクションに関してはフェニックス・ホーンズのメンバーに加えて、常連だったオスカー・ブラッシャーなんかの名前まで記されていて、もしやラルフ、「サックス&ブラス・マガジン」のEW&F特集号見たな?と思ってしまうほど(笑)。冗談ですが。全体を通して聴いて思ったのは、モーリス・ホワイトやフィリップ・ベイリーの個性はもちろんだけど、ラリー・ダンの洒脱なキーボード・センスやアル・マッケイのコロコロした軽快なグルーヴが引き立った曲が多いなぁということ。タヴァレスの“Love Uprising”とかグレイ&ハンクスの“Dancin'”なんて基本フェニックス・ホーンズのメンバーが関わっただけなのに、リズム隊までEW&F感があるという。あと、アルトン・マクレイン&デスティニ-やジーン・ハリスなど、スキップ・スカボロウが書いた曲も収録。個人的に大好きだったブルー・マジック“I Waited”はプロデュースがスカボロウで、フィリップがペンをとり、アル・マッケイがギター、ラルフ・ジョンソンがドラムスで参加しているのだけど、これもアル・マッケイ感全開だなぁ。そういえば、エクスパンションからは以前スキップ・スカボロウの作品集『Skip Scarborough Songbook』が出ていたけど、あれとは選曲がかぶっていない。

さて、EW&Fといえば、去る5月17日に一夜限りの来日公演(@東京国際フォーラム)を行った。もう1ヵ月以上前のことなので詳しく書かないけど、古参メンバー3人(ヴァーディン、フィリップ、ラルフ)を中心に、フィリップの息子たちを加えた現グループは、モーリスの不在を何とかカバーしつつ新たな道を歩み始めていて、これが実に清々しい。フィリップも、そりゃ全盛期のようなファルセットは出ないけど、かなり頑張っていたと思う。モーリス役を務めるデイヴィッド・ウィットワース(元14カラット・ソウル)がちょいと出しゃばりすぎ?な印象もあったが(笑)、今やこうするしかないというか。マイロン・マッキンリーらを擁するバンドも悪くない。後でいろいろなライヴ評を見たり聞いたりすると、「“September”最高!」「当時の思い出がよみがえってきて涙」という意見もあれば、「PAが悪い」「モーリスがいないなんてやっぱりEW&Fじゃない」という意見もあって、まあ、人それぞれ。どのアーティストのファンもそうだが、特にEW&Fのファンは、テクニカルなことにまで言及するマニアと、懐かしの曲が聴ければそれでOKというライトなファン(バカにしているわけじゃないです)の温度差が激しい(ように見える)というか。そんな感じだから意見もバラバラになるのは当然。予想通り、会場が最も湧いたのは“Fantasy”“September”“Let's Groove”の3連発。やっぱり日本では“ディスコのEW&F”なんですね。ちょっと自慢っぽく聞こえてしまうかもだけど、これが本国アメリカでのライヴ(僕の場合はEssence Music Festival、昨年の独立記念日コンサートwithザ・ルーツを観戦)だと、ダンス・ナンバーはそこそこの反応で、“Devotion”や“Reasons”といったスロウ・バラードで観客絶叫となる。ここらへんの違いはとても興味深い。

EW&Fとしては、今年秋、延び延びになっている新作『Now,Then & Forever』(著名アーティストたちが選ぶEW&F名曲コンピとのセット)を発表予定。それに先駆けて、来日時に新作用のインタヴューを行ったのだけど、5月の時点では、曲は録ってあるものの選曲も含めてまだ大半が未定という感じだった。でも、今回は先行シングル“Guiding Lights”でキーボードを弾いていたラリー・ダンも結構関わっているようで、往年のファンには嬉しいトピックがいくつかある。それまではこのコンピでも聴いて待っていましょう。…何だか最近ラルフ・ティーの提灯持ちみたいだけど、まあ、いいか。

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Karyn White / Carpe Diem~Seize The Day

KarynSWVに続いて今回も90年代復活組を。18年ぶりとなる新作の国内発売と約17年ぶりの来日公演が重なったキャリン・ホワイトです。“90年代復活組”といっても、キャリンがシーンに登場したのは80年代半ば、ジェフ・ローバーの86年作『Private Passion』にマイケル・ジェフリーズと一緒に参加した時。同アルバムに収録された“Facts Of Love”でリードを務めたことで注目を集めた。そして、その後ソロ・デビューしてからの大ヒット“Superwoman”。これも88年の曲なので、ここらへんをリアル・タイムで聴いていた人にとっては“80年代のシンガー”なのかもしれない。

僕もキャリンをリアル・タイムで聴き始めたのはソロ・デビュー作からだけど、正直言うと、当時10代だった自分には、“Superwoman”というかベイビーフェイスの作るバラードがベタに感じられて、イマイチのめり込めず…。しばらく経ってからその良さに気付くのだけど、それより当時はアップの方が断然好きで、“The Way You Love Me”の方をよく聴いていた。ちょうど同じ頃にヒットしていたザ・ボーイズの“Dial My Heart”とリズム・パターンがよく似ていたこともあって、そのふたつがセットで記憶されていたりする。が、本気でキャリンの音楽に燃えたのは、ジャム&ルイスと組んだ91年の2nd『Ritual Of Love』から。“Romantic”とかの、あのキラキラした感じがたまらなかった。あと、セクシーなアルバム・ジャケットも。この頃、彼女がテリー・ルイス夫人となったのは有名なお話。2ndに比べると94年の3rd『Make Him Do Right』は地味だったが、捨てがたいアルバムではある。個人的には、この時プロモーション来日した彼女のインタヴューに某音楽誌のペーペー編集者として同行し、少しふくよかになっていた(今思うと妊娠中だった?)ご本人と対面した記憶が蘇る。

その後、彼女はシーンから退いてしまう。今振り返るとヒップホップ・ソウルの流行とともに姿を消したというか、キャリン・ホワイトという人は、R&Bがヒップホップと手を繋ぎ始めた80年代後半から90年代前半という激動の時代に生きながら、ヒップホップ(・ソウル)とは無縁で過ごした正統派シンガーという気がしなくもない。が、その後姿を消したのはシーンに馴染めなかったからではなく、実業家に転向し、子供(娘)を育てていたから。その娘さんも今やすっかり成長し、名門ハワード大学に進学したとか。そういえば、キャリンのソロ・デビュー時にマネージメントを手掛けていたラーキン・アーノルドもハワード大学の出身でしたっけ。という余談はさておき…それでも6年ほど前には一度復活しようとしていたらしく、シャウト・ファクトリーから発売されたベスト盤(2007年)には、お蔵入りとなったアルバムからアコースティックな新曲(2曲)が収められてもいた。この時キャリンは既にテリー・ルイスと離婚していて、再婚したボビー・G(ゴンザレス)を制作パートナーに迎えて曲を作っていた。

そして18年ぶりに登場した新作。当初は一般流通の予定がなく、本人のサイトのみでの扱いだったので、僕もそこから購入した。が、結局市場に出回るようになり、来日直前に日本盤(輸入盤国内仕様)も登場。日本盤には、これまでのキャリアやアルバムの内容が的確に記されたライナーノーツ(荘治虫さん)が付いているので、未購入の方には日本盤をおススメするとして…新作の方向性は、簡単に言えばネオ・ソウルというかオーガニック・ソウル的なそれ。本人は“レトロ・アコースティック”なんて呼んでいるようだけど、お蔵入りアルバムのタイトルでもあったらしい冒頭の“Sista Sista”からしてそんな雰囲気。“Romantic”なんかのイメージからは随分かけ離れた感じだけど、先のベスト盤で披露された2曲を聴いていれば、何となく予想できた方向性ではある。僕個人はそれほど興味を惹かれなかったけどシンディ・ローパー“True Colors”のカヴァーなんかも含めて、自分の思いのままに今やりたいことを素直にやりました…という感じなのかな。オートチューン加工のヴォーカルも出てきますが。個人的なハイライトはメロウなミディアム“Sooo Weak”。エンダンビを聴いてるみたいで…っていう感想は的外れ?

プロデュースを手掛けたのはデレク“DOA”アレン。現在もR&B~ゴスペルの世界で活躍している人だけど、90s R&Bファン的にはブラックガールやボビー・ブラウン・ポッセ(スムース・シルクほか)のプロデュースをしていた人として記憶されるところ。主役の歌を引き出すのがとても上手い人だ。そのデレクに加え、夫のボビー・Gもソングライティングに参加し、美しいバラード“My Heart Cries”では途中からボビーも声を交える。他にも、クレジットを眺めていると、“Sista Sista”のバック・ヴォーカルでは僕の好きなファニータ・ウィン(アンジー・ストーンと一緒にやってた人)が歌っていたりも。あと、“Dance Floor”のソングライティングには、元クラブ・ヌーヴォーのジェイ・キングの名があるが、今回のアルバム制作においては彼が影の支援者として尽力したそう。関係ないけど、ジャケット裏の写真では壁にマキシン・ナイチンゲールの76年作『Right Back Where We Started From』が飾ってある(見える)のだけど、これは何か意味があるのかな? ちなみに、古代ローマの詩人ホラティウスの一節から名付けたというアルバム・タイトル『Carpe Diem』は“一日の花を摘め”、英語ではSeize The Dayとなり、今日を精一杯生きよう、という意味になる(とライナーにも書いてある)。というわけで、今を生きるキャリン。80~90年代の彼女を懐古したいファンとは逆に、本人はずっと先を見ているのかもしれないですね。

もちろん来日公演にも足を運んだ。ビルボードライブ東京での初日(6/22)、ファースト・ステージを松尾潔さんとふたりで観戦。“Romantic”も“The Way You Love Me”もやったし、ベイビーフェイスとの共演曲“Love Saw It”をバック・ヴォーカル兼ラップの男性と歌ってもくれた。もちろん“Superwoman”も。が、僕が観たステージでは過去のヒットはわりとあっさりと歌い、やはり新作の曲に力が入っているように見えた。デレクがベーシストとして帯同したバンドも、新作のオーガニックな曲の方がしっくりときている感じだったし。面白かったのは、新作からの“Dance Floor”。ライナーで荘さんは「マイケル・ジャクソンの往年のダンス・チューンを彷彿させる」とお書きになっているが、まさに慧眼というか、たぶんこの曲だったと思うが、途中でジャクソンズの“Shake Your Body”を織り込んで歌っていた。マイケルの命日(6/25)も近いので、ということからか。あと、パフォーマンス以上に印象的だったのは、あの美貌とスレンダーな体型をキープしていたこと。どこかダイアナ・ロス的な美しい歳のとり方というか。そんなキャリンを見て「さすがミスコン荒らしをしていただけのことはある」と松尾さん。

松尾さんとは、最近だとミュージック・ソウルチャイルドやロバート・グラスパーのライヴも観戦。“R&B情報交換会”と称して(?)、その日のライヴ・アクトを肴にしつつ、日本で評価の低いR&Bアーティスト(K・ジョンなど)について語り(飲み)合うという濃密かつ贅沢な時間を過ごさせていただいている。この日も、仮にキャリンがSWVみたいにケイノン・ラムとやってたら?などなどいろんな話が出たが、キャリンといえば、今回アンコールの前に歌った“Superwoman”はタイトル通り受け取ると間違いで、実は〈I'm NOT your superwoman〉と歌っているのです…という話も。これに関しては「松尾潔のメロウな夜」(NHK-FM)でもお話しされていたと記憶しているが、このテの話は、ここで僕がアレコレ書くより、松尾さんに語っていただく方が100倍説得力がありますね。で、そんな松尾さん、2010年からbmr誌の連載に加わるも休刊に伴って中断されていた「松尾潔のメロウな日々~TIMELESS JOURNEY~」が、この度ウェブ版として復活。今後も楽しみです。あとは……bmrの復刊を頼む!



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SWV / I Missed Us

SWVお試しで3ヵ月やってみます…なんて言ってブログを始めてから、その3ヵ月が過ぎた。が、書いた記事はたったの16本。毎度(自分に)言い訳ばかりしてますが、ちょうどブログを始めた頃から“原稿千本ノック状態”というか、たまたま仕事がバタバタと重なり、ブログ書く暇あるなら仕事の原稿を早く上げるべきだよなぁと思い、控えておりました。で、今後も続けるか否かですが、ありがたいことに本ブログをお読みになってCDを購入されたという方が思いのほか多く、そう言われればやる気も出るってもんで、続けていくことにします。親しい方からは、「文章量が多すぎる…それじゃ続かないよ」とのご指摘もいただいているので、今後は文章量を減らすのが目標。と言いつつ、今回も長いです(笑)。

今回は、再結成を果たしたSWVことSisters With Voicesの15年ぶりとなる新作。4月に発売された輸入(US)盤が既にかなり売れているようですが、自分がライナーノーツを書いた日本盤が6月20日に発売されたので、ここでもちょっと書いておこう。ライナーでは、久々の新作ということもありこれまでの彼女たちの歩みを改めて整理し、その後で新作の内容、プロデューサー/ゲスト陣についてダラダラと書いているわけですが、実はその日本盤を買われた方のために告知しておかなければならいないことがある。まさにライナーノーツのことで。というのも、僕の文章量が多かったせいか改行が全てなくされ、その改行をなくす作業中だったのだろう、ある文章が削られてしまい、ヘンに繋がってしまっているのだ。本来は「3rd『Release Some Tension』を発表。同年のサントラ『Booty Call』にも収録されたミッシー・エリオット客演の“Can We”などで新機軸を打ち出す一方で…」と書いていたところが、〈Some Tension』を発表。同年のサントラ『Booty 〉という部分が抜け落ち、「3rd『Release Call』にも収録されたミッシー・エリオット客演の“Can We”などで新機軸を打ち出す一方で…」となってしまっている。もちろん『Release Call』なんていうアルバムはない(笑)。…今回は自分のミスじゃないが、こういうのを告知できるから、やっぱりブログをやっておくべきなのかも、と思ったり。ともあれ、お買い上げいただいた方、読むに値しないつまらないライナーノーツかもですが、一応僕の方から訂正しておきます。

気を取り直して、新作だ。2005年に活動を再開し、何度か来日公演まで行っていたSWV待望の復活作『I Missed Us』はマス・アピール/E-One(日本盤はビクター)から。結果から言うと、SWVがSWVのまま戻ってきてくれた、90年代R&B万歳!な内容。先行シングルの“Co-Sign”からして、かつてブライアン・アレキサンダー・モーガンが手掛けた“Right Here”や“I'm So Into You”を思い起こさせる90sスタイルのミッド・アップだったわけだけど、アルバムもほぼ全編、溌剌としながらもエレガントで甘酸っぱいあのSWV節が全開で、ココの伸びやかなハイノートがパキーンと響き渡る。全体を通して90年代R&Bへのトリビュート的な気分も漂っていて、アーリー90sマナーのダンサブルな2ndシングル“All About You”なんか、まるでウータン・クランを招いた“Anything”のリミックスを聴いているかのよう。ファットマン・スクープのアゲアゲな声ネタを絡めた定番のビートに、ランDMCなどでお馴染みのボブ・ジェイムズ版“Take Me To The Mardi Gras”のパーカッション&ドラム・ブレイクを挿み、2ndヴァースの冒頭でハイ・ファイヴの91年ヒット“I Like The Way(The Kissing Game)”のリリックを織り込む仕掛けもニクイ。ルーファス&チャカ・カーン“Do You Love What You Feel”を大ネタ使いした性急なアップ“Do Ya”(ちょっぴりメアリー・J・ブライジ“Just Fine”風?)もクセになりそうだ。92年のアルバム・デビューから今年でちょうど20年、よい意味でほとんど変わっていない。

プロデュースを手掛けたのはケイノン・ラム。ミッシー・エリオットと組んで仕事をしてきた人で、ジャズミン・サリヴァンやモニカなどの作品でその名を知る人も多いと思う。(残念ながら?)現在の多くのR&Bプロデューサーがそうであるように突出した個性はないけど、キーシャ・コールのヒップホップ・ソウル・リヴァイヴァル的な“Let It Go”など特定のサウンドの再現に長けた人で、このSWVのアルバムでも彼女たちのシグネイチャー・サウンドを見事に再現。たとえ懐古趣味だと言われようと、ファンが再結成に期待するのはやはり当時の“らしさ”なわけで、そんなファンの期待にラムは真正面から応えてくれているのだ。それでいながら、2012年の音としても説得力を持つあたりは今のプロデューサーならでは、なのかな。9曲目まではそのラムが連続してプロデュースを担当している。その後はブライアン・マイケル・コックスとアイヴァン・バリアス&カーヴィン・ハギンズの制作曲が登場。特にアイヴァン&カーヴィンが手掛けた“Love Unconditionally”(最新シングル)はキーシャ・コールの“Love”を思わせるようなスロウで、これもヤラレタという感じだ。

本編ラストは、ココが近年のライヴで定番としているパティ・ラベルの83年ヒットのカヴァー“If Only You Knew”。ライヴでもそうだが、ほとんどココのソロといった感じで、プロデュースもココの旦那のマイケル・クレモンズが手掛けている。これで終わっても十分満足なんだけど、日本盤には米ターゲット限定盤に準拠した形で3曲のボーナス・トラックを収録。うち2曲はラムの制作で、“Free You”という今風なミディアム・アップ(これも良い!)とラムがLambo名義で客演した“Co-Sign”のリミックス。が、個人的に興奮したのは、スウィッチの78年ヒットのカヴァー“There'll Never Be”(プロデュースはマイケル・クレモンズ)。SWVは以前本国で放映されていたTVドラマ・シリーズ「New York Undercover」に登場してこの曲を歌っていたので、おそらくその頃から自分たちのレパートリーとしてキープしていたのだろう。

SWV人気を不動のものとした、マイケル・ジャクソン“Human Nature”使いの“Right Here/Human Nature Remix”。それを引用して、昨年クリス・ブラウンが“She Ain't You”という曲を発表し、その公式リミックスにSWVが参加していたこともファンの間ではお馴染みだろう。このことが今回の復活(アルバム)を後押ししたと言えなくもない。が、それ以前に、今回の復活は、リード・シンガーであるココがゴスペル・シンガーとして(も)活動し続け、あの透明感のある突き抜けるような歌声を保っていたことが大きい。最近も、フィラデルフィアのトロンボーン奏者ジェフ・ブラッドショウの新作で見事な美声を披露していたけど、やはりココのあの声あってこそのSWV。もちろん、SWVとして復活したからにはタージとリリーの見せ場もあるわけですが。

『I Missed Us』というアルバム・タイトルは、しばらくファンとお別れしてしまっていたこと、そして自分たち3人も離れ離れになってしまったことを意味するという。“会えなくて寂しかったわ”とでも解釈すればいいのかな。とにかく、自分を含む30代後半から40代前半のR&Bリスナーの懐古趣味をいたく刺激する作品。いわゆる最先端の音じゃないし、じゃあ次作はどうなるの?といった疑問もなくはないのだけど、懐かしさ込みで単純に嬉しい復活でしょう。実際、既に多くのR&Bファンが2012年のベスト・アルバム候補に挙げている。僕も2012年のベスト5には入るんじゃないかと思っている。7月上旬にはニューオーリンズで行われるEssence Music Festivalに出演し、8月中旬にはビルボードライブでの来日公演も決定。新作を携えてのライヴも楽しみだ。



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Philadelphia International Records~The 40th Anniversary Box Set

PIR40ちょっとばかり紹介が遅れてしまったが、既にソウル・ファン、フィリー・ソウル好きの間で話題になっているフィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)の創立40周年記念ボックスが届いた。英Harmlessからのリリースで、以前こちらの記事の最後でも軽く触れたように、PIR及びTSOPなどのサブ・レーベルの音源を交えたCD10枚組。全175曲という特大ヴォリュームのボックスだ。これで7,000円前後なのだから結構お買い得!?

フィリー・ソウル(PIR)のボックスというと、本国USではソニー/レガシーからギャンブル&ハフの仕事をまとめた『The Philly Sound:Kenny Gamble,Leon Huff & The Story Of Brotherly Love(1966‐1976)』という3枚組のCDボックスが97年に登場。これはまだ(ジャクソンズ以外の)76年以降のPIR音源の権利がソニーに戻っていない時のもので、それをカバーすべくPIR設立以前のウィルソン・ピケットやローラ・ニーロなんかの“第一期フィリー詣で”なシグマ録音曲も収録していた。で、76年以降の音源がソニーに戻ってからは、アヴコのスタイリスティックスやアトランティックのスピナーズなどの曲も交えた4枚組『Love Train:The Sound Of Philadelphia』が2008年(日本盤は2009年)に登場。ギャンブル&ハフやトム・ベルなど関係者のインタヴューや回想を載せたブックレットも結構な評判を呼んだ。日本盤のライナーノーツ(序文+71曲分の楽曲紹介)は自分がやっていて、2009年の正月に必死で書いたことを思い出す。一方、ヨーロッパ発のボックスでは、イギリスのストリート・サウンズから86年に出たLP14枚組セット『The Philadelphia Story』が有名。これは当時決定版とされた。それと、76年以降の権利が切れる直前にフランスのKnightレコーズが89年に出した『Philadelphia Years』というボックス(CD、LP、カセットで発売)。個人的にはこれを10代後半に聴きまくっていた。ニュー・ジャック・スウィングなんかと一緒に。

そこで今回、英Harmlessから登場した40周年記念ボックス。これまでのボックス、特にUSリリースのものは基本的に年代順に曲を並べてヒストリー性を重視していたが、今回のボックスは全体を通して何となく年代順ではあるものの、1枚のディスクにいろんな年代の曲が入っていて、ディスクごとに何となくテーマが設定されている(特に明記されているわけではない)。選曲/監修は、エクスパンション・レコーズを主宰するラルフ・ティー。英国人ソウル・マニアの彼らしい選曲(グルーヴィーでメロウなそれ)になっているのだけど、実は先述のLP14枚組『The Philadelphia Story』もラルフの監修で、本ボックスはそのLP14枚組をベースにしているようだ。もっとも、そのLP14枚組が発売されてから今や25年以上経っているわけで、今回は、80年代中期以降にEMIマンハッタンが、90年代にZOOエンタテインメントが配給していた時期のPIR音源も収録。もちろんオージェイズをはじめとする70年代のPIR名曲はひと通り収録されている。

注目はやはり、以前チラッと触れたディスク3か。当初アナウンスされていた収録曲とは若干異なるが、一昨年に日本でもCD化されたハワイのディック・ジェンセンをはじめ、エボニーズやアンソニー・ホワイトの昂揚感溢れる7インチ・オンリー曲、同じく7インチ・オンリーでゴールデン・フリース原盤となるラヴ・コミッティのダンサーとエシックスのスロウ、TSOP原盤となるカレイドスコープの素敵すぎるフィリー・ダンサー、トム・ベルが送り出した兄妹デュオのデレク&シンディによる“黒いカーペンターズ”風なバラード(サンダー原盤)……と、アナログだと結構レアな曲が並ぶ。あと、個人的に興味深かったのがディスク7。ここに並ぶのはジャズ、ジャズ・ファンク、ジャジー・スタイルのソウルで、マイケル・ペディシンJr.、モンク・モンゴメリー、それにノーマン・ハリスやリオン・ハフといった楽器奏者の曲が多め。全米屈指のジャズ・タウンでもあるフィラデルフィアのレーベルだけに、こうしたジャズにも力を入れていたのだ。ディスク7にはフィリス・ハイマンの没後に出された91年録音のラテン・タッチなアップ・チューン“Forever With You”も収録。ここでのジャジーで優雅なグランドピアノのプレイは、当時PIRで修業中だったジェイムズ・ポイザーだったりします。

他にも、何となくレア・グルーヴな選曲のディスク6、ステッパーズとして好まれる曲を集めたディスク8(スタイリスティックスの“Mine All Mine”とか!)あたりが個人的にはツボ。シャーリー・ジョーンズやフィリス・ハイマン、デルズなど、80年代中期以降の曲が多く並ぶディスク10もいいかな。正規では初公開となるジョーンズ・ガールズの美麗なミディアム“Baby Don't Go Yet”も入っている。デルズは92年にZOO配給のPIRから出したアルバム『I Salute You』の曲を収録。デルズといえば、PIR設立当初ギャンブル&ハフが獲得しようとするも叶わなかったグループ。代わりに連れてきたのが、デルズのマーヴィン・ジュニアに似たバリトン・ヴォイスのテディ・ペンダーグラスを擁するハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツだったというのはよく知られた話。それが20年近くを経てデルズ獲得となったわけで、このボックスでは、そんなPIR/ギャンブル&ハフのストーリーを通して見ることもできる。ちなみにデルズは70年代のPIRではレコードを作らなかったが、77年にマーキュリーからノーマン・ハリスらのバックアップによるシグマ録音のアルバムを2枚発表。それらは最近、デイヴィッド・ネイザンが主宰するイギリスのSoulmusic.comからボーナス・トラック付きで再発された(これも良いです)。

楽曲ごとの解説、品番つきのディスコグラフィーを掲載した50ページ以上に及ぶブックレットも力作。これだけでも十分価値がある。そして、箔押しというかデボス加工されたPIRのレーベルロゴが金に輝くシックな黒地のボックス。どこかの高級ブランドみたいな箱で…PIRの音楽は金持ちに向けたようなものじゃないけど、40周年記念ってことで、これくらい豪華でもいいでしょう。今やPIRというレーベル自体がブランドですし。僕が言うこともないけど、ブラック・ミュージック愛好家はマスト!って感じで興奮しすぎたのか、以前予約していたのを忘れて某ネット・ショップで再び購入ボタンを押してしまったようで…ウチには2箱あります(笑)。まあ、これくらいよく出来た箱なら2つ持っててもいいか。今後はPIR以外の、アトランティックやブッダとかに残されたフィリー録音曲を集めたボックスも期待したいところ。いつか自分で作ってみたいなぁ。



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