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2012年05月

Chuck Brown / We Got This

Chuckまたまた間が空いてしまった。特に誰から待たれているわけでもないので言い訳する必要もないのだけど、いろいろ原稿を書いているとブログまで手が(気が)回らない。せいぜい息抜きでTwitterやFacebookに書き込むくらい。新譜・再発、ミックステープのほか、エリック・ベネイやアース・ウィンド&ファイアなどの来日公演についても、せっかくブログやってるんだから書いておきたいのですが…。そんな感じでストレスが増していくなか、この5月には、MGズのドナルド“ダック”ダンが来日公演を終えた後に滞在先のホテルで息を引き取り、ベリータ・ウッズ(元ブレインストーム~晩年はPファンク一派)、チャック・ブラウン、ドナ・サマーまでもが亡くなるという、ソウル/R&Bファンにとっては悲しい知らせが続いた。あと、ビージーズのロビン・ギブも。著名人の死に対して身内でもない部外者が必要以上に騒ぐのもなぁ…と思いつつも、やはりこうも訃報が続くと気が落ちる…。

で、その中で個人的に最も思い入れがあったのがチャック・ブラウン。言わずと知れた、ワシントンDCが誇るローカル黒人音楽=ゴーゴーの生みの親。少し前に肺炎で入院したというニュースが入ってきて心配だなぁと思っていたところ、5月16日に亡くなってしまった。死因は敗血症おける多臓器不全などとされる。76(or77)歳だった。76歳他界説が正しいようだが、2007年8月号のbmr誌で(おそらく日本の音楽雑誌では最後の)インタヴューをやらせてもらった時、本人が「30年後には102歳か」(つまり当時72歳。73歳になる直前)と冗談めかして言っていたので、それを信じるなら77歳となる。本人の記憶違いも大いにあり得るが。いずれにしても高齢。でも、近年の来日公演では元気にプレイしていただけに、まさか…という感じではあった。

僕がゴーゴー及びチャック・ブラウンに興味を持ったのは80年代後半。世代的なこともあって、最初は“ニュー・ジャック・スウィングに影響を与えた音楽”として聴き始めたように思う。スパイク・リーの映画『School Daze』(88年)のテーマ曲だったE.U.の“Da Butt”のヒットもデカかった。なので、チャック率いるソウル・サーチャーズの“Bustin' Loose”(78年)なんかは完全に後追い。そんなわけで自分などは真のチャック・ファンとは言えないのかもしれないけど…あれから20年近くが経ち、チャックがチャッキー・トンプソン(メアリー・J・ブライジ等でお馴染みの、DCエリア出身のR&B/ヒップホップ・プロデューサー)と組んで『We're About The Business』(2007年)というアルバムを出した時、ラヒーム・デヴォーンなどDCの新世代アーティストをゲストに招いていたこともあって、僕の中でいろいろなものが繋がった。そこで、半ば無理やりな感じで企画を持ち込んでbmr誌で実現させたのが「ワシントンDC特集(2007年8~9月号)」。先に触れたチャックのインタヴューもそこでのものだ。その3年後にはDCに取材旅行に行くことになるのだが…これ関しては、雑誌に記事が掲載されているので、諸々許可をとって何かの機会にまとめられればと思ってます。

で、ゴーゴー(チャック・ブラウン)といえば、やっぱりライヴを観なきゃ始まらないわけで…と断言するのもナンですが、チャックのレコードにライヴ盤が多いのも、つまりそういうことなんでしょう。チャックのギター・カッティングやパーカッションがチャカポコ鳴るスウィング・ビートでグルーヴを持続していく独特のノリ。あのヘタウマで人懐っこいダミ声。祭りの法被(はっぴ)が似合いそうなチャック爺の雰囲気も含めて“DC版の盆踊り”という感じがしなくもないそれは、本当は地元DCのクラブで観られれば最高なんだろうけど、2008年と2010年にはビルボードライブ東京で来日公演をやってくれたので、迷うことなく参戦。まあ、本来は3時間ぐらいぶっ通しでやっちゃうゴーゴーだから、ワン・ステージ1時間半程度というのは観る側も演る側も不完全燃焼という気もしたけど、今となっては呼んでくれただけでありがたい。僕も大好きなお約束のメドレーも健在だった。2010年にはそんな近年のパフォーマンスを収めたスタジオ録音の新曲含むCD+DVDセット『We Got This』をリリース。結局これが最後のアルバムになってしまったわけですが。ちなみにこれは2010年5月に46歳の若さで亡くなったリトル・ベニー(元レア・エッセンス)に捧げられた作品でもありました。彼は2008年のチャックの来日公演にも同行していたんですよね…。

DCの名門クラブ「9:30 Club」でのステージを収録した同ライヴ盤では、来日公演でも演っていたビヨンセ“Single Ladies(Put A Ring On It)”のカヴァーも披露。これを歌うのは女性キーボーディストのスウィート・シェリー・ブラウンさん(この人は以前ナイル・ロジャーズ&シックのツアーにも同行)。僕、この人、好きなんです。で、ビヨンセといえば、彼女が歌った“Crazy In Love”はDC出身のリッチ・ハリソンがゴーゴーを意識して作った曲として知られているけど、もしかしたら先の“Single Ladies”のカヴァーはそんなビヨンセに対してのチャック側からのお返しだったのかも。またビヨンセ自身もゴーゴーに憧れていたようで…ちょうどチャックの訃報が届いた朝、一夜限りの日本公演のため来日していたEW&Fに取材を行ったのだが、そこでヴァーディン・ホワイトはこう話してくれた。「ビヨンセがゴーゴーに大きな影響を受けていた。なにしろ彼女はチャックやジュジュのプレイを生で聴くためにワシントンDCのクラブまで行っていたほどで…そうした意味でもチャックは特別な存在だったんだ」と。

スタジオ録音盤には、レディシ、ジル・スコット、マーカス・ミラーとの共演含む5曲の新曲を収録。なかでもジル・スコットとマーカス・ミラーを招いた“LOVE”という曲が興味深く…というのも、ジルは自身でも“It's Love”というゴーゴー・スタイルの曲を歌っており、それをライヴでも定番にしているのだが、ジルのライヴでは同曲でチャックが飛び入りすることもあったようで、どうやらそれが縁で新曲“LOVE”で共演した模様。DCに近いフィラデルフィアのアーティストはゴーゴーに対する愛着がかなりあるようで、キンドレッド・ザ・ファミリー・ソウル(奥さんのエイジャはDC出身)も昨年出した新作『Love Has No Recession』でチャックとDJクールを招いた“Going To The Go Go”なんていう直球のゴーゴー曲を披露していた(ヴィデオにはヤーザラーやW・エリントン・フェルトンらのDC勢がカメオ出演!)。もしかしたら、チャックにとってはこれが最後の客演仕事だったのかもしれない。

ミュージシャンの訃報が相次ぐ今日この頃。不謹慎かもしれないけど、特に高齢のミュージシャンに関しては「これが最後」と思って、できるだけライヴには足を運ぶべきだという思いを改めて強くしている。いや、ミュージシャンがどうのと言う以前に、自分だって急にポックリ逝くかもしれないわけで…と、高血圧の僕は思うのだった。チャック爺さん、安らかに。



soul_ringosoul_ringo  at 15:44トラックバック(0) この記事をクリップ! 

The Alexander Green Project - Kaimbr & Kev Brown

Alex Green気がつけばGW(ゴールデン・ウィーク)も、もう終わり。ありがたいことに今年も僕はGolden Workでした。急遽来日が決まった某大御所グループのパンフ原稿の執筆などで自宅カンヅメ状態。ノンキにブログ書いてる場合じゃないですよ…というメールに怯えつつ、ひっそりと更新します(笑)。取り上げたい新譜・再発も溜まる一方で…でもライナーノーツや雑誌でレヴューを担当したものは発売/発行される前にここで書いちゃうのもアレなので、それらを避けて、今回はちょいと変化球で。

ご存知の方もいると思うが、この4月からウルトラ・ヴァイヴでハイ・レコーズの再発プロジェクトが始まった。9月までハイの名盤・珍盤を毎月10タイトルずつ最新デジタル・リマスタリングでリイシューしていくシリーズで、監修は、お馴染み鈴木啓志さん。当初はライナーも全て鈴木さんの予定だったらしいのだが、光栄にも僕のところにヘルプ要請がきたので、うち数枚を担当することに(鈴木さんファンの方、ゴメンなさい)。現在のところ5月・6月発売分のアル・グリーン(『Gets Next To You』『I'm Still In Love With You』)とアン・ピーブルズ(『Part Time Love』『I Can't Stand The Rain』)の計4枚を僕が書くことになった。で、改めてそれらを聴き直すと、同じハイ(・リズム)の音でも1~2年の差で随分違うなぁと感じたり。71年頃まではソリッドでファンキー、72年以降はニュー・ソウルの影響もあってか丸みを帯びてレイドバックした音になる。これも全てはプロデューサーのウィリー・ミッチェルの仕業。

で、ハイの作品といえば、ヒップホップやR&Bの曲で頻繁にネタ使いされていることでも有名。“I'm Glad You're Mine”はブレイクビーツの定番で…なんて話はヒップホップ・リスナーにとっては耳タコでしょう。そういえば、クエストラヴらがバックアップしたアルの2008年作『Lay It Down』は、ヒップホップ(DJ)的視点で過去の楽曲を見つめ直して演奏することで、当時のミュージシャンが往年のハイ・サウンドを再現するよりもリアルにハイの音が再現されたアルバムとなっていた。一方、シンガーとしてのアル・グリーンもマーヴィン・ゲイやスティーヴィ・ワンダーなどと同じく常にオマージュを捧げられる対象になっていて、あの甘く官能的な歌声を真似てみせる人も多い。なにしろオバマ大統領までもがアポロ・シアターでの演説中に“Let's Stay Together”のワンフレーズを歌っちゃったくらいで。…と、そんなことを思い出しながらライナーを書いていたんだけど、そこで取り出して聴き直したのが、ちょうど1年くらい前にリリースされて購入していたアレクサンダー・グリーン・プロジェクトなるアルバム。

首謀者は、東海岸ヒップホップの良心とでも言うべきメリーランドのビート・メイカー:ケヴ・ブラウンと同郷のMC:ケインバー。以前ジャジー・ジェフのア・タッチ・オブ・ジャズに籍を置いていたケヴ・ブラウンは、ロウ・バジェット・クルー(DMV=DC、Maryland、Virginia地区のアングラ・シーンを代表するミュージック・コレクティヴ)の中心的存在で、ラヒーム・デヴォーン周辺とも繋がりがあるのでR&Bファンにもお馴染みだと思う。そんなケヴが、ケインバーのほか、ケン・スターやサイ・ヤング、クオーターメインといったロウ・バジェット仲間のMCを集めて作ったのが、このアレクサンダー・グリーン・プロジェクトなのだが…『I'm Still In Love With You』のパロディみたいなジャケ、そこに書かれたAl(exander) Greenという文字にピンときた方、ハイ、正解です。このアルバム、全編アル・グリーン曲をサンプリングしてビートを編んだアル・グリーン愛溢れまくりの趣味趣味盤なのだ。ケヴらしいチョップの仕方でネタ(ヴォーカル、リズム、ホーンなど)を刻んでタイトなビートに仕上げているのだが、さすが、トラックのひとつひとつがいちいち生々しくソウルフル。表現形態としてはヒップホップということになるんだろうけど、僕みたいなR&B好きの聴き手からしたら、そこに乗るのがラップでも、これはもうソウルです。今やネタがどうの…という時代ではないのかもしれないけど、やっぱりこういうのはたまりません。

ちなみに、僕は買ってないけど、このアナログはグリーン(緑色)のカラー・ヴァイナルなんだとか。凝ってますね~。ジャケ写はロディ・ロッド、マスターはK・マードックと、制作スタッフもロウ・バジェット一派。さすが“低予算クルー”(笑)。でも、質はハイ・クオリティ。最近音盤化されたケヴ・ブラウンのリーダー作『Random Joints』も、ラヒーム・デヴォーンやZo!、ビラル・サラームらが参加したハイ・クオリティなアルバムだった(ホントはこっちを紹介するべきだったのかも)。

やや自慢っぽくなるが、ハイといえば、2007年にメンフィスのロイヤル・レコーディング・スタジオを突撃訪問したことがある。今は亡きウィリー・ミッチェル御大に会い、スタジオ見学もさせてもらったのだが、この話はいつかまとめてみたいと思います。



soul_ringosoul_ringo  at 04:53トラックバック(0) この記事をクリップ!