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2012年04月

Earl Van Dyke / The Motown Sound~The Complete Albums & More

EVD最近の新譜やライヴをネタにすると女性アーティストばかりになりそうだったので、ここらでリイシューものを。60年代モータウンのサウンドを支えたファンク・ブラザーズのオルガン/キーボード奏者、アール・ヴァン・ダイクがモータウンに残した音源のコンプリート集。モータウン作品のリイシュー/発掘で気を吐くHip-O Selectからのリリースだ。

ファンク・ブラザーズといえばベーシストのジェイムズ・ジェマーソンの名前が真っ先に挙がるけど、ジェマーソンと並ぶグルーヴ・マスターと言えば、個人的にはこのアール・ヴァン・ダイクを思い浮かべる。ただしファンク・ブラザーズ、60年代にテンプテーションズ、スプリームス、マーヴィン・ゲイ、フォー・トップスなどの曲でバック演奏を担当していたにもかかわらず、当時はその存在がほとんど知られていなかった。いや、今も熱心な音楽ファン以外にはあまり知られていない。ファンク・ブラザーズにスポットを当てた映画『永遠のモータウン』の冒頭で、レコード屋にいるお客さんにモータウンの曲で演奏していた人たちについて訊いてみても誰も知らないっていうシーンがあったけど、たぶん今もあんな感じでしょう。それもそのはず、60年代には彼ら演奏者の名前がレコードにクレジットされず、マーヴィン・ゲイの『What's Going On』(71年)で初めてその名が記されたのだから無理もない。当時は公にはファンク・ブラザーズとも呼ばれていなかった(2004年のベストCDで初めてその名義が使われた)。同じハコバンでもスタックスのブッカー・T&ザ・MGズがバンド名義でレコードを出していたのとは大違いですね。

けれどモータウンも、数々のヒット曲に貢献した演奏者たちのプライドを損ねないように(?)、リーダ-的な存在のアールを中心とした、実質ファンク・ブラザーズによるアルバム/シングルをリリース。ひとつは65年にアール・ヴァン・ダイク&ザ・ソウル・ブラザーズ名義で出した『That Motown Sound』。プロデュースは、ミッキー・スティーヴンソン、ヘンリー・コスビー、ハーヴェイ・フークアで、タイトルが示すように、当時のモータウン名曲のオケを収録したものだ。ヴォーカル・パートがない代わりに、アールのグルーヴィーなオルガンが主旋律を奏でるのだが、よく言われるように彼のプレイって大胆で攻撃的、そしてクドい(笑)。もっとも、モータウンのスターたちによって歌われたヴァージョンでは、アールの鍵盤もそれほどうるさくないけれど。

もうひとつは70年にアール・ヴァン・ダイク名義でリリースした『The Earl Of Funk』。70年1月にデトロイトで行ったライヴをパッケージしたこちらは、スライ、ミーターズ、ベン・E・キング、トニー・ジョー・ホワイトなどの非モータウン曲やアルバム用のオリジナルも交えた、ある種ニュー・ソウル的な選曲。Chunk Of Funkというニックネームがついていた彼らしい、まさに“ファンクの塊”とでもいったプレイが聴けるアルバムで、アールのリーダー作だが、バックはジェイムス・ジェマーソン(b)やロバート・ホワイト(g)らが務めるってことで、これもファンク・ブラザーズの作品と言って差し支えない。今回のCD(2枚組)は、その2枚のアルバムに、シングル・オンリー曲や未発表曲、ライヴ音源を加えた完全盤というわけだ。とりわけ、Disc 2に収録されたジェイムズ・ジェマーソン名義の図太くファンキーな3曲(レア&未発表)は圧巻。

70年代に本社が西海岸に移転するとミュージシャンもバラバラになるが、60年代には「ヒッツビルUSA」と言われたデトロイトのモータウン本社のスタジオ・Aを根城に数々の名演を生み出したファンク・ブラザーズ。狭い部屋ゆえにスネイクピット(蛇の穴)と呼ばれたスタジオ・Aは、現在はモータウン博物館となっている旧本社社屋に当時のまま残っていて、見学者はスタジオに立つこともできる。僕も2008年の夏に初めて訪れたけど、まあ、ソウル好きなら確実に興奮します。

かなり強引かもだけど…デトロイトの鍵盤奏者ということで、アールのスピリットって、ドウェレやアンプ・フィドラー、ケムなんかにも受け継がれているのかな、とも思ったり。あと、ファンクなビート感覚ってことではデトロイト出身の故J・ディラにも通じていたり、とか。直接影響を受けていなくても間接的には繋がっているはず、と僕は思っている、というか思いたいです。



soul_ringosoul_ringo  at 21:48トラックバック(0) この記事をクリップ! 

Esperanza Spalding / Radio Music Society

Esperanzaやっぱり放置か…と思われているかもしれませんが(苦笑)。普段原稿を書く仕事をしていると(他の仕事でも)、ブログとはいえ、新たに文章を書くというのは結構大変なことですね。より気軽に書き込めるTwitterやFacebookに流れてしまう気持ちがよくわかりました。でも、取り上げたいアルバム(ここ1ヵ月くらいの新譜、及び再発のニュー・リリース)は既に30枚を超えているので、空いた時間に更新していきます。

今回は、昨年のグラミー賞で大方の予想を裏切って(?)新人賞を獲得した女流ジャズ・ベーシスト、エスペランサ・スポルディングの最新作。通算4作目。当初は前作『Chamber Music Society』とのダブル仕様を予定していたそうで、クラシックの室内楽(Chamber Music)をモチーフにした前作と対になるラジオ向き(Radio Music)なポップスを目指したのが今回の新作なのだそう。“ポップス”と言うと勘違いされるかもしれないけど、まあ、ストレートなジャズの作法からハミ出して、ジャズをストリートに連れ出した…みたいに考えるとわかりやすいかな。なにしろ今回はQ・ティップがコ・プロデュースした曲もありますし。

ウェイン・ショーター“Endangered Species”のカヴァーなんかを聴いていて思ったのは、今回のアルバム、音的にはスティーリー・ダンの『Aja』(ウェイン・ショーターも参加)とかに近い。ジャズ・ポップスというか。で、エスペランサのヴォーカル。エレガントに歌われたマイケル・ジャクソン“I Can't Help It”のカヴァーとかを聴いていると、これはもうジャズというより、単純に上質なソウル・ヴォーカル・アルバムと言った方がよさそうですね。透明感のあるキュートでハートウォーミングな歌声は、ジャズとソウル/ポップスを股にかけたという点も含めてパトリース・ラッシェン(彼女は鍵盤奏者だが)に似てるかな、とも。一部では、先に出たロバート・グラスパーの新作などと一緒に、ニコラス・ペイトンが提唱するBAM(Black American Music)ムーヴメントの一環で…とか俄かに言われ始めているけど、3月上旬にプロモーション来日した時の彼女の口ぶりからすると、そんな小難しいこと考えてないような印象を受けたし、個人的には、BAMがどうのなんて思いながら聴くのはしんどい。もっとも、アルジェブラ(・ブレセット)と共演した先行曲“Black Gold”は「奴隷制度前の私たちのアフリカン・アメリカンとしての伝統を歌った」というアフロ賛美的な曲だったりと、メッセージ色の強い作品でもあったりするのだけど。

ところで今回の新作、通常盤とDVD付きのデラックス盤がある。もちろん(?)僕が買ったのはデラックス盤(ジャケの地色が紺色)の方。で、そのDVDの中身というのが、先に公開されていた“Black Gold”を含む、アルバム本編に収録された12曲中11曲分のミュージック・ヴィデオで、それらがストーリー性をもって切れ目なく展開されていくという60分超の映画(風)になっているのだ。NYや、故郷のオレゴン州ポートランドなどで撮影されたそれは、曲によってはシリアスな描写もあるが、何だか無性にNYに行きたくなるようなハイセンスな映像&ストーリーで、アルバムの曲をより楽しむなら、こちらのデラックス盤を猛烈におススメしたい。

ちなみに今作でドラムを叩いているのは、女流ジャズ・ドラマーのテリ・リン・キャリントンだが、エスペランサも参加したテリのリーダー作をはじめ、先に名前を挙げたニコラス・ペイトン、ロバート・グラスパー、今度出るジェフ・ブラッドショウの新作、あとグレゴリー・ポーターなんかも含めて、ここ最近R&B脳で聴きたいジャズ作品が増えていて、こういうのをR&B視点で語るメディアが欲しいなぁ…などと思ったり。そういや、今作の1曲目“Radio Song”では、一部で“ネクスト・ディアンジェロ”なんて呼ばれてもいるクリス・ターナーがバックで歌っているんだけど、彼が最近Bandcampにアップしたミックステープ『The Monk Tape』もジャズ盤だった。



soul_ringosoul_ringo  at 16:54トラックバック(0) この記事をクリップ!