Chuck Brown / We Got This

Chuckまたまた間が空いてしまった。特に誰から待たれているわけでもないので言い訳する必要もないのだけど、いろいろ原稿を書いているとブログまで手が(気が)回らない。せいぜい息抜きでTwitterやFacebookに書き込むくらい。新譜・再発、ミックステープのほか、エリック・ベネイやアース・ウィンド&ファイアなどの来日公演についても、せっかくブログやってるんだから書いておきたいのですが…。そんな感じでストレスが増していくなか、この5月には、MGズのドナルド“ダック”ダンが来日公演を終えた後に滞在先のホテルで息を引き取り、ベリータ・ウッズ(元ブレインストーム~晩年はPファンク一派)、チャック・ブラウン、ドナ・サマーまでもが亡くなるという、ソウル/R&Bファンにとっては悲しい知らせが続いた。あと、ビージーズのロビン・ギブも。著名人の死に対して身内でもない部外者が必要以上に騒ぐのもなぁ…と思いつつも、やはりこうも訃報が続くと気が落ちる…。

で、その中で個人的に最も思い入れがあったのがチャック・ブラウン。言わずと知れた、ワシントンDCが誇るローカル黒人音楽=ゴーゴーの生みの親。少し前に肺炎で入院したというニュースが入ってきて心配だなぁと思っていたところ、5月16日に亡くなってしまった。死因は敗血症おける多臓器不全などとされる。76(or77)歳だった。76歳他界説が正しいようだが、2007年8月号のbmr誌で(おそらく日本の音楽雑誌では最後の)インタヴューをやらせてもらった時、本人が「30年後には102歳か」(つまり当時72歳。73歳になる直前)と冗談めかして言っていたので、それを信じるなら77歳となる。本人の記憶違いも大いにあり得るが。いずれにしても高齢。でも、近年の来日公演では元気にプレイしていただけに、まさか…という感じではあった。

僕がゴーゴー及びチャック・ブラウンに興味を持ったのは80年代後半。世代的なこともあって、最初は“ニュー・ジャック・スウィングに影響を与えた音楽”として聴き始めたように思う。スパイク・リーの映画『School Daze』(88年)のテーマ曲だったE.U.の“Da Butt”のヒットもデカかった。なので、チャック率いるソウル・サーチャーズの“Bustin' Loose”(78年)なんかは完全に後追い。そんなわけで自分などは真のチャック・ファンとは言えないのかもしれないけど…あれから20年近くが経ち、チャックがチャッキー・トンプソン(メアリー・J・ブライジ等でお馴染みの、DCエリア出身のR&B/ヒップホップ・プロデューサー)と組んで『We're About The Business』(2007年)というアルバムを出した時、ラヒーム・デヴォーンなどDCの新世代アーティストをゲストに招いていたこともあって、僕の中でいろいろなものが繋がった。そこで、半ば無理やりな感じで企画を持ち込んでbmr誌で実現させたのが「ワシントンDC特集(2007年8~9月号)」。先に触れたチャックのインタヴューもそこでのものだ。その3年後にはDCに取材旅行に行くことになるのだが…これ関しては、雑誌に記事が掲載されているので、諸々許可をとって何かの機会にまとめられればと思ってます。

で、ゴーゴー(チャック・ブラウン)といえば、やっぱりライヴを観なきゃ始まらないわけで…と断言するのもナンですが、チャックのレコードにライヴ盤が多いのも、つまりそういうことなんでしょう。チャックのギター・カッティングやパーカッションがチャカポコ鳴るスウィング・ビートでグルーヴを持続していく独特のノリ。あのヘタウマで人懐っこいダミ声。祭りの法被(はっぴ)が似合いそうなチャック爺の雰囲気も含めて“DC版の盆踊り”という感じがしなくもないそれは、本当は地元DCのクラブで観られれば最高なんだろうけど、2008年と2010年にはビルボードライブ東京で来日公演をやってくれたので、迷うことなく参戦。まあ、本来は3時間ぐらいぶっ通しでやっちゃうゴーゴーだから、ワン・ステージ1時間半程度というのは観る側も演る側も不完全燃焼という気もしたけど、今となっては呼んでくれただけでありがたい。僕も大好きなお約束のメドレーも健在だった。2010年にはそんな近年のパフォーマンスを収めたスタジオ録音の新曲含むCD+DVDセット『We Got This』をリリース。結局これが最後のアルバムになってしまったわけですが。ちなみにこれは2010年5月に46歳の若さで亡くなったリトル・ベニー(元レア・エッセンス)に捧げられた作品でもありました。彼は2008年のチャックの来日公演にも同行していたんですよね…。

DCの名門クラブ「9:30 Club」でのステージを収録した同ライヴ盤では、来日公演でも演っていたビヨンセ“Single Ladies(Put A Ring On It)”のカヴァーも披露。これを歌うのは女性キーボーディストのスウィート・シェリー・ブラウンさん(この人は以前ナイル・ロジャーズ&シックのツアーにも同行)。僕、この人、好きなんです。で、ビヨンセといえば、彼女が歌った“Crazy In Love”はDC出身のリッチ・ハリソンがゴーゴーを意識して作った曲として知られているけど、もしかしたら先の“Single Ladies”のカヴァーはそんなビヨンセに対してのチャック側からのお返しだったのかも。またビヨンセ自身もゴーゴーに憧れていたようで…ちょうどチャックの訃報が届いた朝、一夜限りの日本公演のため来日していたEW&Fに取材を行ったのだが、そこでヴァーディン・ホワイトはこう話してくれた。「ビヨンセがゴーゴーに大きな影響を受けていた。なにしろ彼女はチャックやジュジュのプレイを生で聴くためにワシントンDCのクラブまで行っていたほどで…そうした意味でもチャックは特別な存在だったんだ」と。

スタジオ録音盤には、レディシ、ジル・スコット、マーカス・ミラーとの共演含む5曲の新曲を収録。なかでもジル・スコットとマーカス・ミラーを招いた“LOVE”という曲が興味深く…というのも、ジルは自身でも“It's Love”というゴーゴー・スタイルの曲を歌っており、それをライヴでも定番にしているのだが、ジルのライヴでは同曲でチャックが飛び入りすることもあったようで、どうやらそれが縁で新曲“LOVE”で共演した模様。DCに近いフィラデルフィアのアーティストはゴーゴーに対する愛着がかなりあるようで、キンドレッド・ザ・ファミリー・ソウル(奥さんのエイジャはDC出身)も昨年出した新作『Love Has No Recession』でチャックとDJクールを招いた“Going To The Go Go”なんていう直球のゴーゴー曲を披露していた(ヴィデオにはヤーザラーやW・エリントン・フェルトンらのDC勢がカメオ出演!)。もしかしたら、チャックにとってはこれが最後の客演仕事だったのかもしれない。

ミュージシャンの訃報が相次ぐ今日この頃。不謹慎かもしれないけど、特に高齢のミュージシャンに関しては「これが最後」と思って、できるだけライヴには足を運ぶべきだという思いを改めて強くしている。いや、ミュージシャンがどうのと言う以前に、自分だって急にポックリ逝くかもしれないわけで…と、高血圧の僕は思うのだった。チャック爺さん、安らかに。



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The Alexander Green Project - Kaimbr & Kev Brown

Alex Green気がつけばGW(ゴールデン・ウィーク)も、もう終わり。ありがたいことに今年も僕はGolden Workでした。急遽来日が決まった某大御所グループのパンフ原稿の執筆などで自宅カンヅメ状態。ノンキにブログ書いてる場合じゃないですよ…というメールに怯えつつ、ひっそりと更新します(笑)。取り上げたい新譜・再発も溜まる一方で…でもライナーノーツや雑誌でレヴューを担当したものは発売/発行される前にここで書いちゃうのもアレなので、それらを避けて、今回はちょいと変化球で。

ご存知の方もいると思うが、この4月からウルトラ・ヴァイヴでハイ・レコーズの再発プロジェクトが始まった。9月までハイの名盤・珍盤を毎月10タイトルずつ最新デジタル・リマスタリングでリイシューしていくシリーズで、監修は、お馴染み鈴木啓志さん。当初はライナーも全て鈴木さんの予定だったらしいのだが、光栄にも僕のところにヘルプ要請がきたので、うち数枚を担当することに(鈴木さんファンの方、ゴメンなさい)。現在のところ5月・6月発売分のアル・グリーン(『Gets Next To You』『I'm Still In Love With You』)とアン・ピーブルズ(『Part Time Love』『I Can't Stand The Rain』)の計4枚を僕が書くことになった。で、改めてそれらを聴き直すと、同じハイ(・リズム)の音でも1~2年の差で随分違うなぁと感じたり。71年頃まではソリッドでファンキー、72年以降はニュー・ソウルの影響もあってか丸みを帯びてレイドバックした音になる。これも全てはプロデューサーのウィリー・ミッチェルの仕業。

で、ハイの作品といえば、ヒップホップやR&Bの曲で頻繁にネタ使いされていることでも有名。“I'm Glad You're Mine”はブレイクビーツの定番で…なんて話はヒップホップ・リスナーにとっては耳タコでしょう。そういえば、クエストラヴらがバックアップしたアルの2008年作『Lay It Down』は、ヒップホップ(DJ)的視点で過去の楽曲を見つめ直して演奏することで、当時のミュージシャンが往年のハイ・サウンドを再現するよりもリアルにハイの音が再現されたアルバムとなっていた。一方、シンガーとしてのアル・グリーンもマーヴィン・ゲイやスティーヴィ・ワンダーなどと同じく常にオマージュを捧げられる対象になっていて、あの甘く官能的な歌声を真似てみせる人も多い。なにしろオバマ大統領までもがアポロ・シアターでの演説中に“Let's Stay Together”のワンフレーズを歌っちゃったくらいで。…と、そんなことを思い出しながらライナーを書いていたんだけど、そこで取り出して聴き直したのが、ちょうど1年くらい前にリリースされて購入していたアレクサンダー・グリーン・プロジェクトなるアルバム。

首謀者は、東海岸ヒップホップの良心とでも言うべきメリーランドのビート・メイカー:ケヴ・ブラウンと同郷のMC:ケインバー。以前ジャジー・ジェフのア・タッチ・オブ・ジャズに籍を置いていたケヴ・ブラウンは、ロウ・バジェット・クルー(DMV=DC、Maryland、Virginia地区のアングラ・シーンを代表するミュージック・コレクティヴ)の中心的存在で、ラヒーム・デヴォーン周辺とも繋がりがあるのでR&Bファンにもお馴染みだと思う。そんなケヴが、ケインバーのほか、ケン・スターやサイ・ヤング、クオーターメインといったロウ・バジェット仲間のMCを集めて作ったのが、このアレクサンダー・グリーン・プロジェクトなのだが…『I'm Still In Love With You』のパロディみたいなジャケ、そこに書かれたAl(exander) Greenという文字にピンときた方、ハイ、正解です。このアルバム、全編アル・グリーン曲をサンプリングしてビートを編んだアル・グリーン愛溢れまくりの趣味趣味盤なのだ。ケヴらしいチョップの仕方でネタ(ヴォーカル、リズム、ホーンなど)を刻んでタイトなビートに仕上げているのだが、さすが、トラックのひとつひとつがいちいち生々しくソウルフル。表現形態としてはヒップホップということになるんだろうけど、僕みたいなR&B好きの聴き手からしたら、そこに乗るのがラップでも、これはもうソウルです。今やネタがどうの…という時代ではないのかもしれないけど、やっぱりこういうのはたまりません。

ちなみに、僕は買ってないけど、このアナログはグリーン(緑色)のカラー・ヴァイナルなんだとか。凝ってますね~。ジャケ写はロディ・ロッド、マスターはK・マードックと、制作スタッフもロウ・バジェット一派。さすが“低予算クルー”(笑)。でも、質はハイ・クオリティ。最近音盤化されたケヴ・ブラウンのリーダー作『Random Joints』も、ラヒーム・デヴォーンやZo!、ビラル・サラームらが参加したハイ・クオリティなアルバムだった(ホントはこっちを紹介するべきだったのかも)。

やや自慢っぽくなるが、ハイといえば、2007年にメンフィスのロイヤル・レコーディング・スタジオを突撃訪問したことがある。今は亡きウィリー・ミッチェル御大に会い、スタジオ見学もさせてもらったのだが、この話はいつかまとめてみたいと思います。



soul_ringosoul_ringo  at 04:53  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! Hip Hop  

K'Jon / Moving On

K'JON久々に男性ソロ・シンガーで。エリック・べネイの新作も話題だけど、エリックに関しては最新号のbounceに記事を書いたので、5月の来日公演後にライヴ・リポートとあわせて改めて。というわけで、今回はシャナキーからリリースされたK・ジョンの新作を。2009年にユニヴァーサル・リパブリックの配給で発売された初のメジャー・アルバム『I Get Around』は日本盤が出なかったのに、今回はヴィヴィドから日本盤(輸入盤国内仕様)が初登場! ライナーノーツは自分です…と自分で書くのも何だかなぁという感じですが、これまで日本の紙メディアでほとんど無視されてきた才能を放っておけん!という勝手な使命感から、ここでもちょっと書いておきます。

K・ジョンはデトロイトのR&Bシンガー。“On The Ocean”の人と言えば通じるか? もの憂げだが芯のあるテナー・ヴォイスが特長となるシンガーで、僕が彼の音楽を聴いたのは、今も本人が運営している自主レーベルUp&Upから出されたセカンド『The Ballroom Xplosion』(2007年)が初めて。デフ・ジャム・サウス発のサントラ『2 Fast 2 Furious』(2003年)でR・ケリーを意識したようなミッド・バウンス“Miami”を披露していたとか、シャリーファの2006年作『Point Of No Return』で曲を書いていたなんてことは後から知った。しかも、現在までに3枚のミックスCDも出していた…なんてことも、実は最近知ったことだったりして(恥)。

『The Ballroom Xplosion』に興味を持ったのは、アルバムがステッパーズをテーマにしたものだったから。地元の大先輩であるドラマティックスの曲を大ネタ使いした“Feels Like Love”とか本当によく聴いたけど、このアルバムというのが、その数年前にシカゴ・ステッパーズをリヴァイヴァルさせたR・ケリーに対抗したような内容でして。K・ジョンはデトロイト版のステッパーズである“(デトロイト・)ボールルーム”を謳ってレペゼン・デトロイトをしていたわけ。シカゴ・ステッパーズもデトロイト・ボールルームも、ともに中西部の黒人コミュニティにおけるフォーク・ダンス(・カルチャー)の一種。だけど、踊り方や使用曲は微妙に違うようで、こんな比較映像もあったりするのだが、何がどう違うのかはダンスの専門家じゃない僕にはよくわからない。

その『The Ballroom Xplosion』に収録され、中西部一帯でジワジワと人気を集めて全国ヒットとなったのが“On The Ocean”というスロウなステッパーズ/ボールルーム・ソングだった。これはメジャー移籍作『I Get Around』にも再収録され、何とビルボードの「R&B/Hip Hop Songs」に75週チャートインという驚異的な記録も打ち立てた。レコード・リサーチ社が出しているコレでは、集計途中ということもあってか73週チャートイン(00年代において3番目に長くチャートイン)したことになっているのだけど、最終的には1位のメアリー・J・ブライジ“Be Without You”(75週)と並び、男性R&Bシンガーでは90年代のアッシャー“You Make Me Wanna…”(71週)を抜いて史上最長チャートイン記録保持者となってしまった。数年前、日本ではネクストNe-Yoな美メロ王子たちが大人気だった頃に、本国ではこんなに粋で大人なR&Bが流行っていたわけです(笑)。また、この“On The Ocean”をキッカケにステッパーズ熱も再燃してきている模様。L.J.レイノルズの“Come Get To This / Stepping Out Tonight”なんかも、これに刺激されたのかな?と思ったり。

そんなわけで新作は、大雑把に言うと、前半がメインストリームR&Bサイド、後半がステッピン・サイドという二部構成。プロデュースはK・ジョン本人と、デトロイト、NY、アトランタ、マイアミの新鋭~中堅クリエイターで、Daheartmizerことマーカス・デヴァインやNeff-Uことセロン・フィームスターも関与。地元デトロイトのラッパーなども客演している。前作収録曲の続編“On Everything Pt.2”やオートチューン加工のヴォーカルが印象的な“Bad Gurl”が登場する前半も刺激的だけど、個人的にはやはりステッピンな後半かな。リード・シングルの“Will You Be There”なんかは明らかに“On The Ocean”を踏襲したバラードだけど、この路線はいいですね。特に、これまたR・ケリーの近作を意識したような、というかメアリー・Jの“All That I Can Say”みたいな激メロウ&スムーズなステッピン・チューン“I'm Good Boo”を目下ヘヴィロテ中。

やっぱり僕はこういうステッピン・ソングみたいなのが一番好きなのかも。先日も、とあるステッパーズ大会のプレイリスト(新旧ステッピン定番曲がズラリ!)を見ていて、自分で妙に納得してしまった。で、こういう地方独自のムーヴメントって、改めていいなぁと。何年か前、ミュージシャンもネットで交流できる時代だからサウンドや流行に地域性を見出すことはもはやナンセンス…みたいに言われてたことがあったけど、いやいや、そんなことはないんです。特にブラック・ミュージックは地元で流行ってナンボの世界。それがこのジャンルの面白いところというか。K・ジョンは、そんなことに改めて気づかせてくれたシンガーなんじゃないかなと思っていたりします。



soul_ringosoul_ringo  at 01:34  | トラックバック(0) |  この記事をクリップ! 男性ヴォーカル | R&B 

Sy Smith / Fast And Curious

Sy女性モノの新作がいろいろ登場してますが、今回はサイ・スミス。サイといえば、2010年暮れに急逝したティーナ・マリーへのトリビュート・ソングをいち早く作り、ネット上で無料配布したことも記憶に新しい。“Teena(Lovergirl Syberized)”と題されたその曲は、ティーナのエピック時代のヒット“Lovergirl”をサイ・スミス流(Syberized)にリメイクしたもの。ロックっぽいオリジナルとはまるで印象の異なるメロウでスムーズな曲に仕上がっていた。が、そもそもこの追悼リメイクを持ちかけたのは、クラブ系マルチ・プレイヤーのマーク・ド・クライヴ・ロウ(MdCL)。そのリメイクがキッカケとなったのか、4年ぶりとなる今回の新作では、全編でそのMdCLが演奏/プロダクションを手掛けている。

サイ・スミスといえば、“サイバー(S(C)yber)”とか“サイコ(Psyko)”をキーワードに、コケティッシュな美声でオーガニックかつフューチャリスティックなネオ・ソウルを披露してきた女性シンガー。と言うより、ブラン・ニュー・ヘヴィーズの2003年作『We Won't Stop』でリードに抜擢されたとか、TVドラマ「アリー my Love」にグループのシンガーとして出演していた…と説明した方がキャッチーかな。ミニー・リパートンに強く影響を受けている人なんだけど、ワシントンDCのハワード大学に通っていた頃にはゴー・ゴーのバンドでも活動していたというだけあって結構タフな一面もあり、独特のリズム感を持っている。10年ちょっと前にメジャーで作った最初のアルバムはお蔵入りになってしまったが(後に『Psykosoul Plus』としてリリース)、その後はインディからコンスタントにアルバムを発表。これまで自身のアルバムでは、ATCQのアリ・シャヒード、ジェイムズ・ポイザー、ヴィクター・デュプレー、ドレー・キング、タイ・マクリンなど、つまりNY、フィリー、DC、ダラスといったネオ・ソウル聖地のプロデューサーと組んできたわけで、そういう意味ではクイーン・オブ・ネオ・ソウル!といった感じだけど、まあ、こういう表現は本人は喜ばないでしょう。近年はフォーリン・エクスチェンジ(FE)一派との交流も盛んで、DVD+CDセットで発売されたFEのファン招待プライヴェート・ライヴ『Dear Friends:An Evening With The Foreign Exchange』でも歌ってましたね。

一方、プロデュースを手掛けたMdCLは、日本人とニュージーランド人のハーフで、UKは西ロンドンのブロークンビーツ・シーンの演奏家/クリエイターとして、IGカルチャーなんかと一緒に評価されてきた奇才。オールド・ソウルやジャズへの愛着を示しながらエレクトリックでコズミックな音世界を創り上げてきた彼の音楽は(歌もの)R&B好きに訴える要素もわりとあって、オマーやサンドラ・ンカケ(←エスペランサ・スポルディングがお気に入りだという仏女性)らが参加したトゥルー・ソーツからの最新アルバム『Renegades』も、かなりいい内容だった。7~8年前に渋谷のカフェかどこかでやったライヴを観た時は、まだまだアンダーグラウンドの人という感じだったけど、近年はサンドラ・セイント・ヴィクターやニコラス・ペイトンなど、わりとデカい仕事が舞い込んできていて見逃せない。10年前ならア・タッチ・オブ・ジャズ一派やキング・ブリットあたりがやっていたことを、今はこの人がやっているというか。ネオ・ソウル・リヴァイヴァルみたいなものがあるとするなら、そのカギを握っているのはこのMdCLなのかも…と個人的には思っていたりして。

そんなMdCLとサイが結びついたのは必然だったというか、今回の新作はサイのミスティックでメロウなムードとMdCLらしいスペイシーでエレクトリックな音色がうまく噛み合っていて、最高にカッコいい。前のめりのスキップ感(?)が独特なMdCLのトラック上でオシャレに尖がるサイさんが何とも素敵。アルバムの楽曲はサイとMdCLの共作なのだけど、先の“Teena(Lovergirl Syberized)”を含めカヴァーも3曲ある。残る2曲のうち、ひとつはビリー・オーシャンのブラコン・ダンス・チューン“Nights(Feel Like Getting Down)”のカヴァー。これを今回サイはインディ・(ネオ・)ソウルの同士とも言えるラサーン・パターソンとデュエットしていて、たまりません。でも、それ以上に僕が興奮した、というか膝を打ったのが、ラー・バンド“Messages From The Stars”のカヴァー。ラー・バンドのオリジナルがまさにサイバー・エレクトロな曲で、まあ、この曲をチョイスしたのはMdCLなんだろうけど、改めてラー・バンドを聴き直してみたら、今までサイが目指してきた音世界ってこれなのかも?なんてことも思ってしまった。それくらいドンピシャ。と、いずれのカヴァーも80年代の名曲ということから想像がつくように、今回の新作のテーマは80sエレクトロニック・ソウル。そういう意味では、70年代ソウル風だった前作『Conflict』と対になるアルバムと言えるのかな?

ちなみに今作、当初は日本のレコード・ショップでは取り扱う予定なしとのことだったので、本人のオフィシャル・サイトから直接購入。ご丁寧にサインまでしれてくれてるんだけど…実は僕、昔から著名人のサインとかに全く興味がなく、ジャケットにサインされたらレコードの価値が下がるとまで考えてしまう変わり者。もちろんサイさんのサインは嬉しいが、サインなしのCDも欲しくて、結局日本でも買えるようになったので、もう一枚買ってしまった(笑)。このデジタル・ダウンロード時代にめんどくさいことやってます…。



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Philadelphia International Classics:The Tom Moulton Remixes

Tomちょっと間があいてしまった。書いておきたいアルバムが本当にたくさんあるのだけど、なかなか書く時間(というか気力ですね…)がない。新譜ではメラニー・フィオナ、サイ・スミス、SWV、ジョイ・デナラーニ(の英語詞盤)、キャリン・ホワイト、Kジョン、テイク・6などなど…と、今後取り上げる予定のものを忘れないように、ここにメモしておきます(笑)。リイシューはもっとあるのですが。

さて、前回は昨年デビュー40周年を迎えたEW&Fについて書いたが、今回は同じく昨年創立40周年を迎えたフィリー・ソウルの総本山、フィラデルフィア・インターナショナル・レコーズ(PIR)のリイシューについてサラッと。PIRといえば、一昨年に日本のソニーから未CD化のアルバムを含む再発が行われるも、昨年は日本も海外もPIRのリイシューに関してはほとんど音沙汰なし。

ところが今年に入って、米レガシー/ソニーからPIRのコンヴェンション・ライヴの模様を収めた『Golden Gate Groove:The Sound Of Philadelphia~Live In San Francisco 1973』が発売。このライヴ、あのドン・コーネリアスが司会進行役なんだけど、ちょうどドンが他界した頃に発売されたのは皮肉というか何というか。そして今年は英Harmlessも一年遅れでPIRの創立40周年を祝って数種のコンピをリリースする。で、まず届いたのが、トム・モールトンがリミックスしたPIR名曲からなるCD4枚組セット。わりと詳細なブックレット(英文ライナー)もついて3,000円以内で買えるお得盤だ。トム・モールトンがフィリー・ソウルをいじったものではフィリー・グルーヴの音源を使った『Philly Re-Grooved』が現時点で第2集(第3集も発売予定)まで出ているけど、PIR音源となると、曲が有名なぶんオリジナルとの違いが判りやすいというか、あの名曲がどうミックスされてるんだろう?っていう興味が二倍増し。

トム・モールトンは言わずと知れたリミキサー/エンジニア。ディスコ・ミックスの元祖的な存在で、リミックスという概念は彼の行為によって生まれたとされる。たまにDJと間違われることもあるが、この人はラリー・レヴァンみたいなDJが現場でプレイするためのダンス・ミックスをシコシコと作っていた、いわばテープ職人。もともとモデルをやっていた人で、ダンス・フロアでいい曲がかかるのに3分ぐらいで終わってしまい、それだと踊るには短すぎるっていうんで、インストの気持ち良い部分などを引き延ばしたりピッチを変えたりして長尺ヴァージョンを作り始めた…っていろんなところに書かれてますが。まあ、そういう意味では非常にDJ的なセンスを持った人ではある。オリジナルの楽曲にさらなる昂揚感を加えたモールトンのミックスはたちまち評判になり、70年代後期にはいろいろなレコードに〈A Tom Moulton Mix〉という文字が刻まれ、ブランド化。しまいにはプロデュースにも乗り出し、TJMというプロジェクトのレコードまで出してしまった。今も現役で、近年はブラン・ニュー・ヘヴィーズやクール・ミリオンらのアルバムをモールトンがいじった“リミックス・アルバム”なんかも出している。

そんなモールトンのPIRリミックス集。11分に及ぶMFSBの“Love Is The Message”など70年代にモールトンが手掛けた伝説的リミックスから、2011年に新たにミックスされた楽曲まで、計31曲が収められている。各曲の尺は6~10分くらい。ノーマン・ハリスのギターやらロニー・ベイカーのベースやらアール・ヤングのドラムスやらラリー・ワシントンのパーカッションやらが浮き彫りにされ、グイグイ迫ってくる感じがたまりません。それぞれの曲がどんな仕上がりなのかは実際に聴いていただくとして。ただ、“リミックス”とはいうものの、普通にPIRの名曲集としても楽しめる内容だったりもします。あと、どさくさに紛れてトランプスにいたロバート・アップチャーチのシングルが初CD化されていたりするのも面白い。Harmlessからは今後、PIR~TSOPの名曲を集めた40周年記念10枚組ボックスも登場予定! カレイドスコープのシングルなど初CD化の曲も多く、特にディスク3が凄い!と先日もFacebookで盛り上がったばかりなのだが、これはまた発売され時に熱く語り倒します(笑)。

ちなみに一連のフィリー・ソウル再発については、HMVさんのサイトでも特集されているので、そちらもどうぞ!



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